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戦鎚聖騎士、穏やかな朝食を楽しむ

「うー、少し頭痛い……。でもまぁ、これぐらいなら昼頃には治るな」


 ダーリアのご馳走になってから一夜明けた朝、俺は着替えて寝癖を整えて顔を洗ってヒゲを剃り歯を磨き、隣の寝具で可愛らしい寝息を立てながら幸せそうに眠るミカエラの肩を揺すった。


 やがて夢の世界から戻ってきたミカエラは微睡んだ目を擦りながらも寝具から這い出て、俺に誘導されながら洗面所で顔を洗った。で、髪型を整えてやり(自分でも出来るくせにいつも俺に編み込ませるのだ)祭服を着せてやる。この段階で彼女はようやく覚醒して、満面の笑顔で俺に朝の挨拶を送ってきた。


「おはようございますニッコロさん! 今日も一日頑張りましょう!」

「おはよう。いつも通り夜明けの祈りをしてから朝食か?」

「はい。先に食べていて下さい」

「分かった。イレーネとティーナにもそう伝えておく」


 いくら照明があるとはいえ基本的に人間の活動時間は夜明けに始まり日没に終わるものだ。聖職者は一日の始まりに神へ祈りを捧げるために暗いうちには起きる。そしてまた大地を照らす太陽が昇ってきたことに感謝するのだ。


 そんなわけで祈りを始めたミカエラを置いて部屋から出た俺は、偶然にも隣の部屋から出ようとしてたティーナとばったり出くわした。彼女とはこうして遭遇する機会も多いので、互いにさして驚かない。


「おはよーニッコロ」

「おはようティーナ。イレーネは早朝の訓練中か?」

「ああ。うちが寝てる間にはもう部屋から出てったみたいだな。ミカエラは祈ってるのかー?」

「先にメシ食っててくれってさ」

「あいよー。ところで昨晩はお楽しみしたのか?」

「俺もミカエラも睡眠欲には素直だからなぁ。朝までぐっすりお休みさ」


 ちなみに部屋割りは俺とミカエラが同室、ティーナとイレーネが同室の二部屋借りている。俺一人のミカエラ達三人にしないのは部屋の大きさって点もあるが、ミカエラが俺に起床時の世話をさせたがるのが大きい。これ、結構少なくない頻度で発生するんだよなぁ。都合よく一人部屋と三人部屋で確保しづらいんだわ。


 なお、俺とミカエラが昨晩お楽しみしたかって問いは、信じてもらうまでもなくしてないが答えになる。そんな欲求が生じてないって断言するほど欲が無いわけじゃないが、何かもう触れ合うまでもなく身近っつーか、彼女は家族も同然だわな。


 食堂に向かうと既にイレーネが席についていた。一汗かき終わったようで、汗を拭いながら宿の娘さんから食事の皿を受け取っている。ちなみに本体の全身鎧の姿はなく、首輪だけを装備している状態だった。最近その格好することが多いな。


「おはよう。そろそろ来る頃だったから先に用意してもらってた」

「おはよう。ちょうどいい。ミカエラも先食べてて良いって言ってたから、スープが冷めないうちに食べてしまおうか」


 俺達が席についたところで三人で食前の祈りを捧げる。俺は教会で信仰される神に、ティーナは大自然から恵みをもたらす精霊に、イレーネは数奇な運命そのものに。対象が各々で違うのだから面白いよな。


 朝食の時点で肉料理も口にするわけだが、移動途中で魔物の強襲にあった時に力が出なかったらお粗末だからな。不運なら食事を抜いての強行日程を迫られる場合もあるし、余裕があるうちに充分に英気を養うべきだろう。


「ティーナもイレーネも二日酔いは大丈夫か? 昨日の酒は結構強かったが」

「ドワーフの酒飲んでそのまま寝るなんて無謀すぎるだろー。次の日頭痛と吐き気に襲われたくないぞ、無理無理。食べたり家畜の乳飲んで悪酔いを防ぎつつ、就寝前に酔い覚ましのポーション飲むのさー」

「最悪だった……酔っ払うってあんな感覚だったんだね。あまり経験したくないよ。奇跡のありがたみがよく分かったよ」


 二人共いつもの調子だったので訪ねてみると、そんな答えが返ってきた。ティーナは万全の態勢で望んだだけあったし、イレーネもちょくちょく自分に奇跡をかけてたものな。俺もまた自分の限界は把握してるので量は抑えたのが功を奏したか。


 ちなみにミカエラはあの程度の酒なら平気らしい。オーガやトロールの酒はドワーフのより更に雑味があって悪酔いしやすく、口に合わないらしい。酒を率先して飲まない彼女のおすすめはカオスとかいう銘柄の酒で、静かな夜に舐めるように飲むのが乙なのだとか何とか。


「じゃあ予定通り出発出来るな。今日中に次の宿場町まで辿り着けそうか?」

「今日はいけそうだけど明日以降は野宿しなきゃ駄目そうだなー。食べ物も消耗品も持てるだけ持っていった方がよさそうだぞ」

「馬車があるから詰め込めるだけ詰め込むか。どうせかごの中は誰もいないし」

「勿体ないよなー。ギルドで護送任務受けたくなってくるぞ」


 朝食を半分ほど食べ終えた頃、ミカエラが食堂にやってきた。彼女の分の食事を大皿から取り分ける。ミカエラは食前の祈りを神に捧げてから家畜の乳で喉を潤し、目の前の料理を頬張っていく。


 空になった皿は宿の看板娘さんが回収して厨房へと運んでいく。ドワーフの宿泊客は彼女のことを別嬪だと口を揃えるが、ヒゲを生やした樽体型では俺の好みから完全に外れている。まあ、ドワーフの美的感覚からしたらミカエラは痩せすぎだろうが。


 そう考えると知り合ったダーリアがますます謎になってくるが、昨日の飲みの席での雑談によれば、先祖に人間やエルフがいた場合に隔世遺伝してドワーフの特徴が現れないこともあるそうだ。とは言え、竜騎士のダーリアは見た目に反して身体を鍛え上げてるので体重は他の者とさして変わらないようだが。


「この後は市場で物資を買い込んてから出発するか」

「異議なーし」


 このドヴェルグ首長国連邦は屈強な竜騎士団が盤石に守っているのもあって、ここでは魔王軍の脅威を感じさせない。この調子でこの先聖地まで何事もなく平穏な旅路になるといいのだが。

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