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決戦の朝!

 朝、スコットは制服を着こんで、大きく息を吐いた。


(ついに決戦の日だ。この朝を乗り越えて……必ずジュリアをコノスフィアに立たせてみせる)


 何度も深く呼吸を繰り返し、これから始まるであろう戦いに備えて、体内に魔力を生成する。



「スコット、準備はできたか?」


 既にアーサーは支度を終えていたらしく、スコットの部屋に顔を出した。


「……アーサー。何とかジュリアかシラヌイ殿でやる気を出してもらえないか?」



 最後のチャンス、と言うわけではないが、祈りを捧げるような気持ちでアーサーに確認してみたが、彼は爽やかな笑顔を共に否定する。



「ダメだな。こればかりは、俺の魂が震えるかどうかの問題であって、自分でもコントロールできないものなんだから」


「そうかもしれないが、二人とも美人だろう?」


「まぁな。だが、それだけで震えるような魂ではないのさ」



 何を偉そうに、と言いたくなるところではあるが、スコットは親友に対して悪感を抱くことはない。それに漬け込むわけではないだろうが、アーサーはこんなことを言った。



「特にジュリア嬢はダメだ。かなり難しい」


「な、なぜ?」


「親友の女だと思うと、余計にそういう気持ちになれない」


「だ、だ、誰が誰の女だ!!」


「違うのか?」


「違う! 断じて違う!!」


「そうか。俺が気付かぬ間に急接近したのかと。それより、早く準備しないとプロヴィデンスの時間に遅れる。行くぞ」


「あ、ああ……」



 なんだか釈然としない気持ちで、スコットは部屋を出た。朝食を取るつもりで、ダイニング・ルームへ向かったが、そこにジュリアの姿はない。


「どうしたんだろう?」


 ジュリアの部屋に向かうが、扉の前にコハルが立っている。



「シラヌイ殿、ジュリアはどうしたのですか?」


「お嬢様は朝食は取られないようです」


「なぜ?」


「……お嬢様も人の子。重要な日の朝に、気持ちを整えているのです」



 つまり、緊張しているということだろうか。スコットは扉の向こうに、震えを必死に抑えるジュリアの姿を想像した。スコットは少し自分を恥じる。先程まで、自分が何もかも背負い込んでいるような気持ちでいたが、そうではない。アーサーもコハルも、この日のために全力を尽くそうとしてくれている。そして、ジュリアに関しては、全員の気持ちをすべて背負ってコノスフィアに立つのだ。そのプレッシャーは計り知れないものだろう。



「そうか、邪魔をしたな。三十分後に出発する予定だから、それだけ伝えておいてくれ」


「承知しました」



 ダイニング・ルームに戻って朝食を取る。せめて、自分は体力を付けて、戦いに挑まなければ、と。食事を済ませて、玄関の前でジュリアを待つ。アーサーもファリスも落ち着かない様子だったが、時間ぴったりに彼女がコハルを引き連れて現れた。



「お待たせしました、皆さん。私が華麗なる勝利を掴んで見せますので、登校中はどうぞよろしくお願いします」



 彼女はいつも通りの明るい笑顔で一礼する。何も変わらない。そんな風に見せているのは、彼女がプレッシャーを凄まじい精神力で抑えつけているからだろう。



「任せてくれ。さぁ、行こう!」



 声だけは大きく。心配などないと皆に思ってもらうためにも。そんなことを心掛けながら、扉を開こうとするスコットだったが、直前に引き止める声があった。


「スコット、待って」


 母のセシリアだった。



「どうしました、母上」


「うーん……お母さんね、スコットのためにも余計な口出しはしたくないのだけれど、そのせいで死んじゃったら元も子もないと思って、やっぱり伝えておこうかなーって」


「母上、時間がないのです。手短にお願いします」


「そうよね。じゃあ、これを見てもらおうかしら」



 セシリアは魔法の杖を取り出すと、光る先端で空中に何かを描き出した。すると、何もない空間に巨大な白い長方形が浮き出て、屋敷の外が映し出される。



「まぁ、映画みたいですわ」


 意味不明なジュリアの感想があったが、スコットはそれを気にかけられないほどの驚く光景を目にした。


「な、なんだ……これは!?」



 セシリアが映し出した屋敷の外の様子。そこには百は下らないだろう人間が、待ち構える姿があった。


「こんな朝っぱらから、よくもこれだけの人を集めたな、アルバート!!」


 登校中が勝負。そう思っていたスコットだが、そもそも屋敷から出れるのかも怪しくなってくるのだった。それでも、母や穏やかに言う。



「いってらっしゃい、スコット。皆も頑張ってね」

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