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セカンド・プロヴィデンス②

 ジュリアはメイシーに馬乗り状態で自由を制限しながら、拳を振り下ろす。



「どうやら、ニータップを受けた経験はなかったようですね!」


「に、ニータップ??」



 打撃を二発、三発と落とされながら、メイシーは聞き慣れぬ単語に動揺する。しかし、メイシーはそれがどういった技術なのか、理解したようだった。



「貴様、ルクタトルか!!」


レスラー(ルクタトル)ではありませんが、レスリング(ルクタティオ)は基本ですからね!」



 この世界におけるルクタティオとは、組みと投げで戦う競技である。そして、ルクタティオの使い手をルクタトルと呼ぶ。メイシーにしてみると、デュアル・クラフトを自分と同等に扱うジュリアが、別の競技であるルクタティオを使うとは、思いもしなかったようだ。



「姉貴、ブリッジだ!」



 初めてメイシー陣営のセコンドが叫んだ。どうやら、メイシー陣営もルクタティオの展開から逃れる方法をある程度は勉強しているらしい。妹のアドバイス通り、メイシーはマットに押し付けられた状態から背筋に力を込めて、勢いよく体をアーチ状に反らそうとする。これによって、ジュリアのバランスが崩れ、拘束が緩くなったため、メイシーは何とか下から抜け出してみせた。



「……くそっ」


 メイシーが吐き捨てるのも無理はなかった。抑え込まれた状態から抜け出すために、かなりのスタミナを消費してしまったのだから。


「でも、立った状態なら私に分がある!」



 メイシーはジャブで牽制しながら、奥手の強い一撃を放ったが、その瞬間にジュリアの姿が消え、気付くと天井から吊らされたスポットライトの明かりを見上げていた。また倒されたと、と思うとジュリアが視界に入ってきて、ガードの隙間を縫うように次々に拳を落としてくる。


 打撃戦なら負けないはず。なのに、一方的に殴られている展開が、メイシーには認められなかった。



「この程度で……諦めるか!!」



 先程とは違い、馬乗りの状態ではない。立ち上がってみせれば……。メイシーは両手をマットについて体を起こそうとするが、それは防御を放棄することと同じである。至近距離で顔面を殴り付けながらも、メイシーは立つことを優先し、ジュリアのルクタティオから逃れたらすぐに距離を取るが、そのダメージで体は重かった。



「次は……倒されはしない!!」


「では、わたくしは立ったまま貴方を圧倒してみせましょう」



 自信に溢れたジュリアの表情に、メイシーは刃のような視線を向ける。それでも、ジュリアから余裕が消えることはない。今度は、じりじりとジュリアの方から接近し、メイシーは恐れから後退を強いられた。ファースト・プロヴィデンスの展開と、まったくと言っていいほど逆の展開だ。


 あっという間に金網際まで追いつめられると、ジュリアから前手のジャブを繰り出され、メイシーは顔の位置を揺らして捌く。が、ジュリアの体が一瞬沈んだ。タックルがくる、とメイシーは手を下げて、ジュリアの体を受け止めようとしたが、バチンッと頬に痛みが。



「しまった……!!」


 タックルはフェイント。ガードを下げさせるための伏線だったのだ。


「もう一発!」



 ジュリアがさらに左右と連続で拳を放ち、メイシーは反射的に屈みながら、移動して金網際から離脱した。だが、その動きは余裕があるものではない。焦燥感に溢れるメイシーにジュリアは言う。



「さぁ、キックボクシング(デュアル・クラフト)をやりましょう。逃げるなら、ロゼスの資格はないのでしょう?」



 メイシーは奥歯を噛み締める。いつもなら、この感情を拳に乗せて叩きつけるが、今回はそうはいかない。それがもどかしく、焦る感情を加速させた。



「なめるなよ!」


 メイシーが右ストレートを放つと同時に、ジュリアが身を反らして躱しつつ、爪先を突き出す。それは、メイシーの肝臓部に突き刺さる。


「うぐっ!!」



 体を丸めると、今度はジュリアのハイキックが飛んできた。反射的にガードで防いだものの、視界が歪むほどの威力で、意識が遠退きそうになる。


 すると、体を低くしたジュリアの姿が。またタックルがくる。いや、違う! メイシーが迷っている間に、二度のジャブによって顔面が叩かれた。それでも、膝を折ることはない。折るわけにはいかなかった。



「デュアル・クラフトで戦うんじゃなかったのか!?」


「その発言から私は一度もルクタティオは使っていませんよ?」



 タックルのフェイントを何度も見せてくるくせに……!! メイシーが恨み言を飲み込んだ瞬間、ボディにフックを叩き込まれる。



「絶対に立ち技で……負けるものか!!」



 メイシーが必死に繰り出した左ストレートは、ジュリアを捉えた。ジュリアの動きが鈍った瞬間、チャンスを逃がすまいと前に出るメイシーだったが……。



「騙したな!!」


「戦いは心理戦。当然のことでしょう!」



 またもタックルで倒されたメイシーに、ジュリアは笑う。そこから、さらにパンチを落とされ、メイシーの体力も意識も削られつつあった。


 もう一度立たなくては。


 尽きそうなスタミナを使って、もう一度立とうとするメイシーだったが、そのタイミングでセカンド・プロヴィデンスの終了を告げるゴングが鳴らされた。

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