熾天魔王、救世聖女を模倣する
熾天魔王アズラーイーラと対峙した俺は彼女が次に何かを仕掛けてくる前に飛びかかった。加速の闘気術アクセレレーションで瞬く間に相手との間合いを縮め、飛び道具を打ってくる前に攻撃範囲内に潜り込む。
「スクラップフィスト!」
「ライトアンドダークネスセイバー!」
振りかぶった戦鎚をそのまま振り下ろす俺に対してアズラーイーラは無手で手を振り上げてきた。戦鎚は彼女の頭を粉砕することなく彼女が出現させた光も闇も帯びた奇妙な剣に防がれる。
いや、ちょっと待て。衝突させた瞬間戦鎚に込めてた闘気がごっそり削られたぞ。慌てて闘気を込め直しながら押し込もうと力を加えるも、アズラーイーラは光と闇の剣を両手で持ち直して踏ん張ってくる。
「いいですね。これ、聖騎士に支給する武具ならバターのように容易く切断できる切れ味があるんですよ。よく練られた闘気だと褒めてあげましょう」
「そんな華奢な身体しといて正面から受け切られるとへこむんだがね」
「それで、ここからどうしますか? 余は剣士じゃないので鍔迫り合いに応じるつもりはありませんよ。何ならこの体勢でも無理なく光波を放てますし」
「もちろん、なにかさせる隙を与えないぐらい攻撃するんだよ!」
俺は一旦離れてから戦鎚を再び振る、アズラーイーラが振ってきた剣と激突。また振る、またぶつかる。今度はアズラーイーラが俺の胴目掛けて一閃する。盾で防ぎながら反撃、瞬時に切り替えしてきた剣で防がれる。
剣士じゃないとか言いながらアズラーイーラの剣の腕前は明らかに達人のそれだった。さすがにイレーネほどじゃないが少なくとも学院時代に稽古つけてもらった教官や先輩聖騎士よりも実力も技も上だろう。
突如、アズラーイーラ後方の光の翼から何かが放たれた。彼女の動きや剣さばきにばかり集中してたせいで反応が遅れてしまう。盾で弾いてそれが光刃の奇跡エンジェリックフェザーだと分かった時にはアズラーイーラは剣を俺の喉目掛けて突き出していて……、
「セイクリッドエッジ!」
ミカエラの放った光の刃に弾かれる。そのまま光の刃が光と闇の剣を両断するかとも思ったんだがさすがにそうはいかず、アズラーイーラが剣を横薙ぎして逆に光の刃を断ち切った。
「助かった! ありがとな!」
「ニッコロさんは目の前に集中してください! 余も彼女の気を引きます!」
一旦間合いを置いた俺の横にミカエラが並んだ。
「アビリティトレース!」
彼女が力ある言葉を発すると彼女の手元に光の剣が形成される。
「勇者魔王、見参です!」
勇ましく宣言しながら光の剣を振った彼女は参考元の勇者イレーネが聖王剣を堂々と構える姿を彷彿とさせた。
「勇者魔王イレーネ。どちらもそれぞれ刻印、紋章、聖痕持ちを凌ぐ武力を持っていましたね。彼女達の出現で夜明けは近いと思ったものです」
対するイスラフィーラ、光と闇の剣を前方へ掲げると……、
「アビリティトレース」
まさかのミカエラと同じ力ある言葉を発し、なんと刃を発生させる柄の反対側からも刃を生やした。まさかの両刃に驚く俺の反応に満足気に相手は笑みを浮かべ、
「救世聖女の神技、今再び」
そう宣言し、俺達二人を前に構えを取った。
俺とミカエラが同時に踏み込んで戦鎚と剣を振る。アズラーイーラは片方の剣で俺の戦鎚を受け止めて直後に迫ってきたミカエラの剣を逆側の剣で受け止める。正面打ち、胴打ち、小手打ちなど様々に攻撃を仕掛けてもアズラーイーラには届かないし、何なら足元を留守にするミカエラに蹴りをお見舞いしてくる。
「足癖が悪いですね!」
「そうですか。パトラの墓前でそう報告しておきましょう」
蹴りは腹部に直撃する前にミカエラが出現させた魔王剣もどきが受け止める。すかさず俺は盾を前方に突き出しながら突進を仕掛けるが、イスラフィーラは身体を支えるもう一本の脚だけで跳躍、軽やかに空中を舞って回避してきた。曲芸師も真っ青だなオイ。
確かに全てに秀でた百錬武芸な初代聖女を参照しただけあって剣術、体術両方とも一流だろう。けれどミカエラと同じく彼女もまた完全再現出来てない。個別の力量ならまだイレーネやダーリアの方が上だろう。
だったら……攻撃、防御、反撃、受け流し、追撃、回避……ここだ。
「ウェポンブレイク!」
「っ!?」
俺の戦鎚がアズラーイーラの光と闇の剣に当たった瞬間、剣を構成する光が掠れて闇が揺れる。そして蜃気楼のように消えてしまった。どうやら光と闇の剣は物理現象を起こせる以上、武器破壊の闘気術が有効らしい。
すかさずアズラーイーラはミカエラの剣をいなしつつ俺へ蹴りを放ってくるが命中しないよう盾でずらす。これでアズラーイーラの懐はがら空き。このまま粉砕させてもらうぞ。
「ヘヴンズフィ……」
「シャイニングノヴァ!」
しかし戦鎚が敵の腹部に届く間際、アズラーイーラの全身が目もくらむほどの閃光を放った。直後に襲いかかるのは熱風だった。しかも単なる熱さじゃなく直射日光を集中して浴びたような感覚に襲われる。
さすがに不意を突かれて大きく吹き飛ばされる俺とミカエラ。輝きは一瞬だったようで周囲は元の明るさに戻っていたが、アズラーイーラは光と闇の剣の残った刃を振り、前方の床を半月を描くように引っ掻いた。
「スプレンディッドウォール!」




