最強のお迎えです
ジュリアは、スコットたちの退路を遮る生徒たちの後ろから現れた。彼女が邪魔をする生徒たちを蹴散らしてくれれば、確かに逃げるチャンスはあるだろう。しかし、スコットはそれを良しとしなかった。
「ダメだ、ジュリア! ここで戦って怪我でもしたら、プロヴィデンスで実力を出せなくなってしまう!」
ジュリアの力を持ってすれば、アルバートに付き従う生徒たちを排除することは簡単だ。しかし、人を殴れば拳が傷付き、人を蹴れば足が傷付く恐れがある。スコットしてからみると、明日のプロヴィデンスのために、ジュリアは万全な状態であってほしかった。
「しかし、スコット先輩……」
これが危機的な状況であることは間違いない。実際、閃光のロベルトがさらに一歩前に出て、アルバートも魔法の杖を構えたため、さらなる攻撃が予測された。
「スコット、ここまでだ!!」
冷徹を思わせるアルバートが、感情的に叫ぶと杖の先端が光り輝いた。
「地獄の業火!!」
アルバートの杖先から炎の渦が巻き起こり、スコットたちに迫る。だが、スコットもただでやられるつもりはない。
「絶対防御の盾!!」
スコットたちの目前に現れた光の盾が、炎を遮る。拮抗する炎と光の盾。互角のように思われたが、威力に押されて後退るのはスコットの方だった。
「くそ、このまま魔力が切れたら……!!」
そうなれば、彼らの戦力はゼロとなり、逃げることすら困難になるだろう。その傍らで身を低くするアーサーも、悔し気に歯を食いしばるしかなかった。
「すまない、スコット。俺がもう少し実力を出せていれば……!!」
「君はよくやってくれている! だから、ここは僕に任せておけ!」
スコットは意気込むが、不利な状況であることは明らかである。
「いいえ、ここはやはり! わたくしにお任せください!」
背後でジュリアの声が。彼女は退路を阻む生徒の一人に蹴りを放つ。
「ジュリア、やめるんだ!!」
スコットの制止を聞かず、ジュリアは一人をノックアウトすると、さらに回転後ろ回し蹴りを見せた。もう一人崩れて、残りはたった一人。ジュリアはパンチのフェイントを見せてから、強烈なミドルキックを放つが……。
「つっ!?」
ジュリアの顔がわずかに歪む。ミドルキックは確かに敵を捉えたが、相手は腕でしっかりガードしてみせたのである。
「潔く倒れてくださいまし!」
しかし、ジュリアは素早いパンチを連続で繰り出し、あっという間に最後の一人も倒してしまった。
「さぁ、先輩! 逃げますよわよ!!」
自らの不甲斐なさに顔を歪めながらも、スコットは彼女が作ってくれたチャンスにすがるしかなかった。
「はあぁぁぁっ!!」
スコットが光の盾に魔力を注ぐと、アルバートの炎を押し返し、彼を後退させた。その間に、踵を返してジュリアの方へ。
「逃げよう!」
三人が駆け出そうとするが、そこには再び障壁が現れてしまうのだった。
「あらあら。貴方がこういった手合いに力を貸すとは……」
ジュリアが呆れたように肩をすくめてみせた相手は……プロヴィデンスの相手であるメイシーだった。
「どんな手を使っても勝ち上がる。当然のことです」
そういうメイシーの背後には、さらなるアルバート派と思われる生徒たちが。せっかくジュリアが作り出したチャンスも潰されてしまった。そんな状況に、スコットは覚悟を決める。
「こうなったら、僕がすべての魔力を使い切って逃げ道を作る」
「先輩、それでは貴方が捕まってしまいます」
「ジュリア嬢だけでなく、君が捕まってもゲームオーバーなんだぞ?」
二人の指摘に強く拳を握りしめるスコット。
「じゃあ、どうすれば……!!」
ジュリアがそうしたように、今度は自分がリスクを背負う番だ。スコットは決意しながらアルバートたちに振り返ると、閃光のロベルトがゆっくりと近付いてくる。やつに自分の魔法がどれだけ通用するだろうか。固唾を飲むスコットだが、
廊下の窓ガラスが割れる音が。何が起こったのか、と誰もが視線を移動させると……。
「お嬢様、お迎えの時間です。コハルが参りましたよ」
そこには窓ガラスを突き破って、廊下に入り込むクラシカルなメイドの姿があった。
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