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最強メイドの出撃

「これでは屋敷を出た瞬間に取り囲まれて、なぶり殺しになるぞ。どうすればいいんだ!!」


 頭を抱えそうなスコットだったが、目を背けるわけにはいかないと分かっている。ただ、どうしてもこの数の敵を相手にして、無事に学園まで辿り着く方法が見つからなかった。


「安心してください。私が道を作ります」



 しかし、非常に落ち着いた声がスコットにかけられた。


「し、シラヌイ殿!」


 先程まで、普通のメイド服だったコハルが、とんでもない重装備で現れたのである。腰のカタナ。背中でクロスされた状態で担がれた二丁のパウダー・カノン。さらに、その下に二本の巨大なナイフが固定されていた。



「幸いなことに、先程のセシリア様の魔法によって、敵の配置が分かりました。私が正面を遮る敵を確実に排除しますので、皆さんは道ができたら駆け抜けてください」


「本気であの数を一人で相手するつもりですか??」


「ええ、本気です。昔はもっと大勢の敵を相手したこともあるので」



 一個小隊も問題ないと言っていたが、冗談ではなかったのか。信じられない話だが、それを疑えないほどコハルは落ち着いている。まるで、これから買出しに出かけるような、余裕の態度なのである。コツコツ、と音を立てながら、扉の前に移動したコハルは、ドアノブに手をかけると、くるりと振り返った。



「それでは、スコット様……お嬢様をよろしくお願いします」



 あくまで、静かに伝えると、コハルは勢いよく扉から外へ飛び出すのだった。





 ヒスクリフ家の屋敷を取り囲むのは、アルバートに雇われた傭兵たちだった。


「隊長、完全に屋敷を包囲しました」


「分かった。木の上に魔法使いの配置を忘れていないだろうな?」


「もちろんです。敵が出てきたら、魔法で狙撃することはもちろん、正面の兵にはパウダー・カノンを持たせてあります」


「うむ。パウダー・カノンは高価だからな、できるだけ使わないように言っておけ」


「はい」



 彼らは金さえ積まれれば、様々な荒事を武力で解決してきた。誰もが手練れの兵士で、長年培った統率力もある。何の心配もないと思われたが、唐突に屋敷の扉が開いた。



「な、なんだ……あれは?」



 それを見て、隊長は目を疑う。いや、雇い主から聞いてはいたが、信じられなかった。パウダー・カノンを担いだ黒い衣装のメイドが、一人で堂々と出てきたのだから。



「金という餌に釣られた憐れな犬のような、愚かな傭兵どもに告ぎます。今すぐ武器を捨てて、この屋敷から離れれば、命は奪いません。しかし、一秒以内に立ち去らないのであれば……」



 風が吹いた。いや、あまりに不気味で重たいこの風は、殺気に違いない。



「臓物をぶちまけて、ドブ臭いただの肉塊になってしまいますよ?」



 隊長はメイドの危険性に気付いたが、遅かったらしい。ドンッ、ドンッと重たい音が立て続けに響き、殺戮開始の合図が示された。



「馬鹿な! 片手でパウダー・カノンを撃っただと!?」



 隊長が見たもの。それは扱いの難しいパウダー・カノンを片手で撃ってみせるメイドの姿だった。しかも、ただの脅しではない。屋敷から少し離れた木に配置した魔法使いの兵士二人に、命中しているではないか。



「攻撃開始! あのメイドを殺せ!!」



 隊長の指示に、メイドを挟むように左右から兵士が飛び出す。その手には長剣が握られているが、彼らがそれを振るうよりも先に、その頭がぐしゃりと潰される。メイドが手にしていたパウダー・カノンを右へ左へ振り回し、二人の兵士を一撃で絶命させたのだ。



「あいつ、本当にメイドか??」



 困惑する隊長だが、兵士たちは恐れ知らずの猛者である。仲間が一瞬で屠られても尚、メイドを排除しようと飛び出した。ただ、直後に見た光景は、飛び散る仲間たちの血。


「パウダー・カノンを使え!!」


 隊長の指示に、二人の兵士がパウダー・カノンを構える。高価な弾丸を無駄にしないためにも、片膝をつきながら両腕で構え、しっかりと狙いを定めるが、メイドが駆け出してしまう。



「よく狙えよ!」


 しかし、そんな隊長の指示は間違っていた。なぜなら、メイドは走りながら手にしていたパウダー・カノンを投げつけてきたのである。それは、木と鉄で作られているはずなのに、まるで槍のごとく飛来すると兵士の頭部を破壊した。


「ひぃっ!?」



 すぐ隣でパウダー・カノンを構えていた仲間の頭が爆散し、思わず悲鳴を上げる兵士。だが、その次の瞬間には、自分の頭が吹き飛ぶとは思いもしなかったようだ。メイドが屋敷から出てきて、十秒ほどしか経っていない。が、彼女は既に六名の命を奪っている。返り血一つ浴びていない悪魔のようなメイドが、ゆっくりとカタナを抜いた。



「さぁさぁ、命が惜しければ逃げなさい。すぐに逃げ出しなさい。武器を捨てて背を向ければ、殺したりはしませんから」



 しかし、傭兵たちは命令を背くわけにはいかない。果敢に、命を投げ出す覚悟で、悪魔へ立ち向かった。


「死を選びますか、卑しい犬どもが!」


 メイドが地を蹴った一秒ほど後、先頭を走っていた兵士の首が宙を舞った。



「ならば、殺戮……。殺戮、殺戮、殺戮、殺戮です!」



 屋敷の前を駆けまわるメイド。それは血の雨を降らせ、絶叫の風を吹かせる。あっという間に、屋敷の前は、人の臓物と四肢で散らかった。兵士たちに恐怖という感情が一気に伝染したころ、メイドが叫ぶ。


「スコット様! 今です!!」


 そして、屋敷の奥から、本来のターゲットであるスコット・ヒスクリフとジュリア・コウヅキが飛び出すのだった。

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