最強セキュリティ
妹を何とか寝かしつけスコットはジュリアたちの部屋へ向かう。彼女らが就寝前に何か不便がないか確認するためだった。
「ジュリア嬢、何か困ったことはないか?」
「ええ、快適に過ごさせていただいています」
確かに、ジュリアもコハルもゆったり過ごしているように見えるが、親しみのない環境では少なからず不安はあるだろう。少しでもそれを取り除くため、スコットはジュリアに提案する。
「よかったら屋敷のセキュリティについて説明させてくれ。ここがどんなに安全な場所か知ってもらった方が、よく眠れるかもしれないから」
「なるほどなるほど。私は先輩のお言葉を信用しきっていますので、特に心配はしていませんが、お話を聞いておくのも悪くありませんね。コハル、貴方はどうしますか?」
しかし、コハルはタタミとかいうヤマト独自の敷物の上に置かれたフトンとらやに横たわり、既に目を閉じていた。
「お嬢様、私のことは気になさらず。スコット様と夜の屋敷案内ツアーをお楽しみください」
目を閉じているだけで、起きてはいたらしい。それにしても、主人であるジュリアより先に寝てもいいのだろうか。
「では、ご案内をお願いしてもよろしいでしょうか?」
「う、うむ」
ツアーなどという大層なものではないが、スコットは屋敷を案内することにした。
「まず、窓だ。すべて魔法でコーティングされているため、例え君が全力で蹴り付けたとしても割れることはない。ヒスクリフの人間が許可していないものが触れた場合は、強烈な電流が走る仕組みとなっている」
「で、電流ですか」
二人が歩く廊下だけで、何枚も窓が設置されているが、そのすべてに同じ仕組みが施されているらしい。
「次に、正面玄関だ。これも魔法によるセキュリティが施され、不審者が近づいた場合は警告音が発せられる。もし、ヒスクリフの人間が許可していないものが触れた場合は、強烈な電流が走る仕組みとなっている」
「こちらも、電流ですか……」
裏にも大きな出入り口があるが。やはり同じ仕組みらしい。次に二人は屋根裏部屋に移動し、その窓から屋敷の門を見下ろした。
「屋敷を取り囲む塀だが、変哲のない普通の塀に見えるだろう?」
「もしかして、電流ですか?」
「……なぜ分かった?」
それからも、いくつか屋敷の潜入されそうなポイントを紹介したが、どれもジュリアはその仕組みを見抜いた。
「やはり、電流なのですね」
「そう、電流だ」
大方の紹介が終わり、ジュリアを部屋まで見送ることになった。
「ちなみに、君たちの部屋の隣には、アーサーがいる。何か危険を感じたら、彼を起こしてくれ。もちろん、向かい側の部屋にいる僕でも構わない」
「ええ、とても心強いですわ。まぁ、この屋敷の中に入ってきそうなガッツある賊はいないと思いますが……。それにしても」
ジュリアは屋敷を見回してから、質問する。
「これだけの魔法セキュリティ、どのように用意したのです? コウヅキ家の本家でも、これだけ堅牢な守りではありませんよ」
「ああ、それはだね」
屋敷の秘密を明かそうとした、そのとき、二人の会話を遮る声があった。
「ただいまぁー」
おっとりした声が玄関の方から。それを聞いて、スコットは肩を震わせた。
「は、母上だ。すまないがジュリア嬢、簡単でもいいから挨拶を」
「ええ、お世話になる身ですから、もちろんです。しかし、お母様のお帰りは、かなり遅いのですね」
「ああ、月に一回だけ大きい会議があるらしくてね。それ以外は早く帰ってくるから、安心してほしい」
何に対する安心なのだろうか。理解できず首を傾げるジュリアを連れて、スコットは玄関に向かった。
「母上、お帰りなさいませ。今日は会議の日とは言え、一段と遅かったですね」
「そうなのよー。さっき大変なことがあって……あら?」
淡黄色の髪を揺らしながら、長身の女性が首を傾げる。声の印象と変わらぬ、穏やかな雰囲気をまとうこの人こそ、スコットの母であるセシリア・ヒスクリフだ。
「紹介します。こちらはジュリア嬢。コウヅキ家のご令嬢です」
「まぁ、あのコウヅキ家の?」
「よろしくお願いします。ヒスクリフ夫人」
令嬢らしく挨拶するジュリアに、セシリアも礼を返した。
「ハイ・アリストスの令嬢を預かるなんて、どういうことなの?」
「それがですね、母上――」
デュオフィラ選抜戦について説明するスコット。大人しく最後まで耳を傾けるセシリアだったが、今後はスコットとジュリアの命を狙う輩が現れるかもしれない、と説明すると、何かやら合点がいったかのように顔を上げた。
「それでさっき、変な人たちが屋敷の周りをうろうろしていたのねぇ」
「さっき、ですか??」
スコットは驚きを覚えながら、様子を見るため屋敷の外に出た。すると、門の外に横たわる不審者が大量に。少なくとも十は下らないだろう。
「やはり、アルバートの手先だろうな。母上が帰ってくるタイミングで助かった」
安堵するスコットだったが、珍しくジュリアの方が驚きを覚えているようだった。
「あの、先輩……。この方々、お母様がすべておひとりで?」
「ん? ああ、そうだよ。母上は魔法大学の教授でね。これくらいの脅威ならば軽く退けてしまうような人なんだ。あ、ちなみに屋敷の魔法セキュリティも、すべて母上によるものだ。まぁ、あんなものよりも、一番安全を確保してくれるのは母上本人なのだけれどね」
「は、はぁ」
ジュリアは、やっとスコットが自身の屋敷で保護を申し出たのか、やっと理解してくれたようだった。ただ、彼女はどこか青ざめた調子で呟いている。
「わたくし、この世界で過ごすようになってから、コハル以上に恐ろしい人間は存在しないと思っていましたが……考えを正さなければならないようですね」
そんな彼女に、セシリアは改めて挨拶するのだった。
「よろしくね、ジュリアさん」
「は、はい! よろしくお願いしますです、セシリア様!」
こうして、長い一日が終わったのだが、本当の勝負は明日からなのである……。
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