今度こそ……!!
スコットたちは血だまりの上を走り、悲鳴の中を駆け抜けた。四方から襲われる気配を感じ取ったが、何事もなく屋敷から離れることに成功する。十分に屋敷から離れたところで、アーサーがほっとしたように言った。
「ファリスは屋敷に置いて正解だったな。シラヌイ殿の援護もしてくれるだろうし」
しかし、スコットの表情は少しも明るくはない。
「いや、アルバートの作戦に上手く乗せられてしまった!」
「どういうことだ??」
「完全にシラヌイ殿と分断されてしまった。恐らく、学園に辿り着く前に……アルバートが待ち受けているはずだ」
「……なるほど」
ただ、あの状況では、コハルに道を開いてもらうしかなかった。下手に協力して戦っていたら、彼女の足でまといになっていただろうし、無駄に時間を費やしてプロヴィデンス開始に間に合わなかっただろう。
だが、最大の障壁である閃光のロベルトが待ち受けていると思うと、スコットは不安で仕方なかった。そして、スコットの予想は的中する。学園まで数分も歩けば、というところで、アルバートと閃光のロベルトが立ちはだかったのだ。
「スコット。今日こそ、お前に土の味を知ってもらうぞ」
「アルバート……!!」
ふらりと前に出てくる閃光のロベルト。彼は既に勝ちを確信しているのか、余裕の笑みを浮かべていた。
「スコット先輩、ここは私が……」
ロベルトを退けるとしたら、ジュリアしかいないが、もちろん彼女を戦わせるわけにはいかない。
「いや、僕がやる。魔法がどれだけ通用するかは分からないが……最悪、君だけでも逃げるんだ」
二人は視線を交わし、お互いを無事に生かす術を全力で考えているようだった。しかし、そんな二人の視線をアーサーが横切って前へ出る。
「そんな最悪が起こらないためにも、この俺がいるんだろう?」
「あ、アーサー……行けるのか!?」
「やれるところまで、やってみるさ」
そう言って爽やかな笑顔を見せたアーサーは、ロベルトの方を見て剣を抜く。
「お相手願おうか」
発言だけなら強者のそれであるアーサーだが……。
「しゃっ!!」
結果は前回と同じだった。ロベルトが踏み込むと同時に放った一閃が、アーサーが握る剣を払い落とす。空となった手を確認したアーサーは、難しい計算が解けなかったような顔で振り返った。
「すまん、スコット。やれるところは、ここまでのようだ」
「……いや、よく頑張ってくれたよ。君は」
スコットは魔法の杖を取り出すが、ジュリアに制止される。
「ダメです、スコット先輩。あの速さの踏み込みを見せる閃光のロベルトは、魔法も回避するに違いありません。だとしたら、やつの一撃を躱す望みがある、わたくしの方が勝ち筋が残されていますわ」
「それこそダメだ。確かに僕はやつに勝てないかもしれない。だけど、君はプロヴィデンスのために、無傷でコノスフィアに立つべきだ。もし、デュオフィラ選抜戦に出れないものだったとしても、君はロゼスとして強さを証明してくるんだ!」
戦士としての誇りだけでも。そう主張するスコットだが、やはりジュリアは引き下がらない。
「いいえ。私はここから逃げません」
彼女はむしろ前へ出た。
「ここまで命を張って戦ってくれたお二人を置いて、戦ったところで、私は自らを誇れません。そして何よりも……わたくしであれば、この状況を切り抜けても尚、プロヴィデンスに勝利してみせますわ!」
ジュリアの宣言は無謀でしかなかった。それでも、彼女の目は本気そのものであり、覚悟に満ちている。そんな彼女を祝福するように降り注ぐ朝日は美しく、スコットは無意識のうちに目を奪われてしまった。いや、スコットだけではない。隣で立ち尽くしていたアーサーが呟きを漏らす。
「ふっ、ジュリア嬢……良い女じゃないか」
その言葉に、スコットとジュリアが勢いよく振り返る。あまりに激しい反応に驚くアーサーだったが、ジュリアが強い口調で確認する。
「アーサー先輩、今なんと!?」
「え? だから、ジュリア嬢が良い女だと……あっ!!」
別に悪いことを言ったわけではないのに、口元を隠すアーサー。それに対し、ジュリアは満足げに笑みを浮かべた。
「言いましたわね、アーサー先輩!」
そして、彼女は端に落ちたままだったアーサーの剣を拾い上げると、彼に向って放った。
「さぁ、アーサー先輩! 貴方の剣技……わたくしに期待させてくださいな!!」
剣を受け取ったアーサーは笑みを浮かべる。それは、今までのように、ただ爽やかなだけな笑みでなく、不敵で挑発的な何かが含まれていた。
「よかろう。今度こそ……グリムウッドの剣、お見せしよう!!」
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