入れたく、ない
「イケメンってさあ、いつもあんな感じなの!!」
ッ、パーン・・・コロ、コロコロ…!!!
結城先生がチョコチップメロンパンの袋を勢い良く開けると、中身が飛び出して、勢いよく床の上に転がった。…それをもっさりとしてとても俊敏に見えないくま男が瞬時に拾い上げ、パク、パク、・・・三口で完食?!あまりの早業に見入ってしまったじゃないか!!!
「・・・あんな感じとは?」
すき焼きうどんをつるつるとすすってから、気を取り直して返事を、する。…冷めちゃってもおいしいとか、本当にうちの学食はレベルが高いな。正直箸が止まらない。あまりの出来事の連続に、疲労困憊し過ぎて気が付かなかったけど、…僕はおなかが空いていたらしい。
「もぐもぐ・・・当たり障りのない感じ?んぐ、あれじゃあ問題…むぐ、おきそうっていうかさあ!!んぐんっぐ!」
「もうおきてるwwwわりとまずい奴。」
サンドイッチを食べ終わった森川さんが間髪入れずに物申す。・・・由香の事を言っているのか。
「へらへらしてるからこうなるんだよ!」
「先生に言われたくないですね!!!適当なこと言ってこんな大事にしたくせに!!!」
僕は一度だってへらへらしたつもりはないぞ!!ケーキを食べ終わってお茶をぐびぐび飲んでた河合先生の一言に、思わず反論してしまった。…そりゃ、はっきりしないところは、あった、けれど!!
「まあまあ。穏やかに行こう、とりあえずの嵐は去ったんだから。」
「…そうだね、はやく、メンバー追加の事、決めていかないと、ね。」
早瀬先輩の一言で、僕と河合先生の一発触発の空気が揮発した。三上先輩の声が続いて、少し…気分が、落ち着く。誰かの一言があるのはありがたいことだ。…誰かの声が、届くのは、いいことだ。一人でいると、気が、滅入って、しまう。
「テキトーに選んじゃうとさあ、ひどいことになっちゃいそうだよね、厳選しないとこわそー!」
「熱意がありすぎてもヤバイやーつだ、ぬるそうなとこ抜いていった方がよさげwww」
おにぎりを食べ終わった相川先輩が、テーブルの上に広がっている応募用紙に目を通している。割と素早く選別しているけど、大丈夫なのか。森川さんも手を伸ばして何枚か取り、ざっと目を通して…ザバザバ選別しているぞ。・・・僕も早く食べ終わって選別作業に入ろう。付け合わせのポテトサラダを、テンポよく口に運ぶ。
「まあ、否定的な事書いてる奴と肯定的な事書いてる奴は避けといたほうがよさそうだな。」
一番適当に選びそうなおっさんが偉そうに応募用紙を見て選別している。…なんとも言えない怒りがふつふつと沸いてくるのは、気のせいなんかじゃないはずだ。食べ終わった小鉢をトレイの上にのせ、冷めたお茶をごくりと飲んで、テーブルの上の応募用紙に、手を伸ばすと。
「…けっこう、イベントのクレームあるね。私、なんか…自信なくしちゃった。そんなに進行悪かった?」
テンションの低い声がしたので、顔を上げると、三上先輩の顔が…ずいぶん深刻になっているのが、見えた。なんだかやけに元気が、ない。さっきの桜井さんの猛攻撃を受けたところに、応募用紙のクレーム…。これは相当凹んでいるに違いないぞ。
「何言ってるんですか。三上先輩じゃなかったらあのイベントは乗り越えられなかった!あれは大成功だったんです、自信持ってください。」
あのイベントに不手際はなかった。むしろ、受賞者不在というハプニングに遭いながらちゃんと進行できたことを誇るべきだ。有料イベントでもない、ただの催し物として学園祭を盛り上げるための、割り振られたに過ぎない30分間の出し物。学生会の後やっていたバスケ部の寸劇の滑り具合はちょっと引いたし、休憩中にのぞいたバンド部の演奏はひどくハウリングを起こしていて、体育館の中はパニック状態だった。…自画自賛かもしれないけど、ずいぶんできの良かった出し物に分類されるはずだと僕は思っている。
「そ、そう?」
上目づかいで、アヒル口をとがらせて頬を染めている三上先輩。いいなあ、小柄な人ってこういう表情が非常にかわいらしく見えて正直羨ましい。…僕にはできない表情だ。
「…その凛々しさをなんで普段でも出さない?…出せないとか?うーん・・・。」
森川さんが何やらぶつぶつ言っている。
「・・・あのさあ、イケメンは何、さっきの子、あの子入れたいの、入ってほしいの?学生会に。」
砂糖のついた指を舐め舐め、応募用紙を選別しているおっさんが…こちらを見向きもせずに低すぎる声を飛ばして、来た。普段テンション高くふざけた事ばかり口にするおっさんの真面目なトーンの声に、少々面食らってしまっている僕が、いる。
「…入れたくないです。」
…そう、僕は。
桜井さんに、入ってほしく、ないのだ。
今までずっと、どこか・・・桜井さんの意思を尊重しなければいけない、そういう考えが僕の中にあって…自分の気持ちを前面に出せずに、どこか遠慮していた。自分の気持ちを、はっきりと出すことに、躊躇していた。 桜井さんを疎ましく思う気持ちを、口にしてはいけないと、自分の中で、どこか決めつけていた。
結城先生に聞かれて、初めて…僕は。
誰かを、否定する、言葉を、吐いた。
ノリの良い、軽い雰囲気の中で口に出す、「ダメ出し」とは違う、心の重みがしっかりと乗った、自分の意思がみっちりと詰まった、「拒絶」の、表明。
桜井さんに、学生会を潰されたくない。あんな大暴走する人に…この空間?場所?空気?ぶち壊されたく、ないのだ。桜井さんが入ったら、間違いなく僕は何も言えなくなり、ただの、場を、宥めて終わる、人に。
…僕は、自分の、言いたいことを、言える、この、場所が。
…自分の言いたいことを、口にすることができる、この、時間が。
…言いたいことを、言っても良いと思える人たちがいる、この学生会という集団が。
学生会がなくなるのは…嫌だ!
「・・・じゃあなんで連れてきたの。」
「僕は選別の事をちゃんと伝えて、特別扱いはできないと説明したんです、でも…なんか押し切られて、断り切れないところに河合先生が適当なこと言っちゃって、どうにもならなくなってしまって。」
僕のいう事は何一つ聞き入れないで、自分に都合のいい言葉ばかりを拾い上げて多用して。
自分の言いたいことを伝えて、自分の望むような展開を押し付けようとして。
桜井さんの中では、自分の意見は言うものであり、通すものであり、そこに人の意見の存在は、ない。僕がいようがいまいが、そんなことはお構いなしなのだ。…どうして、僕のそばにいたいと思うんだろう、別に僕じゃなくてもよさそうなもんなのに。
「ええー、そうなの!!あの子の肩を持ってたように聞こえたけど!だってフォローしてたじゃん!入れたいんだとばかり!!!」
「石橋君はこういうタラシ方するのwwwマジ無自覚、テラヤバスwww」
「たらしてない。…僕は、傷つけたくないと思って、言葉を選んでいるだけで、別に…。」
「け!!そういうのがタラしてるっつーんだよ!!」
「河合先生!やさぐれると男が下がりますよ。」
「もー、石橋君がハンパなくモテるからってやっかんだら負けなんだよ?顔の良さは勝負になんないんだからさ!非モテは日陰で光を切望してなんぼでしょ!!」
ブヨブヨしたおっさんの暴言をスマートな早瀬先輩がクールに諫める。なんという頼もしいことか。相川先輩の茶化しはぼちぼち場の空気を和ませるけど、少々引っかかるものがあってだね…。
「なんかさあ、イケメンちょーめんどくさい!!言いたいことぐらいはっきり言えなくてどーすんの!気遣い間違えすぎ!!一回さきちゃんに怒鳴られた方がいいよ!!チクっちゃお!!!覚悟しとけ!ぐふふ!!!」
なんか下品な笑い声が聞こえてきたんだけど?!メンドクサイ?!失礼な!!僕が何を覚悟しなきゃいけないっていうのさ!!怒りで落ち込んだ気持ちが回復してきたぞ!!ありがたいようなありがたくないような!!
「ちょ…!!なんですかそれは!!どういう意味ですか!!さきちゃんって誰の事ですか!!覚悟?!何の!!!」
「結城先生の奥さんだよwあの人めっちゃ気強くてウケるwww石橋君マジ詰んだな、乙www」
あのでっかい車を運転してた女子の事か!!なに、僕もしかして説教されちゃうパターン?!いやしかしあのかわいい女子には一度じっくりと対面しておきたい気もする…!!!
「よーし、イケメンのお仕置きも決定したことだし!一次選考もほぼ片付いたぞ、落選通知ってもう刷ってあったっけ?」
「あるよ!!でも足りるかな、50枚しか刷ってきてない。」
お仕置き?!さらっとものすごいこといってるんだけど?!困惑する僕を置いて、サクサクと作業が進んでいく!!!
「まだ落選通知出さない方がいいんじゃない?金曜まで募集でしょう…あとから応募した子が通るとまた苦情が出ると思う。」
「そうだね、金曜にまとめて靴箱に投函しましょう、私金曜は午前中だけだから都合もいいし。二次審査は来週水曜だったよね?」
仕分けられた応募用紙に手早く落選通知をクリップで留めていく三上先輩!!それを箱に入れていく森川さん!!一次審査通過者の応募用紙に面談予定の紙を重ねる早瀬先輩に、クリップを留めて箱に入れていく河合先生!!!数を数えて足りない分をメモしている結城先生!!結城先生の食い散らかしたごみをレジ袋にまとめてテーブルの上を拭いている相川先輩!!!
めちゃくちゃ息があっているじゃないか!!なんだ、この・・・僕だけ取り残されてる感は!!!
「…よし、とりあえず今日のところはこれで解散!続きはまた明日ね!!」
「はーい、お疲れさまー!」
「お疲れさま。」
「おつwww」
「おつかれー!」
「あー、疲れた!購買でパン買ってこよ!」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
僕は、連なって学生会室を出ていくみんなのあとを…追った、訳だけれども!




