試合決定で!
アーサーの身代わりのおかげと言うべきか、ジュリアは無傷のまま、審査の公開練習に挑むことができた。
「はっ!!」
ジュリアは掛け声と共に、サンドバッグを蹴り付ける。その威力は、左右に揺れるサンドバッグを見れば明白であり、ギャラリーも唸るような声をもらす。もちろん、複数の審査員たちも納得したように頷いていた。
「では、次。メイシー・ドノヴァン」
メイシーが呼ばれ、先程までジュリアが蹴っていたサンドバッグの前に立つ。
「始めてください」
審査員の指示に従い、メイシーがゆっくりと構える。その動きは、ただ腰を落として、握りしめた拳を前に出すような動作であったが、目を見張ってしまうような深みが感じられるものだった。まるで、体育館の空気がすべてメイシーに集中したような、秘めた一撃を想像させるものである。
「……ジュリア嬢とはタイプが違うな」
スコットの言葉に、アーサーも同意する。
「ジュリア嬢は軽快に次々と多彩技を繰り出すようだったが、メイシー嬢は芯を砕くような一撃を狙うようだ」
強者の理をすべて分かっているような物言いのアーサーだが、鼻の穴に詰め込まれたティッシュが説得力を失わせている。ただ、ジュリアもアーサーの意見に同意らしい。
「そうですね。あの手のタイプは不用意に近づくと、凄まじいカウンターを繰り出してくるかもしれません。今見れたことは幸いですわ」
そして、メイシーの拳が突き出された。目にも止まらぬ神速の一撃は、サンドバッグを真後ろへ突き飛ばし、しばらく揺れ続ける。その揺れ幅は、確実にジュリアのときより大きかった。メイシーの公開練習はたったの一撃で終了。しかし、強い説得力があった。
しばらく、審査員たちが集まって何やら話し合った後、代表者らしき一人が前に出て宣言する。
「審議の結果、お二人がヒスクリフ学園のロゼスとして、十分な実力があると判断しました。よって、正式にお二人によるロゼス候補決定戦を決定。明日、この体育館でプロヴィデンスを行います」
ギャラリーが期待の拍手を送る中、審査員はジュリアとメイシーに向き合うよう指示を出す。すると、学園新聞を担当する生徒たちが前に出て、魔道映写機による撮影が始まった。
魔力の光を浴びる二人だが、その表情は対照的。自信に溢れ、この場を楽しむように笑顔のジュリア。それに対し、メイシーはただ真っ直ぐと敵を見つめていた。
「妹から聞きました」
しかし、そんなメイシーがジュリアだけに聞こえるよう、声をかけてきた。
「貴方、コウヅキ家のご令嬢なんですってね」
このような物言いの多くは、嫉妬からくる皮肉がほとんどだ、とジュリアは知っている。皮肉を口にするものは、誰もが卑屈な悪意と矮小な自尊心を表情に浮かべるものだが……メイシーは違った。流水のごとく、冷たく、静かである。
「それが何か?」
思わず表情を硬くしたジュリアだが、今度はメイシーの方が笑みを見せた。
「アリストスの令嬢が少し力を付けたくらいでは、デュオフィラ選抜戦には勝てません」
それが決まった事実であるように、メイシーは言う。
「まさか、私と同じレベルでデュアル・クラフトを使うものが、この学園にいるとは思いませんでした」
メイシーが再び冷たい表情を見せると、緊迫した空気がギャラリーにまで伝わったのか、体育館にざわめきが流れる。メイシーはさらに宣言する。
「しかし、私には勝てませんよ。貴方の技を見ましたが、デュアル・クラフトとして鍛錬した時間が私とは違う。背負っているものも、覚悟も……すべて私の方が上です」
言い返そうとしないジュリアに、メイシーは続けた。
「積み上げた強さを否定されたくないのなら、すぐに辞退してください。誇りが傷付くことも恐れぬのならば、私がへし折ってやるまでですが」
そこで審査員が割って入り、二人が距離を取った。そのまま、別々の方向から体育館を後にすると思われたが、ジュリアが振り返る。
「メイシーさん」
メイシーはアルバートたちと共に出口へ歩き出したところだったが、呼び止めたジュリアの方を見た。ジュリアは笑顔で言う。
「貴方が積み上げたもの、背負っているもの、そして覚悟とやらも……全部わたくしがぶち壊して差し上げます。今のうちにお覚悟を固めておいてくださいな」
その挑発に、メイシーも笑顔を返す。だが、今までとは違って、敵を打ち砕く様を想像し、喜ぶような笑顔であった。そんな殺気に満ちたメイシーがジュリアに言葉を返す。
「アリストスの娘風情が、コノスフィアの中で調子に乗るなよ」
こうして、公開練習は終わり、学園のロゼス候補がどちらになるのか、その期待が大きく高まるのだった。
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