放課後の襲撃
放課後、スコットは教員に呼ばれて、生徒会の今後について話し合わなければならなかった。
(早くジュリア嬢を迎えに行かなければならいのに……!!)
時間を確認すると、まだそれほど遅くない。人目が多ければ、アルバートたちも手を出してくることはないはずだが……。
「頼んだよ、スコットくん」
「分かりました。では、僕は行きますね」
話がまとまり、教員室を出るスコットだったが、打ち合せしていた教員の瞳が鈍く光っていることに気付かなかった。
「もうシラヌイ殿たちは迎えにきているだろうか?」
自分が遅くなったとしても、ジュリアがコハルと合流してれば安全なはず。しかし、二階の窓から門の方を確認しても、それらしき姿は見当たらなかった。
「まさか、アルバートの妨害で到着が遅れているのか??」
だとしたら、すぐにジュリアを迎えに行かなければ、と踵を返すと……。
「どこに行くつもりだ、スコット」
そこにはアルバートが立っていた。しかも、その背後には見かけない男の姿も。どう考えても、穏やかな空気ではない。それは、アルバートの背後にいる男が腰に剣を下げているところを見れば、感じざるを得ないものだった。スコットは呟く。
「そういえば……この時間にしては学園が静かだな」
アルバートが手を回して、生徒たちを早めに帰らせたのだろう。スコットは焦りを悟られるよう、冷静な口ぶりで状況の理解を示したが、アルバートは鼻で笑った。
「デュオフィラ選抜戦は擁立者が消えても、参加資格が失われる。だったら、冴えないアリストスを狙った方が効率がいい」
「なるほど。だけど……僕だって簡単にはやられないぞ」
スコットは隠し持っていた魔法の杖を取り出す。が、それはアルバートも同じだ。彼も基礎的な魔法であれば使いこなす。正直、一対一で戦っても確実に勝てる相手ではないのだが……アルバートは自ら手を下すつもりはないようだった。
「ロベルト、やれ」
彼の指示に後ろで控えていた剣士が前に出るが、スコットはその名に聞き覚えがあった。
「ロベルトだと? まさか、閃光のロベルトか!?」
驚きを隠せないスコットを見て、アルバートは勝ちを確信したような微笑みを見せ、無言で肯定する。これにはスコットも強い脅威を覚えた。
「なるほど。グレイヴンヒース領で五本の指に入る剣士、ロベルトは実力がありながら、汚い仕事も請け負う志の低い人物……という噂は本当だったのだな」
少しは己の行いを恥じて止まってもらえないか、というスコットの期待はあまりに儚い。ロベルトは腰に下ろす剣の柄を握り締めた。こうなれば、やれるだけ魔法で応戦し、逃げる隙を作るしかない。スコットは覚悟を決めたが、そんな彼に頼りになる助っ人が駆けつけるのだった。
「そこまでだ。俺の親友に手を出したら、ただでは済まないぞ」
「アーサー!!」
背後から現れるアーサーが、グレイヴンヒース領でトップクラスの剣士であるロベルトの前に立つ。
「お見せしよう、グリムウッドの剣を」
ゆったりとした動作で剣を抜くアーサー。昼間は女子生徒にボコボコにされた彼だが、堂々とした佇まいは、この状況をひっくり返してくれるかも、と期待を抱かせてくれるようだった。しかし……。
「しゃっ!!」
掛け声と共にロベルトが剣を抜く。その動作と共に閃光のような一撃が放たれた。
「むっ!?」
アーサーは素早く反応したと思われたが、甲高い音と共に廊下の上を彼の剣が転がる。どうやら、ロベルトの一撃によってアーサーの剣は打ち払われ、彼の手から離れてしまったらしい。これは圧倒的な実力差を決定付ける、ほんの一瞬の攻防であった。
「ふっ、やるな」
しかし、アーサーは余裕と取れる笑みを見せ、剣を拾い上げた。もしかしたら、ただの油断だったのかもしれない。そんな空気ではあったが、アーサーはスコットに向かって言うのだった。
「スコット、全力で逃げるぞ!」
「そうだな!!」
二人はアルバートたちが遮る方向とは逆に走り出そうとしたが、そこには既に数名の生徒が道を塞いでいた。
「逃げられると思うなよ、スコット」
冷たく、突き刺すように言い放つアルバートに、スコットは振り返って問いたださなければならなかった。
「……なぜ、君はここまでしてデュオフィラ選抜戦にこだわる!ウェストブルック家は既にアリストスとして確固たる地位を築いているじゃないか。学園の再興だって興味がないだろ!?」
問いかけに、アルバートは無言を貫く。その態度にに、スコットの想いは怒りと共に膨れ上がった。
「僕には学園を復興する夢がある。学園の存在は領内の人々にとっての希望であり、未来だ。学園が賑やかになれば、領地の活性化につながるからな。自然を守るだけじゃない。人を豊かにすることも、このグレイヴンヒース領を守るヒスクリフ家の使命なんだ」
熱い想いをぶつけられても尚、アルバートの表情は変わらなかった。
「では、俺の夢を叶えた後で、お前の使命を引き継いでやろう」
信じられるわけがなかった。彼には気持ちが見られない。グレイヴンヒース領が豊かになったとしても、彼らの都市化計画によって自然は失われるだろう。それは、長い繁栄にはつながらない。
こんな男にグレイヴンヒース領は奪われるのか。悔しさに、ぐっと目を閉じるスコットだったが、彼の想いを受け止めた人物が別にいたらしい。
「いいえ、その夢はわたくしが叶えてみせます。ですから、邪魔はさせませんわ!」
どこからか、ジュリアの声が響いたのだった。
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