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アーサーの秘密

 ジュリアたちの部屋で作戦会議を始める前に、スコットはまず確認した。



「ジュリア、足の調子はどうだ?」


「ええ、万全とは言えませんが、蹴ることはできるはずです」



 立ち上がってから、何発か蹴りを見せるジュリア。確かに好調に見えるが、治療したスコットは分かっている。本当は足の親指から甲にかけて強い痛みがあるはずだ、と。



「それに怪我なく万全な状態で試合に挑める格闘家なんて存在しません。これくらい、当然ですよ」


「本当にすまない。俺がもう少し役立っていれば」



 肩を落とすのはアーサー。確かに、彼が剣士として高い実力を持っていれば、ジュリアが戦う必要はなかったかもしれない。ただ、スコットは「次は期待している」とだけ言うのだった。



「さて、決戦は明日だ。しかし、アルバートは必ずプロヴィデンスの前に何か仕掛けてくるだろう」



 スコットの言う「プロヴィデンスの前」とは、今この瞬間かもしれないし、日付が変わるころかもしれない。



「ただ、屋敷にいる限りは絶対的に安心だ。しかも、母上がいれば、危険が入り込むことはないと言えるだろう。さらに言えば、学園に到着してしまえば、プロヴィデンス当日ということもあって裁定者たちが目を光らせているから、手を出してくることはないはずだ」


「つまり、襲撃があるとしたら登校中、ということですね」



 指摘したのはコハルだった。



「それなら、ご安心ください。登校中は私が全力でお守りします。一個小隊が攻めてきても絶滅可能です」


「そ、それは頼もしい」



 規格外の強さを淡々とアピールするコハルに、困惑するスコットだが、そんな彼女が仲間にあっても心配事が消えないわけではなかった。



「ただ、アルバートもシラヌイ殿がどれだけ強いのか、理解してしまったはずだ」


「次はシラヌイ殿という存在を視野に入れたうえで、仕掛けてくるということか」



 アーサーの補足にスコットは頷く。今度はジュリアが発言した。



「だとしたら、こちらは一手足りなくなるようなイメージですね」


「その通りだ」


「では、セシリア様を頼ってみるのはいかがですか?」



 絶対的な力を魔法使いのセシリアが護衛してくれるならば、一騎当千である。閃光のロベルトがあと何人か増えたとしても、問題ないように思える。しかし、スコットは首を横に振った。



「それは期待しないでほしい。母上はアリストスとして自立するならば、自らの人脈のみで乗り越えてみせろと言ってくるはず。あくまで僕と皆で戦わなければならない」


「なるほど……。アリストスらしいですね。実際、わたくしのお父様もも同じようなスタンスですし」


「コウヅキ家も?」



 ジュリアは頷くと、コハルに視線を送った。コハルは書状らしきものを広げる。



「数日前、事情を説明したうえで、護衛をお借りしたいとご主人様にお願いしました。しかし、返ってきたお言葉は、ジュリア様の問題はジュリア様が解決するように、と」



 アリストスは家柄が良いからこそ、自分たちの子どもには問題解決能力を身につけるよう厳しく教育する傾向がある。このように、非協力的な姿勢を維持することで、子どもたちに強い力を持たせようとするのだ。



「お役に立てず、申し訳ございません」


 頭を下げるジュリアだが、スコットは当たり前のことだと首を横に振った。


「で、ここからが本題だ。明日、ジュリアを無事に学園へ到着させるため、鍵を握る人物を伝えておきたい」



 スコットの言葉にジュリアは手を合わせた。



「さすがはスコット先輩です。既に勝利の道が見えていたのですね。で、その鍵を握る人物とは誰なのです?」



 ジュリアは期待したものの、仲間は限られているではないか、と混乱しているようだった。そんな彼女の疑問にスコットは答えるが、言葉ではなく、動作で示す。彼は視線を移動させただけだった。その先に座る人物は……。



「アーサー。君が閃光のロベルトを倒してくれれば、ジュリアが確実に学園へ到着できるはずだ。……できるか?」



 スコットの指名にジュリアはますます困惑してしまう。



「あの、先輩? あまりに言いたくはないのですが、アーサー先輩は閃光のロベルトを前にして、剣を振ることすらできなかったのですよ? 実力差があるとか、それ以前の話だと思うのですが……」



 しかし、スコットは真っ直ぐアーサーを見つめたまま言うのだった。



「アーサー。君の実力について……皆に説明してくれるか?」


「……分かったよ。我が剣の秘事、二人に話しておこう」



 こうして、アーサーの秘密が語られるのだが、思いもよらぬ理由にジュリアは激怒することになるのだった。

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