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さっそく、ひとつ屋根の下で

「なるほどなるほど。それで血相を変えて屋敷にやってきたのですね」


 経緯を聞いて、ジュリアは笑う。


「てっきり、先輩がジュリアに会いたくて追いかけてきたのかと」



 両手を頬に当て、ときめく乙女のようなポーズを取るジュリアだが、スコットの方は頬を引きつらせる。



「君なぁ、こっちがどれだけ心配したことか。それに、デュオフィラ選抜戦の危険性も説明したはずだ。これからは勝手に行動しないでくれ」



 改めて注意を促すスコットだが、ジュリアはメイドのコハルが置いたカップを手にし、紅茶の香りを楽しむ余裕があった。



「ご安心ください。見ての通り、コハルがいますので、賊が何人やってこようとも、片っ端から蹴散らしてみせますわ」


「確かに、あのチャーミングなメイドさんがあそこまで強いのなら、その辺の達人であろうが蹴散らしてしまいそうだな」



 剣士であるアーサーにとっても、コハルは納得の強さだったらしく、深く頷いている。もちろん、スコットも同意ではあるが、分からないことがあった。



「しかし、ヤマトの民は武術の文化が根強いとは聞いていたが、大陸と関わることはできるだけ避けていたはず。なぜコウヅキ家は彼女のようなメイドを?」



 当然の疑問を投げかけると、ジュリアは得意げに指先で髪を後ろに流した。



「コウヅキ家のルーツやヤマトにありますから。今でも交流が続いているのですよ」


「そうだったのか」



 そう言われてみると、コウヅキという大陸では珍しい名前は、ヤマトでよく聞きそうな響きである。



「いやいや、そうではなく」



 危うく本題を忘れかけるスコットだったが、話を戻した。



「確かにシラヌイ殿は尋常ではない強さだが、アルバートはもはやグレイヴンヒース領を支配しかけている男だ。百や二百と敵を送ってきたら、シラヌイ殿でも君を守り切れないだろう!」



 当然の指摘のつもりだったが、ジュリアの横に控えるコハルが呟くように答える。



「先程のような連中であれば、百や二百であっても余裕です」


「……」



 言葉を失いかけるスコットだが、説得を諦めるわけにはいなかった。



「正面からの武力であればいいかもしれない。だが、策を弄するような手段を重ねてこられては、対処しきれないこともあるはずだ。だから、君たちはヒスクリフの屋敷で保護させてもらう」


「……ヒスクリフの屋敷で??」



 驚いたのは、ジュリアの方だった。



「それは、先輩のおうち……つまり、ご自宅ということですか??」


「もちろんだ」



 ジュリアはしばらく考えた後、紅茶をぐっと飲み干して立ち上がると、コハルに指示を出した。



「コハル、準備を! スコットの先輩のお屋敷でお世話になりましょう!!」


「承知しました」



 コハルは頭を下げると、すぐさま荷物をまとめはじめる。何が決定打になったのか理解する間もなく、あっという間に準備は終わったようだった。



「では、先輩。ジュリアをおうちに連れてってくださいまし」


「あ、ああ……」



 よく分からないが、気が変わる前に連れて行った方がよさそうだ。スコットはコウヅキの屋敷を出て、ヒスクリフの屋敷へ向かうことにした。だが、その道中に後ろでひそひそと喋るジュリアとコハルの声が聞こえてきた。



「ラッキーですわ、コハル。最近、夕食が寂しかったので、体力が落ちるのではと心配していたところなのです」


「お嬢様、私のせいであるかのように言わないでください。ご主人様からの支給をすべて賄賂として使ってしまったことが、ここ最近の貧乏生活の原因なのですよ?」


「分かっています。だから、文句など一つも言っていないではないですか。失った体力を取り戻すためにも、ここは先輩のおうちで食いだめしておきましょう」


「そうですね。詰められるだけ詰めておきましょう」



 それが目的だったか、と肩を落とすスコット。同時に、ヒスクリフも経済的な余裕はないのだ、と大きく溜め息を吐くのだが、彼にはもう一つの心配があった。



「そうだ、アーサー」


「どうした、スコット」


「念のため、妹を……ファリスを迎えに行ってくれないか?」


「なるほど。汚い手を使われる前に、先手を取って保護した方がよさそうだな」



 アルバートならば、ファリスを拉致して選抜戦のエントリーを諦めるよう、脅してくれるかもしれない。だが、スコットの心配はそれだけではなかった。



「なぁ、アーサー。ジュリア嬢を我が屋敷で保護したら……母上とファリスは何と言うと思う?」


「ふむ。セシリア様は案外打ち解けるかもしれないな。ファリスに関しては……」



 アーサーは少しだけジュリアとスコットの妹であるファリスの邂逅を想像したらしかったが、すぐに結論が出たようだった。



「怒って騒いで……泣くだろうな」


「だよな……」



 学園の方へ立ち去るアーサーの背中を眺めながら、少しだけ帰宅が憂鬱になるスコットであった。

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