到着!
「ふぅ。助かったよ、スコット」
残った魔力でアーサーの治療を行い、ジュリアも無傷で戦いを終えられた。厳密にいうと、ジュリアは足の指に不安はあるが……ほぼ、理想の形でプロヴィデンスを迎えられると言えるだろう。
「……お、俺は」
しかし、アルバートがゆっくりと立ち上がる。
「まだ……やるつもりか?」
スコットの問いかけに、アルバートは無言で学園の方へ歩いて行く。彼も擁立者であり、プロヴィデンスに立ち会わなければならない。ここに勝機はないが、自らのロゼスにすべてを賭けようと判断したのだろう。
「僕たちもそうだ。あとは、ジュリアが……」
これまで、血が滲む戦いが繰り返されたが、すべてはプロヴィデンスに集約する。どれだけ前哨戦を優勢に進めたとしても、プロヴィデンスにジュリアが敗れるのであれば、すべてが敗北となるのだ。
「さぁ、先輩方。ヒスクリフ学園はすぐそこです。行きましょう!」
すべてが彼女の肩に背負わされている。それなのに、黄金のように眩しい笑顔を見せるジュリアに、スコットは力強く頷くのだった。そして、学園まで辿り着くと……。
「さぁさぁさぁ! 今日は学園代表ロゼス決定戦だよ! ドリンクはもちろん、おいしいバーガーも揃っているよー!!」
出店が限りなく続くように並んでいる。その様子は、まるでフェスティバルの会場であった。
「ああ、そうだった……。プロヴィデンスの当日は、学園も一般開放されて、この有様だったのだ」
既に疲れ果てているのに、賑やかな雰囲気は、心が折れそうになった。
「いや、ここで僕が倒れるわけにはいかない。行こう!」
頷く二人だったが、黒いスーツを着た大人たちがやってきて、急に取り囲んできた。
「本日のプロヴィデンスに出場する、スコット様とジュリア殿ですね?」
「ああ」
「主催者です。万が一のこともあるので、お迎えにきました」
「ふう……。やっと役目を終えたと言うべきか。案内をお願いする」
学園に辿り着いてしまえば、妨害行為は許されない。このように、主催者が保護してくれるのだ。
「開始まで時間がありません。お早めに」
裁定者たちに急かされるが、ジュリアがなぜか落ち着かない調子で、何度も振り返っていた。
「どうした? 何か心配事があるのか?」
「いえ、その……これからプロヴィデンス用の衣装に着替えなければならないのですが、一人だと大変なので。コハルが来てくれないか、と」
なるほど。デイジーと戦ったときも、ジュリアは着替えに手間取っていた。フィストガードを装着する前に、バンテージを手に巻くものだが、それだって時間がかかることくらいスコットだって知っている。
「しかし、さすがにシラヌイ殿はここまで……」
「では、スコット先輩が着替えを手伝ってくだいますか?」
「なっ、ぼ、僕が!?」
「ええ、それ以外に誰が??」
完全にアーサーが気配を消す中、スコットはどうすべきか迷いすぎて目を回しそうになっていた。
「ぼ、僕はアリストスだ。し、紳士なんだぞ!! それが、いや、でも……時間がいないのか!」
だとしたら、自分が手伝うしかない。半ばスコットが覚悟を決めた、そのときだった。
「お待たせしました、お嬢様」
「う、うわぁ!?」
血まみれのメイドが突然背後に現れた。裁定者たちがすぐさま対応しようとするが、アーサーが素早く「我々の仲間だ」と説明し、関係者であることを示す、首からかけるストラップを受け取った。
「シラヌイ殿、どうしてここに??」
「どうして? それはもちろん、お嬢様のお着替えを手伝うためです」
「そういう意味ではなく、屋敷を包囲した敵は……?」
「ああ、あのクズどもですか。半分くらいが肉塊になったところで、生き残りは無様な犬のように逃げ出しましたので、すぐにお嬢様のお手伝いを、と思い、駆け付けた次第です」
「ば、ば、ば……」
化け物、という言葉を飲み込むスコットだが、ジュリアが指先で髪を後ろに流すと、豪快に高笑いを上げた。
「さすがはコハルですわ!! これで私の勝利は決したも同然。さぁ、裁定者の皆さん。控室に案内をお願いします!!」
黒いスーツの大人たちと血まみれのメイドを連れて歩くジュリア。同伴するべきところだが、スコットは異様な光景に我を失いそうになっていた。
「アーサー……。僕はとんでもない人をロゼスに推薦してしまったのでないだろうか?」
親友に問いかけると、彼は困ったように眉を寄せた。
「いまさら何を言っているのだ?」
決戦まで、一時間もないところまで迫っていた。
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