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親友

何とか作業を終えて、生徒会室を出るスコット。既に空には月が出ている。昨日までは、こんな夜道を一人で歩くわけにはいかなかった、と思うと、日常に戻ってきたのだと、より実感できた。だが、そんなスコットが夜道を一人で歩くことはなかった。



「……護衛の仕事は一段落ついたはずだぞ。アーサー」


門の前に立っていたのは、親友のアーサーだった。


「分かっている。だが、友人と一緒に帰宅するなんて、学生にしてみれば普通のことだろ」



微笑みを交わし、二人は星空の下を歩く。黙ったまま歩いていたが、アーサーが口を開いた。



「これから、デュオフィラ選抜戦が始まるとしたら、より激しい戦いが待っているのだろうな」


「そうだろうね。怖いのか?」


「……そうじゃない。君がこの前の代表決定戦に勝ち、アルバート一派は解体された。新たな協力者を見つけることだってできるはずだ」


「そうかな?」



アーサーは頷く。少なくとも、スコットがデュオフィラ選抜戦に勝ち上がるたびに、その恩恵を受けようとする仲間が増えることは間違いないだろう。



「だとしたら、もっと強い護衛だって見つかる。俺よりも安定して強い剣士は、他にもいるだろうさ」


「何が言いたい?」


「……デュオフィラ選抜戦に勝ち残ったアリストスを守護した剣士。その肩書はもちろん名誉だと思うが、俺はそんなものより友人の命が大切だ。もっとまともな護衛を雇うべきじゃないか?」



アーサーの確認をスコットは鼻で笑う。


「何を言っているんだ。確かに、君は安定した強さではないかもしれない。だが……」


スコットは横目でアーサーを見る。



「決して裏切らない剣だ」


「……ほう」


「信じられない剣より、裏切らない剣の方が、今の僕には必要なものだ。しかも、それが実は最強なのだとしたら……何度頭を下げたとしても、護衛を依頼するよ」


「……そうか」



アーサーは腰に下げた剣を手に取り、目線の高さに掲げて見せた。



「では、デュオフィラ選抜戦が始まれば、グリムウッドの剣……存分に振るってみせよう」


「ただし、良い女の前に限る……だろ?」



ヒスクリフの屋敷まで見送り、アーサーは久しぶりに自宅へ帰って行った。これから、彼にはもっと迷惑をかけるだろう。だが、彼ほどの剣士はいない。そして、彼ほど頼れる人間も。



「頼んだぞ、アーサー」


アーサーの背中が見えなくなって、スコットは今度こそ帰宅した。


「ただいまー」



セシリアとファリスが出迎え、他愛のない話を重ねた。また日常に戻ったことを認識するアーサーだったが……。



「さて、今日の夕食はどうしましょうか。ジュリアちゃんとコハルさんに何が食べたいか聞いておいて」


セシリアに言われ、まだこの屋敷に非日常が残っていたことを思い出さなければならなかった。


「分かりました。話すこともあったし、ちょうどいい」



そう、ジュリアとコハルはまだ屋敷に滞在している。生活費もないと言っていたので、恐らくは当分の間、この屋敷で保護することになるだろう。ジュリアに至っては、プロヴィデンスによるダメージで起きることすらできなかった。調子を見ると同時に、これからのことも話さなければ、とスコットはジュリアの部屋を訪ねるのだった。



「……シラヌイ殿。ジュリアはどこに??」



しかし、ベッドはもぬけの空で、彼女の部屋には丁寧に刃物の手入れを行うメイドだけが残されていた。



「お嬢様ならラントレに出かけました。たぶん、近くの森の周りを一周していると思われます」


「あの怪我で……走りに行ったのか??」


「はい。私も止めたのですが、格闘家たるもの練習あるのみ、ということでした」


「また訳の分からぬことを……!!」



足だってまともに動かないはずなのに! スコットは大慌てで屋敷を飛び出し、コハルの言う近くの森までジュリアを探しに行くのだった。

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