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エントリー!

「それではお嬢様。健やかな良い一日をお過ごしください」



 そう言って、コハルは一礼すると学園の大門前から立ち去って行った。手を振ってそれを見送るジュリアの横で、スコットは溜め息を吐く。



「シラヌイ殿が護衛についていてくれたせいか、登校中に襲撃されることはなかったか」


「賑やかな登校で楽しかったですわね」



 ジュリアは満足そうだが、スコットは息苦しくて仕方がなかった。いや、今もそうだ。なぜなら、妹のファリスがずっとジュリアを睨み付け、剣呑な空気を出しているからである。


 そう、朝はスコットとジュリアだけでなく、アーサーにファリスと一緒に学園へ向かい、コハルも護衛として付き添ってくれたのだ。学園内は部外者は入れないため、コハルは帰ってしまったが、人目の多いところで襲撃がないことを祈るばかりなのだが……。



「見て! 例のご令嬢よ!」


「あれがコウヅキ家の!?」



 なんだか視線がいつも以上に突き刺さってくる。スコットは美男子の生徒会長で、学園創始者の家系であることから、もともと注目を集めてしまう宿命にはあったが、今日はレベルが違う。四方八方から視線が飛んでくるではないか。



「凄い美人だけど、やっぱりアリストスの令嬢だけあって、態度が大きいわね」


「でも、二年のデイジーを倒したんだろ?」


「いやいや、さすがにウソでしょ。贅沢三昧のアリストスに生まれた令嬢が強いわけないじゃない」



 幸いと言うべきか、そのほとんどはジュリアに対する批評である。少しは気楽に聞き流してやろう、と思ったが……。



「実力がないのにロゼス候補に選ばれたってことは……」


「やっぱり、スコット先輩とお付き合いしているってこと??」


「えええ!? スコット先輩が悪趣味でショックだわ!!」



 あらぬ誤解に、思わず振り返ってしまうスコット。噂話をしていた女子生徒たちは、彼の視線に気付くと顔を背けて早足に去って行ってしまった。



「そ、そんな噂が……」


 一人呟くスコットだったが、何だか背後から仄暗い気配を感じ、恐怖のあまり振り返った。


「あくまで噂ですよねー? 未来永劫、金輪際、一切絶対……噂ですわよねー?」



 悪魔……ではなく、妹であった。


「と、当然だ」


 力強く頷いたのだが、なぜかファリスの目力が強くなる。このまま睨まれ続けたら、呪われてしまいそうな勢いだが、そんな彼に助け舟を出したのは、やはり親友であった。



「スコット。ジュリア嬢の選抜戦エントリー、朝のうちに出しておいた方が良いんじゃないか?」


 アーサーの提案にスコットは激しく同意する。


「そうだな。じゃあ、ファリス。僕たちは担当教員のところへ急ぐから。放課後は迎えに行くから、絶対に一人で帰るなよ!」



 そう言い残して一目散に立ち去るつもりだったが、問題の原因と言えるジュリアが悠長にファリスへ手を振っていたため、スコットは彼女の手を引かなければならなかった。しかし、それがファリスの怒りを怒りを逆撫でてしまったことは言うまでもない。



「スコット先輩、何を急いでいるのですか??」



 純粋に賑やかな登校を楽しんでいたジュリアは困惑しているようだが、スコットにしてみると、少しでも緊迫した時間は終わらせたかった。それに、アーサーが言う通り、選抜戦のエントリーも早めに済ましておきたいことも事実である。



「デュオフィラ選抜戦にエントリーするんだ。担当教員に申し出て、サインを書くだけだから、そう時間はかからない」


「でしたら、急がなくてもいいのに。あっ、なるほどなるほど。先輩は早く私を契約でガチガチに縛りたい、ということですね??」


「君、絶対にファリスの前でそんなことを言うなよ!!」



 そこからも、たくさんの視線に晒されながら、教員室へ向かったのだが……。



「……スコット。貴様もエントリーか」



 担当教員にエントリーを申し込むところで、アルバートにばったり出会ってしまうのだった。しかも、その後ろにはデイジーともう一人の女性が。デイジーと顔立ちがよく似ているが、表情も立ち振る舞いも落ち着いたところがある。



「姉貴、あいつだ! あれが例の女だ!!」



 デイジーがジュリアに向かって指をさすと、もう一人の女性が視線を上げた。どうやら、噂に聞いていたデイジーの姉であり、アルバートが擁立するロゼス候補、メイシーらしい。



「先生、メイシーをロゼスとして擁立します。エントリーシートを」



 アルバートは我先にと教員に声をかけ、一枚の紙を受け取り、サインを記入してからメイシーに手渡した。メイシーもサインを記入しているようだが、ずっと睨み続けてくるデイジーと違い、少しもスコットたちを意識する様子はない。だが、それは戦士として精練された立ち振る舞いのようでもある。



「先生! 僕らにもロゼス候補のエントリーシートを!」



 スコットが負けじと前に出ると、目を疑うように教員はメガネを押し上げた。



「この前、転校してきたばかりのコウヅキ家のご令嬢じゃないか。……本当に戦えるのか??」


「当然です!」


 教員室に響き渡るような声でジュリアが宣言する。



「私はいずれ最強のロゼスとして語り継がれることになりますので、どうか先生方、ご期待くださいまし!!」



 スコットは見た。高らかに宣言するジュリアの向こうで、メイシーがわずかに口の端を吊り上げた瞬間を。あれは、ジュリアが滑稽だったからではない。潰しがいのある敵を前にした、戦士の目である。



 それに教員は気付くことなく、目を丸くしたが、子どもに時間を費やす暇はないといった態度で話を進めた。



「じゃあ、今日の昼に審査として公開練習があるから。君たち、四人とも体育館に集合ね」


「分かりました」



 アルバートたちが先に去って行ったが、スコットはメイシーの姿をつい目で追ってしまった。


「あの子……かなり強いぞ」


 その呟きにジュリアが反応したが、スコットは彼女の目線に気付かなかった。

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