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試合直前の負傷

 そのメイドは腰にカタナを携えるだけでなく、背中には二丁のパウダー・カノン(ライフル銃)を担いでいた。パウダー・カノンは火薬を使って目にも止まらぬ速さの弾丸を放つ。一度使用したら弾丸を込めなおすという使い勝手の悪さはあるが、強力な武器であることは間違いなかった。



「さて、ジュリアお嬢様に襲い掛かろうとする悪党のクソ豚ども。コウヅキ家のメイドである私が、その罪がどれだけ重いものか、家畜以下の貴様らに知らしめてあげましょう」



 メイド……コハルは無表情に警告すると、二つのパウダー・カノンを同時に抜いて、一方はアルバートたちに、もう一方はメイシーたちに向けた。



「まさか、片手でパウダー・カノンを扱うつもりか?」



 アルバートはコハルの警告を嘲笑うように指摘する。パウダー・カノンは引き金を引くだけで強烈な一撃を放つが、その反動も凄まじい。片手で扱えるわけがないのだが……閃光のロベルトは違った印象を持ったようだった。



「アルバート殿、ここは退くべきだ」


「なに? パウダー・カノンの扱いも知らないメイドが一人現れただけだぞ?? 閃光のロベルトが怖気付いたか!?」



 ロベルトの度胸を疑うアルバートだが、彼の剃刀のような視線に、それ以上は責める言葉が出てこなかった。依頼主を黙らせたロベルトは、その真意を伝える。



「あのメイド、何者かは分からないが、血の匂いが染み付いている。このロベルト、パウダー・カノンの一発や二発は避けることも可能だが、やつが扱うとしたら……御曹司を守りながら戦うのは無理があるだろうな」


「……そういえば、ヒスクリフ家の迎えを遅らせるために、刺客を放ったはずだが」



 アルバートは気付いたようだ。自分が放った刺客が、このメイドによって排除されたことを。



「分かったよ、ロベルト。ここは一度退くとしよう」


「良い判断だ」



 ロベルトは剣を収め、アルバートと共に後退した。


「……貴方はどうするおつもりかしら?」


 残ったメイシーに、ジュリアが問いかけると、彼女は引きつれた生徒たちに手で合図を送り、撤退を促した。そして、彼女はジュリアへ告げる。



「決着はコノスフィアで」


「結構ですわ」



 立ち去るかと思われたメイシーだが、その直前にジュリアの足元を確認すると、含みのある笑みを浮かべて、廊下の奥へと消えていくのだった。



「ご無事ですか、お嬢様」


 パウダー・カノンを背中に戻しながら、コハルが寄ってきた。


「ええ。助かりましたわ、コハル」



 主人の労いにわずかな笑みを浮かべるコハル。ジュリアは頷いた後、スコットたちに目をやった。



「先輩方もご無事ですか??」


「僕たちはかすり傷一つない。でも、ジュリア嬢。君、足を痛めてはないだろうな?」



 スコットは視線をジュリアの足元へ向ける。彼は気付いていたのだ。ジュリアが敵を蹴り付けたとき、わずかに顔を歪めた瞬間を。しかし、心配するスコットを前にして、ジュリアはなぜか目を瞬かせている。



「な、なんだよ」


「だって、おかしいではないですか」


「だから、何が?」


「先程は、ジュリアと親し気に呼んでくださったのに、またジュリア嬢に逆戻りしています」


「なっ!?」



 確かに、ジュリアが怪我を顧みず戦おうとしたとき、スコットはその名を呼んでいた。思いもしなかった指摘に、今度はスコットが目を瞬かせてしまう。



「あ、あれは咄嗟だったから」


「咄嗟でも何でもいいです。これからはジュリア、とお呼びください。その方がわたくしもモチベ上がりまくるので」


「い、いや。ハイ・アリストスであるコウヅキ家のご令嬢を気安く呼ぶわけにはいかない」


「本人が構わないと言っているのに?」



 追いつめられたスコットは一早く話題を変えたかった。



「そんなことよりも、ジュリア嬢」


「ジュリア、と」


「ジュリア嬢、足の具合はどうなんだ?」


「ジュリアと呼んでいただけないと、お答えしません」


「…………」



 これには頑固なスコットも折れなければならなかった。


「ジュリア、足の具合はどうなんだ?」


 不貞腐れたような問だが、ジュリアは約束通り素直に答える。



「……正直申し上げますと、指の骨が折れたかもしれません」


「やっぱり……!!」



 スコットはジュリアの前に屈むと、手に魔力を込める。


光の治癒(キュア・ライト)


 手の平の輝きがジュリアの足を癒やすが、スコットはこの程度の魔法で完治するものではない、と分かっていた。



「これで、ある程度は治療できるが、どれだけ高位な魔法使いであろうとも、完璧に元通りにすることは難しい。……プロヴィデンスの直前に、すまなかった」



 自らの不甲斐なさを噛み締めるスコットだったが、ジュリアが同じように屈んだかと思うと、彼の手を取って微笑むのだった。



「わたくしは、少しも後悔していませんわ。だって、先輩たちが無事なのですから」


「ジュリア……」



 二人の間に、より深い絆が生まれたかと思われたが、スコットは背後に暗い気配を感じ、強い寒気に襲われた。振り向くとそこには……。



「お兄様、妹の前で女性とベタベタするのは控えてくだいません?」



 コハルに保護されていたのであろう、ファリスの姿があったのだった。

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