セカンド・プロヴィデンス①
一分間のカームに入り、スコットたちは駆け込むようにコノスフィアの中へ入る。
「大丈夫か!?」
ジュリアを丸椅子に座らせつつ、すぐにタオルで汗を拭ってやった。
「……分かってはいましたが、カウンターのテクニックが半端ではありませんね」
「足の調子は??」
できることなら、今にでも回復魔法をかけてやりたいが、プロヴィデンス中の使用は反則となる。ただ、ジュリアは疲労感の見える笑みを浮かべた。
「言ったでしょう。万全です、と」
「かなり追いつめられているように見えたぞ。勝算はあるのか?」
プレッシャーを与えてしまうかもしれないが、この状況では遠慮していられない。ジュリアは小さく頷く。
「キックボクシングの展開では、向こう分があるのは確かですわ。でも、心配ありません。ここから巻き返しますので」
しかし、スコットにしてみば、ジュリアは一方的に攻められているようにしか見えなかった。逆転する展開は想像すら難しいと言える。ただ、コハルは冷静に水の入ったボトルをジュリアに差し出した。
「お嬢様、お水です」
ジュリアは口の中に水を含むと、すぐにボトルを返す。それを受け取ったコハルは無表情にジュリアへ声をかけた。
「お嬢様、私にはプロヴィデンスにおける戦いの技術は分かりませんが……」
どうやらアドバイスがあるらしい。彼女は言う。
「勝負所を間違えないでください。自分の技術を試したい気持ちは分かりますが、スコット様たちの心臓が持ちませんよ」
どういう意味なのだろうか。スコットはコハルに説明を求めるような視線を向けるが、彼女はそれ以上語らず、ジュリアもただ頷くだけだった。
「セコンドアウト!」
裁定者がプロヴィデンスの再開を告げる。向こうはどんなアドバイスがあったのだろうか。アルバートたちは早々にコノスフィアから出て行った。
「ジュリア。僕も戦いのことは分からないが……君ならどんな逆境も跳ねのけると信じているからな」
「ええ、スコット先輩。必ずその信頼に応えてみせますわ」
スコットたちもコノスフィアを出て、またも金網越しにジュリアの見守るしかなかった。
「せめて、魔法で援護できれば……!!」
「それが許されていたらプロヴィデンスの意味がなくなるよ、スコット……」
再びジュリアとスコットが向き合う。金網の入り口にロックがかけられたことを確認してから、裁定者が右手を振り上げた。
「セカンド・プロヴィデンス……エンゲージ!!」
裁定者が手刀を落とすと同時に、今度はメイシーが一気に前へ出た。じりじりと真っ直ぐ前へ詰め寄ってくるメイシーは不気味である。ジュリアはプレッシャーから逃れるように、後ろに退がり、金網際に追いつめられたら、横へステップを踏んでスペースを確保しなければならなかった。
「まずいな。このままでは、ファースト・プロヴィデンスと同じ展開だ」
「それだけ実力差がある、ということなのだろうか?」
アーサーは無言でそれを肯定した。
ジュリアは上へ下へと蹴りを繰り出し、何とか突破口を見出そうとするが、メイシーはどれも防いでしまい、少しずつ距離を詰めてくる。このままでは、どこかのタイミングで捕まってしまうに違いないだろう。
一分ほど、緊迫した距離の測り合いが続いたが、メイシーは踏み込み切れないジュリアを笑って見せる。
「逃げてばかりか、アリストスの娘。そんなやつにロゼスを目指す資格はない!」
「仰る通りですわね。そろそろ私も一発ぶち込んでやりますわ」
しかし、ジュリアの蹴りは捌かれてしまう。彼女の技はメイシーに届かないのか……と思われたが、ジュリアが蹴りのフェイントから踏み込んで右ストレートを放つ。
「やった!!」
スコットが歓喜の声を上げる。ジュリアの拳がメイシーの顔面を確かに捉えたのだ。同時に会場に歓声の波が荒れ狂い、ジュリアの挑発的な笑みを浮かべた。
「キックボクシングの試合だったとしても、貴方には負けません」
「……一発入れた程度で調子に乗るなよ!」
メイシーは鋭い視線を返し、またも距離を詰めようと前進した。ジュリアの戦法は、デイジーを倒したときと変わらない。そのせいか、メイシーも警戒していたらしく、深い一撃とはならなかった。だとしたら、再び距離の測り合いが再開される。そう思われた、そのときだった。
「なに!?」
ジュリアの体がふっと沈んだかと思うと、メイシーの前足に触れた。ちょうど膝の裏に手を回し、同時にもう片方の手でメイシーの肩辺りを押し込み、バランスを崩させる。
メイシーは何が起こったか理解できない様子で、驚きの表情を浮かべたまま、ただ背をマットに打ち付けるのだった。倒れたメイシーに覆いかぶさって、体の自由を奪ったジュリアは上半身を起こして、笑みを落とす。
「さぁ、ここからが本当のプロヴィデンスの始まりです。お覚悟はできてます?」
倒れた状態でジュリアを見上げるメイシーは、自分がなぜ倒れたのか、まだ理解できていなかった
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