これがコウヅキ家のやり方!
「アーサー、立てるか??」
親友が満身創痍であることは知っている。だが、この絶望的な状況で頼れる相手は彼だけだ。それなのに、アーサーは笑顔を浮かべつつも、痛みに耐えるような苦悶の表情を見せた。
「ああ。どれだけやれるか分からないが、剣が折れるまで……いや、無理かも」
「アーサー! 頼む、君だけが頼りなんだ!!」
崩れそうなアーサーの両肩を揺すりながらスコットは懇願するが、その表情はかなり苦しそうだ。
「一人二人なら相手できるだろうが、それ以上は厳しいな」
「それでは足りない! 聞こえるだろう、この大行進の音が!! たぶん、敵は百を超えるぞ!!」
二人は耳を澄ませる。最後の最後で物量で負けるなんて、信じたくはない。実際、どれだけの敵がやってくるのだろうか、と息を飲んだが……。
「スコット、俺には何も聞こえないぞ」
「……確かに、静かだな」
改めて耳を澄ませるが、人の気配ではなく、冷たい風の音が流れるだけ。思わず、二人はアルバートの顔色を窺った。
「……おかしい。確かに金を配って、ここに来るよう指示を出したのに」
どうやら、本当に金で買われた援軍がやってこないらしい。二人だけでなく、アルバートも困惑しているようだが、どこからか高飛車な笑い声が聞こえてきた。
「ふ、ふふっ」
この状況、誰が笑っているのだろうか。それは、すぐに判明した。
「うふふ。ほほ、ほほほ!!」
「ど、どういうことだ??」
笑いの主、ジュリアに問いかけるスコット。しかし、彼女はさらに盛大な高笑いを上げるのだった。
「おーほほほほっ!!」
「何がおかしい!?」
思わず、アルバートも叫ぶと、ジュリアはおかしくてたまらない、と言わんばかりに腹を抑えながら言うのだった。
「嗚呼、おかしい。おかしくて堪りませんわ! いいですか、アルバート先輩!!」
ビシッ、とジュリアがアルバートに人差し指を向ける。
「金で買った仲間など、より大きな金で簡単に離れてしまうもの!! ここにやってくる、貴方の仲間は一人もいない、ということです!!」
ジュリアに指摘に、アルバートは理解が追いつかないようだったが、スコットは分かった。すべてを理解した。
「ジュリア、まさか……君が!!」
「ええ、買・収・完・了! ですわ!!」
「な、なんだとぉぉぉぉぉ!!」
崩れ落ちるアルバートをさらに踏み付けるがごとく、ジュリアは言った。
「中堅貴族が、コウヅキ家の資金力を舐めないでくださいまし! 金には金で対抗する。相手の資金が尽きるまで、金を積むだけ!! 昨日のうち、アルバート先輩に与する生徒たちには、既に賄賂を配り終えています。全員がお金の力の前に屈して、貴方を裏切ったため、誰一人して助けにやってきません。おーほほほっ!! これがコウヅキ家のやり方ですのよー!!」
勝ち誇るジュリアに、スコットは耳打ちする。
「お、おい。君のお父上は君の問題には首を突っ込まないんだろ? どうやって資金を調達したんだ??」
「ええ、問題には協力いただけませんが、可愛い娘のために生活費の前借くらいは許してくださいます。これで来月分の生活費を使い切ってしまったので、コハルに怒られてしまいますが……まぁ、スコット先輩に養ってもらうので問題ないでしょう」
「……ああ、そうだな。問題ない」
スコットは自分でも、どういった感情を抱いているのか分からなかった。呆れているような、尊敬するような、悲しい気もするし、嬉しい気もする。こんな感情は初めてであった。だが、勝ちは勝ちだ。
「今度こそ、道を譲ってくれ。アルバート!!」
もはや、立ち上がる力もないはず。スコットはそう確信していたが、アルバートはギロリと目を向いて、敵意を向けてきた。
「誰が貴様などに道を譲るか、スコット・ヒスクリフ!!」
アルバートが立ち上がると、魔法の杖を取り出し、その先端に魔力を集中させる。
「言っただろう! 俺はこのデュオフィラ選抜戦にすべて賭けている。たった一人になろうとも、貴様に勝つためなら、メイシー……いや、あの二人の姉妹のためなら、死ぬまで戦ってやる!!」
「どうして、そこまで……!!」
スコットが問いかけるよりも先に、アルバートは杖の先から紅蓮の炎を繰り出すのだった。
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