なんだよ、その理由
「確かに不思議だと思っていました」
とジュリアは言う。
「アーサー先輩は体つきも身のこなしも、かなりの実力者のものだと感じていました。いくら閃光のロベルトが強いと言えど、打ち合うくらいの実力があってもおかしくないはず」
そう、ジュリアもコハルも彼の実力について、ある程度は見抜いていたのだ。だからこそ、彼の見せた弱さはあまりに意外だったのである。
「なのに……どうしてアーサー先輩はあれだけ弱いのですが??」
「それは、だな……」
アーサーが目を逸らし、打ち明けることを躊躇うような素振りを見せた。いつも飄々とした態度のアーサーが、このような表情を見せたために、ジュリアも重大な秘密を語らせてしまうのだろう、と胸が痛んだ。しかし、覚悟を決めてくれたのか、ついにアーサーが彼の剣の秘密を打ち明けるのだった
「実は……俺の剣は」
「剣は??」
「良い女に応援されないと、実力が出せないのだ」
「……はぁ??」
あまりに意外な理由に、ジュリアは耳を疑う。
「えっと……聞き違いでしょうか。凄く馬鹿らしい理由のように聞こえたのですが」
「いや、聞こえた通りだと思うよ」
今度はスコットが説明してくれた。
「アーサーは、昔からそうだったんだ。好きな子が応援してくれたときは、必ず剣術大会に優勝した。どれだけ強いライバルが参加していても、絶対に優勝したんだ。しかし、女の子に応援されないときは、全然ダメ。必ず一回戦負けだった」
「……はぁ」
さすがのジュリアもリアクションに困ったらしい。それでもスコットは熱弁する。
「僕はアーサーの実力を知っている。だからこそ、彼がその気になってさえくれれば、明日の朝も絶対に乗り切れるんだ。アーサー、何とかならないのか!!」
「……すまないな、スコット」
「ファリスではダメか?」
「あと二年あれば、恐らくは……」
「二年後ではなく、明日の朝に必要なんだよ、君の力が!」
「俺も何とかしたいが、こればかりはどうにもならん。それはお前が一番分かっているだろう」
親友であるスコットの頼みであれば、と行動してきたアーサーだが、本当に自分ではどうにもできないらしい。だが、ジュリアの頭に一つの疑問が浮かんだ。
「ちょっとお待ちください。一つ確認したいのですが」
「なんだ、ジュリア嬢?」
「女性からの応援で強くなるのなら、明日も私が声を送れば問題ない、ということなのでは??」
ある意味、当然の疑問と言えた。しかし、アーサーだけでなく、スコットまで答えにくそうに顔をしかめている。妙な手応えにジュリアが首を傾げるが、アーサーが躊躇いがちに口を開いた。
「その、ジュリア嬢。本当に言いにくいのだが……」
「構いませんよ。私も遠慮なく話させてもらっているので」
「俺の剣は女がいれば発揮できる、というものではない。良い女の声が必要なんだ!」
なぜか悔しそうに「良い女」を強調するアーサーに、再び呆気に取られるジュリアだったが、その意味を理解すると引きつった笑みを浮かべる。
「そうですかそうですか。私は良い女ではないと」
笑顔のまま、拳を頬にぐりぐりと押し付けられるが、アーサーは笑顔を保ちながら「本当にすまない」と謝罪する。もちろん、それだけでジュリアは容赦しない。
「では、せいぜい私の盾として頑張ってくださいな。閃光のロベルトの太刀を一撃でも耐えてくれれば、私がぶっ飛ばしますので」
「いやいや、危険すぎる」
スコットが冷静に止める。
「それよりは、アーサーが実力を出せるよう、二人に協力してもらえないだろうか?」
そんな提案に顔を見合わせるジュリアとコハルであったが、二人とも深い溜め息を吐くばかりだった。それでも、二人は何とかアーサーを奮起させられないかと、あれこれと声をかけるが……。
「ダメだ。力が入らない」
アーサーが剣を握り締めても、敵を切るほどの力は発揮できないようだった。
「仕方ありません。このコハルが全力で道を開きますので、皆さんはただ学園へ辿り着くことを考えてください」
結局はコハルが一人で突破口を開くしか手がないように思われたが、もちろんスコットは彼女だけに頼るつもりはなかった。
「いや、僕だって魔法を使えるんだ。シラヌイ殿だけに任せるわけにはいかない」
「安心してください、スコット先輩。いざとなれば、私だって戦うので!」
「ジュリアは大人しくていてくれ。僕だって覚悟を決めて挑むから」
庇い合うような仲間たちを前にして、アーサーは小さく呟いた。
「……すまないな」
アーサーの度重なる謝罪に、さすがのスコットも苦笑いを浮かべるしかなかった。そして、決戦の日は間もなくやってくるのである。
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