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【閑話】汚泥邪精霊、量産型人造勇者を撃退する

 ■(第三者視点)■


 ミカエラが発動した大規模転送魔法デモンズゲートで召喚された魔王軍は聖都郊外の聖地近傍に出現し、たちまちに聖都を強襲した。


 クィーンサキュバスのグリセルダ率いる妖魔軍は召喚されたと同時に陣形を組む方と突撃する方で分かれる。突撃部隊は主にゴブリンやグレムリンで構成されており、ただ圧倒的数の暴力を容赦なく聖都へと向ける形となった。


「よろしかったのですか? ゴブリン共を無策で突撃させていますが」

「構わないわ。これは言うなら時間との勝負。人間共が体勢を整えるまでに一気に押し切ります」

「ですが魔王様からのご命令はあの方が大事を成すまでの時間稼ぎです。聖都の陥落ではありませんが」

「聖都内を守護する聖女や聖騎士をあぶり出すにはこれぐらい過激じゃないとね」


 構築した本陣でグリセルダと副官であるスキュラのナーディアが戦局を見守る。


 魔王軍出現で混乱に陥った市民は恐怖しながら聖域の結界が張り巡らされている聖都内側へと避難を開始する。そして逆方向に武装した兵士や騎士達が向かう。しかし突如出現した魔王軍という絶望に太刀打ち出来るほどの数ではなかった。


 聖都郊外の居住区と畑との間は防衛のために塀や柵、堀で区切られてはいたが、大軍勢を阻める防御力は無い。それでも郊外地区に魔王軍を侵入させまいと教国軍は防御陣形を組んでいった。


 教国軍の弓兵は迫りくるゴブリンの群れへと一斉射撃する。矢が雨のように空から降り注いで容赦なくゴブリンを射抜いていく。しかしゴブリンは倒れた仲間を踏み越えてなお突撃を止めようとしなかった。


 柵越しに槍で串刺しにされればその死体を盾代わりに前進する。あっという間に堀はゴブリンで埋め尽くされ、柵や塀は打ち壊され、ゴブリンの暴力が兵士たちへと振り下ろされる――。


「セイントフィールド!」


 しかし、ゴブリンの突撃は聖女が展開した光の結界で阻まれてしまった。兵士たちが後ろを振り返れば息を切らした聖女が権杖を魔王軍の方へと向けていた。光の結界を突破しようとゴブリン共は棍棒や剣を振り下ろすも打ち破れそうもなかった。


 聖女の妨害は妖魔軍が攻め込んだ複数箇所で時間を置いて次々と発生する。複数の光の結界はそれぞれ隙間なく張り巡らされ、魔王軍を阻むべく立ちふさがった。ゴブリンも馬鹿であるが愚かではなく、一旦結界から離れるように後退した。


「結界の奇跡を発動出来る聖女があんなにも……」

「教会が聖女を人工的に誕生出来るようになる、という推測は魔王様から聞いてたけれど、実際目の当たりにすると恐ろしいものね」

「あれではどうしようもありません。一方的にこちらが攻撃されるだけです」

「結界を維持し続けられれば、ね。命令に変更は無いわ。このまま手を緩めずに攻撃させなさい。聖騎士が現れるまでは脅威じゃないわ」


 グリセルダの命令によって妖魔軍は攻撃を再開。教国軍は猛威に晒されることとなった。


 一方、水の邪精霊であるディアマンテ率いる邪精霊軍もまた聖女が張った光の結界に阻まれてしまった。邪精霊の性質上聖女の奇跡は天敵であり、こちらは数の暴力で押し切る戦術を取れなかった。


 よって邪精霊達は地水火風それぞれの属性攻撃による遠距離戦に切り替えた。炎が舞い、風が吹き荒れ、大地が揺れる状況に教国軍は成すすべがない。それはそう、彼らが相手するのはもはや天変地異そのものなのだから。


「アシッドレイン」

「マイアスマレイン」


 更には瘴気をはらむ強酸性の雨が半球状に構築された結界へと容赦なく降り注ぐ。守護する聖女達はたちまちに疲弊していく。息を荒くして脂汗を流し、苦悶の表情が表に出てしまう。それでも聖女達は歯を食いしばって結界を維持し続けた。


 激戦区となったのは超竜軍が仕掛けた一帯だった。ドラゴン種の魔物は一体でも熟練の兵士や冒険者が相手しなければならないほど強力。それが軍勢で襲いかかってくるものだから、聖女の結界の外にいた部隊はなすすべなく全滅した。


「一般聖女の奇跡など恐るるに足らん。攻め続けよ」


 超竜軍長の代理を務めるカイザードラゴンのバルトロメアは部下に命令を下す。レッドドラゴンやサンダードラゴン達は一斉に火炎や雷撃を放ち、結界の外を地獄へと変えていく。更には絶え間なくランドドラゴンなどが突進して打ち壊そうとする。


 しかし、次の瞬間だった。ランドドラゴンの首がずり落ち、地面へと倒れた。それを境に最前線のドラゴンが次々と仕留められていく。飛翔したバルトロメアが目を凝らすと複数の騎士団が攻めに転じているようだった。


「要となっているのは……アレか」


 バルトロメアは騎士団の先頭で光り輝く剣を振るっている者に心当たりがあった。魔王城に侵入してゾーエ達を打ち破った人造勇者の次世代量産型だろうと推察する。伊達に勇者を冠してはおらず、確かな実力を持っているようだった。


 それでもバルトロメアは戦術の方針を変えない。あくまで大軍勢で押しつぶす、相手が騎士だろうと勇者だろうと例外なく。絶え間なく戦わせることで消耗、疲弊させればいかに勇者だろうと討ち果たせる。その戦術を貫き通す。


「だがなぁ。おで達にはだまっだもんじゃないんだよなぁ」


 しかしそれは繁殖力のあるゴブリンを捨て石にする妖魔軍やもともと種として最上位に位置するドラゴンが主体の超竜軍だからこそ使える戦法で、エルフの大森林で半分以上を粛清した邪精霊軍にとっては勇者の快進撃は死活問題だった。


 故に、ディアマンテは人造勇者を中心に局地的な豪雨を発生させた。いかに勇者とて人である以上は雨で体力は徐々に奪われていく。足場もぬかるんで滑りやすく、そして足を取られやすくなる。必然的に人造勇者や同行する兵士、騎士達は転倒しないようしっかりと大地を踏みしめて戦いにかけくれた。


「アビススワンプ」


 その隙をディアマンテは逃さない。彼女の精霊術により人造勇者達周囲の地面が柔らかくなり、彼らの身体は湖に落ちるように沈んでいく。闘気術での脱出を試みても土の邪精霊や水の邪精霊が上から泥と水を浴びせかけて埋めてしまう。


 結果、攻めに転じた人造勇者の多くが大地へと帰っていった。

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