グリムウッドの剣
アーサーの表情に、一切の無駄が消える。ただ、目の前の敵を見据え、静かに剣を構えた。
「……ほう」
その姿を前にして、小さく感嘆らしき呟きを漏らす閃光のロベルト。彼も一流の剣士である。アーサーの変化を一目で理解し、認識を改めたようだ。
「よし、強いときのアーサーだ!」
スコットもアーサーが確実に実力を発揮している、と判断したらしい。
「これで一安心、ということでしょうか?」
ジュリアはスコットが笑顔で肯定してくれる、と思っていたようだが、彼は曖昧に頷いた。
「……そう言いたいところだが、相手は閃光のロベルト。その才はもちろんだが、アーサーよりも経験を積んだ剣士だ。簡単ではないが、今日のアーサーなら、やってくれるはず!」
静かに向き合う二人に動きがあった。
「しゃっ!!」
ロベルトが凄まじい踏み込みと同時に、振り上げるような斬撃を放つ。それはアーサーの左脇から右肩へ抜けるような、鋭い一撃に思えたが…。
「か、躱した!!」
スコットが思わず叫んだ通り、アーサーは半歩退がって躱すと同時に、反撃の横一閃を放つ。やや間合いが遠かったせいか、刃は届かず、逆にロベルトの剣先がアーサーの喉元へ突き出される。だが、アーサーは頭を傾けて、ロベルトの一刺しを回避すると、距離を取ってみせた。
「よし、また躱したぞ。さすがはグリムウッド一寸の見切りと言われただけある!!」
それは彼が頻繁に剣術大会で優勝していたころ、どんなに速い攻撃も寸前で躱していたため、付けられた通り名である。まさに、スコットが知る無敵のアーサーが戻っていた。
「若い割にはやるな」
さすがのロベルトも賛辞の言葉を送るが、アーサーは小さく微笑む。
「閃光のロベルトから評価の言葉をいただけるとなれば、我が剣も捨てたものではないな」
「ああ。誇ると良いぞ、若き剣士よ。その誉れを抱き、あの世でも自慢すると良い」
「ふむ。できれば、この世で美女に自慢したいところだ」
それを余裕と受け取ったか、ロベルトの表情に険しさが浮かび、次の瞬間、再びあの踏み込みで間合いを詰めてきた。
「しゃっ!!」
低い姿勢からの両足を切断してしまいそうな剣撃。だが、アーサーも一寸の見切りを見せるが……その大腿部が切り裂かれてしまう。
「なんの!」
それでも、アーサーが突きを返すと、ロベルトの頬に一筋の赤が。
「今の一瞬で、二度も突きを放つとは……」
ロベルトは頬の血を拭いながら、笑みを浮かべるが、そこには確かな驚きがあった。アーサーも緊張感が圧しかかるのか、彼らしくない不自然な笑みを浮かべる。
「グリムウッドの魔剣、二段突きである」
「面白い。……こうか?」
驚くべきことが起こった。ロベルトはアーサーに向かって踏み込んだかと思うと、今見た剣を再現してみせたのである。さすがに、自らの技で命を落とすことはなかったが、アーサーの右肩から出血が。
「恐ろしいお方だ。技の学習スピードも閃光レベル、ということだな。……だが、私はまだ貴方が閃光と呼ばれる本当の所以を見ていないようだが?」
「その通り。では、今度はこちらが見せてやろう」
ロベルトが踏み込むと同時に、二人の間に煌めきが走る。それは、斬撃とは捉えられないほど、滑らかな輝きであり、一方に向かうものでなく、複数の光であった。ふっ、と光が消えると、アーサーの胸板と右腕から血が滴り出す。
「なるほど……。これがロベルト殿の閃光の剣。確かに、目で追うことはできなかった」
一瞬の出来事に、スコットは何があったのか理解できなかった。だが、致命的な一撃があったらしい。アーサーはその場で膝を折ってしまうのだった。
「アーサー!!」
思わず助けに入ろうとするスコットだったが、その肩をジュリアが掴んで止めた。
「何をする、ジュリア!」
「先輩……よく見てください」
彼女に促され、二人の様子を改めて見る。膝を付くアーサーに、ロベルトが止めを刺すように思われた。が、圧倒的に有利と思われたロベルトが剣を鞘に戻す。
「見事であった、アーサー・グリムウッド」
「……ふっ。貴方の方こそ、凄まじい剣捌きでしたよ」
二人は笑みを交わすと、ロベルトは踵を返し、アルバートの横を通り過ぎようとした。もちろん、アルバートは仕事を放棄されたとロベルトを引き止める。
「どこへ行く、ロベルト! アーサーに止めを刺せ!!」
「敗者は去るのみだ。これ以上、恥をかかせるな」
そう言って立ち去るロベルトの足元には、血の跡が続いていた。何が起こったのか、アルバートにも理解できなかったようだが、二人が交錯した瞬間、アーサーの剣がロベルトの戦意を奪うほどの一撃を与えたらしい。切り札と言える閃光のロベルトが退場し、アルバートは瞳を揺らす。スコットは勝負あったと判断した。
「アルバート、道を譲れ。決着はプロヴィデンスで付けよう!」
すべての戦力は失われたはず。もし、彼が一人で戦うのなら、スコットはその決意を受け止める覚悟はあった。しかし、彼は言う。
「俺はこの日に賭けてきたんだ。父上に勝利を……そして、メイシーに栄光を捧げるため、あらゆる準備をしてきた! ロベルトが負けたからと言って、俺の手駒が尽きたと思うなよ!」
アルバートが歪んだ笑みを浮かべ、学園の方に人差し指を向ける。
「金で動くやつは、これだけじゃない。今からくるぞ。学園から……金欲しさに俺の言うことを聞くやつらが!! お前たちをこれ以上進ませないために、十分な数だ。……覚悟するといい!!」
それが、どれだけの数なのか。スコットには百を超える敵の足音が聞こえる気がした……。
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