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【閑話】■■勇者、冥法魔王の遺体を連れ去る

 俺ことニコロないしニッコロが第三の聖地であるドワーフの渓谷へ訪れている間、人類圏では人類と魔王軍との熾烈な戦いが続いていた。最大の脅威だった悪魔軍が崩壊して超竜軍がドヴェルグ首長国連邦に釘付けしてた現状、残るは魔影軍と魔獣軍のみにまでこぎつけていた。


 そんな人類連合軍と魔獣軍との戦いは大規模なものになった。何せ少数精鋭の邪神軍とはわけが違う。動物が瘴気の影響で魔物化した例は枚挙に暇が無く、頭数で言えば魔王軍筆頭。しかも妖魔軍等とは違って魔獣軍は全軍が正統派に組みしている。


 それでもガブリエッラ様達は勇猛果敢に魔獣軍へと立ち向かっていった。物量の暴力に晒されても個人の実力が違いすぎる。結果として体力消耗すらさせられずに魔獣の死体の山が築かれるばかりだった。


 魔獣軍の幹部達は当然ながらガブリエッラ様達が悪魔軍に完勝したとの情報を耳に入れている。しかしガブリエッラ様達の正体までは把握してなかったらしく(というか俺も聞いたのはかなり後だが)、まさかの事態に狼狽えまくったらしい。


 魔獣軍は群れのボスたる軍長を除けば誰もが我こそが二番だと思っているようで、幹部達は結託することなくガブリエッラ様達に勝負を仕掛けて返り討ちにあう、戦力の逐次投入をやらかした。もっとも、総力戦になったところでガブリエッラ様達が負けるわけがないがな。


 そんなわけで魔獣軍は大幅に弱体化。決死の総力戦に打って出ざるを得なくなったわけだ。対する人類側はガブリエッラ様が皆を奮い立たせることで闘志は充分、自分達が世界を守るんだとの気迫に溢れていた。


「皆さんの奮闘のかいもあって敵軍は残存勢力を結集させて最後の勝負を仕掛けてこようとしています。逆を言えばここで敵軍を掃討すれば人類に脅威を及ぼす魔王軍は全て退けられます。皆さん、これが最後になるでしょう。もうひと踏ん張りです」


 と、いったわけで開戦。ガブリエッラ様達はヴィットーリオを先頭に敵軍中央を突破する。魔獣軍は最大の脅威を排除すべく主戦力を集中させるも、そもそも軍長が彼女ら一人一人に太刀打ちできるかも怪しいので、あの世に直行することになった。


 もはやここを死地だと悟った軍長、本来魔王となるべき存在に謝罪しながら全軍撤退して現在の魔王の慈悲を賜るように命じた。そしてこのような結末をもたらした自分は死して詫びると決意し、ガブリエッラ様達に挑んでいった。


 何もかもが間違えていたと軍長が気づくのにそう時間は要らなかった。

 悪魔軍の敗北、魔獣軍の蹂躙。ああ、どうして自分は気づかなかったのだろうか。

 現に他の軍長達は仕えるべき主に仕えているではないか。


「無駄な努力、ご苦労さま」


 後悔と絶望に支配された彼の耳に最後に入った言葉は魔法使いに扮した冥法軍長……に成りすました、魔獣軍長が崇拝していたルシエラ本人。

 そして彼が最後に目にしたのはルシエラを守りながら自分めがけて剣を振り下ろす守護者、死霊聖騎士ヴィットーリオだった。


 ■■■


 人類の歴史上魔王は度々出現して人類圏に絶望と破壊をもたらすが、最後には勇者が聖女達と共に討ち果たして平和を取り戻す。その決戦の地とされるのが魔王の居城である魔王城である。


 しかし人類が魔王城やその周辺一帯を支配下に置いたことはない。正確には何度も試みたものの次々発生する瘴気の浄化が追いつかず、自然発生する魔物も強力な個体ばかりのため、魔王を討伐しても最終的に撤退を余儀なくされるのだ。


 ミカエラが魔王に就任した頃には勢力を盛り返しており、人類が攻め込む際には総力戦となることが想定されている。とは言え、正統派という形でかなりの割合が離脱しているため、魔王城を守護する軍勢は二軍ほどに留まっていた。


 ミカエラもルシエラも不在。そんな主なき魔王城に侵入者が現れたのは、俺達ならグランプリ開催時期、ガブリエッラ様なら魔獣軍との決戦に臨む時期と重なる。それまで周辺一帯で侵入者は確認されていなかったにも関わらず、二名の人物が突如魔王城内に姿を見せたのだ。


 スライム軍長のゾーエは直ちに配下の者に撃退を命じた。しかしあがってくる報告は突破されたというものばかり。更には侵入者の一人は奇跡を行使し、もう一人は光の剣を振るってくるとの情報が飛び込んできた。


「聖女と勇者ですってー!? わたしが出ますー!」


 ゾーエはクィーンメタルスライムの巨体で侵入者の前に立ちはだかった。

 二名は絵に描いたような少年少女の勇者と聖女だった。少年勇者が少女聖女に下がるように促し、光の剣を構えてゾーエと対峙する。


「わたしの身体は最も固くて最も柔らかいですよー。例え勇者でも切るのは無理でーす!」


 ミカエラ曰く、ゾーエはあらゆる打撃攻撃の衝撃を吸収する軟体とあらゆる斬撃でも傷一つ付かない硬度を誇り、しかも魔法攻撃も弾いてしまう。いわばオリハルコンがスライムになったと言ってしまっていいらしい。


 だからこそ、ゾーエは防御が疎かにしまいがちになり、それがいつか彼女の身を滅ぼすことにならないかとミカエラは心配していた。そしてそれは現実となってゾーエに襲いかかった。


「アセンション!」


 ミカエラも使った強制昇天の奇跡。勇者がゾーエの相手をしている間に聖女が精神を集中させ、ゾーエほど強力な魔物であっても効果が及ぶほどの奇跡を行使する。結果、ゾーエは防御力など意味を成さない攻撃により生命を落とすことになった。


 ゾーエの敗北に危機感を抱いた直轄軍長のドゥルジはすぐさま配下の邪神達に持ち場を離れて勇者達を包囲して殲滅する作戦に出た。しかしそれでも勇者達は止められない。一体、また一体と邪神達は撃破されていった。


 ドゥルジ自らも勇者と聖女に戦いを挑むが、二人の息の合った立ち回りに翻弄されて十全の力を発揮出来なかった。苛立ちで強硬手段に打って出た途端にその隙を突かれる始末。徐々に追い込まれていく。


「お、お前は一体何者……」

「勇者エルネスト。貴方達を葬る者」


 勇者エルネストは光の斬撃ブレイブブレードを一閃、ドゥルジは主に許しを請いながら光の奔流に飲み込まれてしまった。


 勇者達はなおも魔王城の中を進んで魔王の間へとやってきた。しかし誰もいない。逃げられたか元々不在だったか、という最悪の事態が脳裏によぎったが、勇者は更に進むことを提案、聖女も頷いて足を進めた。


 そうして二人はやってくる。薔薇の庭園へ。

 ミカエラが最も大切にする実の妹、ルシエラの遺体が安置された墓へと。


 勇者と聖女はルシエラが入った透明な棺をくまなく確認し、軽く叩いてみた。


「魔王刻印……間違いありません。彼女が今の魔王です」

「封印されてる。どうにかならない?」

「僕にはちょっと無理ですね……。ガブリエッラ様やイスラフィーラ様ならあるいは……」

「なら連れて帰る。対処は大聖女様方に任せる」

「確かに、それがいいですね。このまま放置するのは危険ですし」

「魔王討伐の任務完了。勇者エルネストと聖女ユニエラ、帰還する」


 こうして魔王城はあっけなく攻略され、ルシエラの身体はユニエラとエルネストの手で魔王城から連れ出されることになった。

 送られる先は聖都。

 ちょうど俺達が向かおうとしてる先だったのは天の計らいだったのだろうか。

これにて第三章・幻獣魔王編は終わりです。

続いて最後となる第四章・熾天魔王編をよろしくお願いします。

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