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戦鎚聖騎士、幻獣魔王を仲間にする

 いやー、大変だった。行く先々でとんでもない目にあったもんだ。

 ま、次は大丈夫だろ。何せ次向かう先は……、


「念の為確認するけれど、次の目的地は聖都だよな?」

「正確には聖都近くにある聖地ですね。そこを巡礼して余達の旅は終わりです」


 なんせほぼ教国の聖都だからな。ここまで人類側有利になってる状況下で人類圏の中心地で異変なんざ起こるまいて。……起こらないよな? 大丈夫だよな? ミカエラが聖地巡礼終わったと同時に魔王軍召喚して聖都攻め込まないよな?


 最後の聖都、そこは聖パラティヌス教国が建国されるはるか昔、教会発祥のきっかけとなった場所になる。時代にして幻獣魔王よりもっと前、およそ先数百年も前に遡る。世界救済のために尽力した聖者が殉教したのだ。聖者が主より授かった教えを広めるために教会という組織が結成されたのだから、人類史に与えた影響は計り知れない。


「最後の聖地は歴代の魔王と関係無いんだな。もっと別の聖地を巡るかと思ってた」

「は?」


 思ったことを呟いたら馬車籠の上に座っていたティーナから正気を疑ってくる疑問符が返ってきた。


「まさかニッコロ、知らないのかー?」

「ニッコロは知らないよ。『僕』だって僕から教わったぐらいだから」

「そういえば学院ではその辺りの事情は全く教わりませんでしたね」


 ティーナの発言にイレーネとミカエラが同調してきた。

 おいおいちょっと待てって。三人の魔王がこう言ってくるってことは、人類には伝わってない、または意図的に教えられてない真実があるのか?

 しかもこの言いっぷり。まさかと思うが最後の聖地もまた……。


「ええ。ニッコロさんの想像通りですよ」


 ミカエラは慈悲深く微笑んできた。

 魅力的だし可愛いし俺得なんだが、しかし俺には地獄への誘いにも思えた。


「初代魔王、熾天魔王が討伐された土地なんです」


 思わず目元に手を当てて天を仰ぐ。神よ、と呟いた俺は決して悪くない。

 まさかと思うが熾天魔王も実は何らかの形で生きてて登場するんじゃないか?

 嫌だぞもう。死闘を繰り広げるなんてこりごりだ。


「うん、俺は聖都に直帰するからあとはミカエラ達で聖地巡礼してくれ」

「何を言ってるんですか我が騎士! 聖騎士は聖女を守らなきゃ駄目でしょう!」

「そうなんだけどさぁ! 自分から危険に飛び込む場合は止めたっていいだろ!」

「大丈夫です、問題ありません。魔王軍の活動範囲からも離れてますし、熾天魔王がどこかで暗躍してるって話も聞いてませんから」

「本当かー? で、ティーナとイレーネ。ミカエラの言ってること本当か?」

「ああ、熾天魔王については全く聞いてないぞ」

「僕も『僕』もそんな話は知らないよ」


 うーん、三人が口を揃えるのなら信じてもいいかな。

 頼むぞー今度こそ平穏な旅でありますようにー。

 神に祈ればいいのか、それとも聖女兼魔王のミカエラに縋ればいいのか?


「馬鹿ね。そんな無事に済むわけないじゃないの」


 唐突に上空からそんな声が聞こえてきた。

 見上げたら今まさに天から飛竜に乗ったダーリアが降りてくるじゃないか。

 彼女は会話出来る超低空飛行を維持して俺達に並走する。


「アイツが歴史に残るあっけない最後を遂げてるわけない。本人がいるかは分からないけれど、少なくとも何か仕組んだに違いないわ」

「ダーリアは熾天魔王に会ったことは……ああ、幻獣魔王だった頃か」

「アイツが生きてた頃はまだ若輩者だったけれどね。それでもアイツのことは今も鮮明に思い出せる。それぐらい強烈な生き方してたもの」

「縁起でもないこと言わないでくれって。不安になるじゃないか」

「私は警戒してるのよ。今の世界全体の動向にね」


 ダーリアの面持ちからは冗談を語っているようには思えなかった。彼女は真剣に俺達へ忠告を送ってきている。


「魔王軍が内部分裂してるのも、勇者や聖女の動向がおかしいのも、今までと全然違うもの。ティーナだって薄々感じてるよね?」

「……ああ。確かにいつもとは違うなー。しかもたまたまが重なってるんじゃなく、どうも作為的な何かあるような気がするぞ」

「何もかもが終わってきりが良くなったところでちょっと気になりだしてね。長期休暇届出して私も外を見て回ることにしたの」

「え、そうなのかー? 確かに超竜軍を退けたんだからしばらく国境沿いは平穏になるだろうけれど」


 意外だ。これからはドワーフの竜騎士としての人生を全うするかと思ったのに。けれど懸念を早期に解決するのは良いことだ。全てすっきりしたところで新しい人生を歩み始めれば良い。

 きっと昨日の夜は打ち上げ兼お別れ会で飲み食いしまくったんだろうなぁ。


「と、言うわけでこれからよろしくね」

「……はい?」

「私も聖地巡礼の旅に同行したいって言ってるの。その方がお互い何かと都合がいいでしょう?」


 そりゃあまあ、ダーリアほどの実力者が一緒だったら百人力なんだが、これ以上大所帯になったら何かと不便になるかもしれない。俺は別に構わないんだが他の三人はどうなんだろ?


「余は構いませんよ。共に聖地を巡礼しましょう」

「いいんじゃないかな。役割も被ってないし」

「うーん。戦力過剰な気もするけれど、うちも問題ないかな」

「決まりね。じゃあみんな、よろしく」

「やれやれ……また賑やかになりそうだな」


 太陽が照らす不毛な大地を抉るように存在するドワーフの渓谷。そこでは幻獣魔王とドワーフの勇者を始め、様々な戦いが繰り広げられてきた。今日もまたドワーフの工作で賑わいを見せ、また新たな戦いが起こるのを静かに待ち続ける。


 俺達は新たな仲間とともにその聖地を後にし、次の目的地へ向けて旅を始めた。

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