戦鎚聖騎士、紋章勇者を一杯食わせる
俺とミカエラは勇者ドナテッロと聖女ラファエラと戦い始めたんだが、率直な感想を言おう。あまりにもお粗末なんじゃないかな、ってな。
一応ラファエラ達の名誉のために弁明しておくと、ドナテッロは何でミカエラが対処出来たんだってぐらい強いし、ラファエラの援護も的確で厄介この上なかった。さすがは死闘をくぐり抜けてきた勇者と聖女なだけある。
でもなぁ、魔王状態のミカエラにいいようにやられてたことを加味したって、俺が人類の希望なはずの勇者の相手を務められてるのはまずくないか? そんなんで魔王打倒なんてまず無理だろ。ま、させる気は微塵も無いがね。
「エンジェリックフェザー!」
「ちぃっ、いちいち鬱陶しいなっ!」
「隙あり!」
「いっ!?」
何せ俺とミカエラは何も言わずとも息の合った攻勢を仕掛けられるからな。ドナテッロがいちいち命令したりラファエラが察して補助に回ったりする相手側とは一呼吸もの差が出ている。
なのでミカエラがドナテッロに牽制攻撃を仕掛けて、ドナテッロの注意がそれてる隙をついて一発お見舞いしてやる。そんなありきたりな戦法が結構な頻度で通じてしまうのだ。
「ホーリーボルト!」
「……!」
「もらったぁ!」
「フラッシュライト! そんなのさせませんよ!」
「ぎ……!? 目が、目がぁ!」
逆にラファエラが俺をひるませようと攻撃を仕掛け、俺が防御したところをドナテッロが攻撃をしようとする。すかさずミカエラが補助に入って俺を危機から救ってくれるのだ。
確かにドナテッロは強いしラファエラも腕を上げた。けれどそれだけ。正直な話、俺としてはラファエラがヴィットーリオと組んでた時の方がよほど厄介だったぞ。アイツ等夫婦かよってぐらい息が合ってたもんな。
ドナテッロの負傷はラファエラが治療するので戦闘が長引く。しかし三日三晩飲まず食わずで剣を振るうなんて忍耐力は勇者に無いようで、段々と苛立ち紛れに振るう剣に力が増していき、逆に大ぶりになって精度を失っていく。
「お前、聖騎士のくせに魔王の味方するのかよ!?」
「何言ってんだ? ミカエラは教会から正式に認められた聖女だぞ。聖騎士の俺が聖女のミカエラを守るのは当然だろ」
「そいつは正体を隠してみんな騙してたんだ! 魔王だぞ魔王! 勇者のボクに倒されるべきなんだよ!」
「知るか。不満なら教会に異議申し立てでもしたらどうだ?」
俺が常識的に答えてやったらそれはお望みでなかったようで、ドナテッロは更に怒りながらがむしゃらに剣を振るってくるが、そんな彼をあざ笑うようにミカエラが横から光の刃を当てる。
ラファエラが「冷静に」だとか注意してもドナテッロは「うるさいよ!」と耳を傾けない。しかしさすがに劣勢な彼はこのままだと俺達に勝てないと悟ったのか、一旦大きく退いて剣を天高く掲げる。
「おいラファエラ達! このボクに力を貸せ!」
「っ……! 分かったわ。わたし達の力と想い、受け取って!」
ラファエラが何やら淡く光る粒子が発生してドナテッロの剣に向かっていく。そればかりかイレーネ達が早々と倒した三聖の身体からも漏れ、纏う粒子が濃くなるごとに剣の輝きが増していく。
あれはブレイブブレードか。確か聖女や仲間の思いを結集して強大な敵を討ち滅ぼす大技で、一度だけヴィットーリオが見せてくれたっけ。あの時はラファエラや三聖達が率先して協力していたけれど、奴のは半ば強制的に徴収している感じに見えて胸糞悪いな。
仕方がない。ヴィットーリオが聖女ラファエラと共に魔王であるミカエラを退治しに来る可能性に備えたとっておきの秘策を披露するしかない。ヴィットーリオと違ってアイツには工夫も要らず効きそうだしな。
「ヘイストヴィガー!」
俺は速度向上の闘気術を発動してドナテッロめがけて突進する。溜めが終わる前に攻撃を仕掛ける、とでも思ったのか、ドナテッロは口元を緩ませて勝利を確信したようだ。俺の脳天めがけて必殺の一撃を振り下ろす。
馬鹿だなぁ。まんまと引っかかりやがって。
無策に飛び込むわけないじゃん。
俺は足を踏ん張って急停止、軽く飛び退いた。更に腰元で構えていた戦鎚を一気に振るう。いわゆる返し打ちというやつ。狙う先は剣を振り下ろしてくる相手の手だ。相手の行動が単純であればあるほど兆しを読みやすいのだ。
「ブレイブブレー……!?」
「チキンハンマー!」
勇者の両手、粉砕!
籠手を割り、肉を潰し、骨を砕き、血を散らした。




