ファースト・プロヴィデンス
開始直後、二人はお互いの様子を見ると思われたが、ジュリアは一気に距離を詰めた。
「はっ!!」
そして、怪我が心配される右の蹴りを繰り出す。メイシーの脇腹に吸い込まれるような一撃と思われたが、彼女は素早くガードを下げて防いでみせた。
「あの馬鹿……!!」
スコットは、まるで自分の足に痛みが走ったかのように顔を歪める。が、ジュリアは足を戻すと同時に、ガードが下がったメイシーの顔面へ右ストレートを突き出す。顎を打ち抜いた。スコットからはそう見えたが、メイシーは最低限に身を反らし、躱していたようだ。
「まずい!」
隣のアーサーが叫び、何があったのか、と焦るスコットだったが、ジュリアは素早く距離を取っていた。
「何があったんだ??」
「ジュリア嬢の打ち終わりに合わせて、向こうも右を出す寸前だった。いわゆる、カウンターだな」
「な、なるほど。最初の五秒で紙一重だったわけか……」
アーサーの「そういものさ」という声は、歓声にかき消される。そんな中、ジュリアは体を揺らすようにフェイントを見せながら、メイシーの右へ右へと移動する。
対し、メイシーはコノスフィアの中央を陣取り、ジュリアの動きを見据えていた。最初の攻防に勢いがあったため、激しい戦いが続くと思われたが、距離を図り合うような時間が続く。
「なぜジュリアは攻めない?? いや、メイシーもジュリアを見ているだけで動かないようだ」
「恐らく、ジュリア嬢も先程のカウンターを警戒して、容易に飛び込めないのだろう。逆にメイシーは相手が飛び込んでくる瞬間を待っているはずだ」
しかし、見合っているだけでは裁定者に注意を与えられてしまう。どのようにプロヴィデンスが動くのか、とスコットが固唾を飲むと同時に、ジュリアが踏み込んだ。
またも怪我しているはずの右足で躊躇いなく蹴りを放つ。メイシーの足を払うような低い蹴り。だが、メイシーが足にダメージを受けながらも、右の拳を伸ばしてきた。
パチンッ、と乾いた音と同時に、ジュリアの体が傾く。メイシーのパンチによって顔面が破壊されたように見えたが、どうやらジュリアは手の平で拳を遮っていたらしい。ただ、その威力によってジュリアの姿勢は崩れていた。
「死に晒せ!!」
メイシーが追撃のため、距離を詰めてきた。左、右と連続して拳が放たれ、ジュリアを仕留めると思われが、彼女も後退して難を逃れようとする。ただ、退路は金網によって遮られてしまう。背中を金網に預けたジュリアに、メイシーはさらなる攻撃を。軽く左の拳で顔面を突き、ジュリアのガードを上げさせた後、強烈なボディフックを叩き込んできた。
「くっ……!!」
ジュリアは一瞬体を丸めたが、すぐに横へステップを踏んで、コノスフィアの中央へ移動する。振り返るメイシーは、ジュリアのダメージを確信して笑みを浮かべていた。
「物凄い音だったが、ジュリア嬢は大丈夫なのか?」
「信じるしかない……」
スコットとアーサーは手に汗を握っているが、コハルに関しては表情一つ変えることなく、ただコノスフィアの中を眺めていた。どっしりと重心の低い構えで、メイシーはジュリアへじりじりと接近していく。ジュリアは至近距離の攻防を避けるように、右へ左へステップを踏みながら接近を許さなかった。
「だが、このままではファースト・プロヴィデンスは相手に取られてしまうぞ」
「やはり足の調子が……」
スコットの心配をよそに、ジュリアは再び蹴りを放つ。またもメイシーの足を払うような一撃だったが、それは先程と同じ展開を予想させた。しかし、ジュリアも同じ過ちを繰り返す気はないらしく、すぐに距離を取って反撃を逃れる。
再び、ジュリアは距離を縮め、左足をメイシーの鳩尾へ向かって突き出すが、わずかに身を捻られて急所への直撃は避けられてしまった。さらに、ジュリアは低い蹴りのフェイントから、ハイキックを繰り出す。メイシーの頭が弾かれるように揺れ、スコットは期待に強く拳を握ったが、それはガードによって防がれていた。ただ、メイシーの防御を崩すため、さらに多彩な蹴り技でジュリアは攻め続けた。
「ジュリアの方がアタックの回数が多い。これならファースト・プロヴィデンスを取れるかもしれない!」
「どうだろうな。確かに攻撃の数は多いが、明確なダメージは与えていない」
プロヴィデンスの判定は各ターンごとに優劣を付けて、三回のうち二回を制した方が勝ちとなる。できれば、このファースト・プロヴィデンスは勝ちを取っておきたいのだが……。
「まずい!!」
スコットは思わず叫ぶ。ジュリアの蹴りに合わせて、メイシーがパンチを放ったのだ。そこからは、先程と同じ。顔面は守ったものの、ジュリアは金網際まで追いつめられ、ボディを叩かれた上に、頭を左右から拳を叩きつけられる。さらには、両腕で頭を抑え込まれ、膝を突き上げられた。
ただ、ジュリアも負けてはいない。メイシーの拘束を解くと同時に、肘を振り回すが、それは敵を捉えることはなかった。軽やかな舞のように、メイシーは後ろに飛んで距離を取っていたのだ。
「雑魚が。このまま壊してやるよ」
メイシーが獲物を追いつめたような殺気のある笑みを見せたところで、ファースト・プロヴィデンスの終わりを告げるコングが鳴る。誰がどう見ても、勝ちはメイシーに付く展開となった。
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