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8話 イケメン拾いました

 私がこの世界に来てからもう1年が経とうとしている。季節は再び春になった。住んでいる場所が亜熱帯に近い気候なので、まだ春なのにだいぶ暖かくなってきた。感覚としては日本の初夏に近い感じかな。


 そして私はこの世界にも、この体にももう完全に慣れてしまって、人間だった頃の感覚はどんどん忘れてしまっている。たとえば「歩く」というのがどのような感覚だったのか、もう私はほとんど思い出せない。


 そんな私の最近のマイブームは釣りだった。釣りと言っても釣り竿を垂らしてずっと魚を待つ感じの一般的な釣りではない。


 私がハマっている「釣り」は、湖に飛び込んで魔法や毒牙を使って魚を捕まえるというダイナミックなものだった。どちらかというと「釣り」というよりは「狩り」に近いかもしれない。


 その日も私は一人で湖に出て、釣りを楽しんでいた。詩織は泳ぎがあまり好きではないということで、私の「釣り」には付き合ってくれない。…蜘蛛って泳げないんだっけ?


 しばらくの間、湖の中を暴れまわって満足した私は、息継ぎのために一度水面に顔を出した。その瞬間、私の視界には全く予想もしなかったものが入ってきた。


(…!?)


 私が目にしたものは、湖のほとりに立つ人間の姿。結構距離があったから顔までは見えなかったけど、たぶん騎士風の金髪の青年。


 そして青年は次の瞬間、倒れこむような感じで湖に落ちてしまった。どうやら彼の後ろにもう一人人間が立っていたようで、その人間は青年が湖に落ちたことを確認して森の方に去っていってしまった。


 たぶんその人間が青年を後ろから攻撃したのだと思う。


(…どうしよう?)


 私は悩んだ。別に私が見知らぬ人間を助けなければならない理由はない。私が人間なら「人として命の危機に陥った人間を見捨てられない」と思ったかもしれないけど、私はもう魔物だ。


 あと、森の中をうろうろしているモンスターや私たちが設置したトラップをすべて突破して湖にたどり着けるような人間に下手に接近するのは危険な気もする。


 …そうね。ここは見なかったことにする…か?


 …

 ……

 ……いや、やっぱ助けよう。今は人食いの魔物だけど、一応1年前までは人間だったんだ、私。自分を攻撃してきたわけでもない相手が命の危機に陥っているなら、別に助けても問題はないはず。いや助けるべきでしょ。


 助けた後、もし恩を仇で返してきたら、その時は返り討ちにしてエサにすれば良い。そう判断した私は、彼が落ちた方向に向かって泳ぎ始めた。


 そしてすぐに青年を見つけた私は、蛇の下半身を使って彼に優しく巻き付いて、彼の体をそのまま陸に持ちあげた。


 その後私も陸に上がって彼の状態を確認してみたら、予想通り彼の背中には深い刺傷ができていて、出血がとても激しかった。


 湖に落ちてからすぐに救い出しているから溺れているわけではないと思うけど、怪我の影響なのかすでに意識もなかった。


 ……ってあれ?こういう時どうやって助ければいいんだっけ?人工呼吸?止血?


 そういえば私、前世含めても大怪我をして命の危機に陥った人の応急処置をしたことなんか一度もないぞ?こちらに来てから殺したり、食べたりしたことは何度もあるけどね。


 …自慢じゃないか。


 ええい、知らん!とにかく強力な回復魔法を使えばなんとかなるだろう。助からなかったらそれはそれで仕方がいい。彼の運命だ。私が殺したわけじゃないから怨まないでね、イケメンのお兄さん。


『リザレクション!』



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 しばらくして、青年は目を覚ました。やっぱリザレクションってすげぇ。結構深い刺傷だったのに簡単に治っちゃった。


「……うぅ…ん、ここは?」

「湖の近くの木陰ですよ」

「…!!」

「……はぁ。あなたの武器は預かりました。素手でもいいから戦いたいならどうぞ、襲ってきてください」


 声をかけた私の姿を見て、青年の美しい顔が驚愕と困惑の色に染まった。それを見た私は小さくため息をついてから、皮肉を言ってやった。


 …そりゃそうだよね。私、何を期待してたんだ?「あなたは命の恩人です。愛しています」とでも言ってくれると思った?魔物のくせに。


 彼の立場に立って考えると意識を取り戻したら目の前に人食いの魔物がいるわけだよ。そりゃ怖いよね、驚くよね。


「……あなたが僕を助けてくださったのですか」

「…ええ」


 しばらく考え込んでいた彼は、恐る恐る私にそう尋ねてきた。「別にエサにするつもりはないし、繁殖したいわけでもないから安心してください」ともう一回皮肉を言ってやろうかと一瞬考えたけど、自分でも幼稚だなと思ったからやめた。


 てかさっきから何で私はちょっと拗ねてるんだ?心のどこかにまだ「人間でありたい。魔物として見られたくない」という気持ちがあったのかな…。人食ってるくせに。


 青年は静かに立ち上がって、私に向かって深々と頭を下げた。


「失礼いたしました。僕はフィリップ・ハルデフェルトと申します。助けていただき、ありがとうございました」

「…アミです」

「ぜひともアミ様に御礼をさせていただきたいのですが、どのように御礼をすれば良いか…」


 あれ?なんか普通に会話が成立し始めたぞ?これが異種族コミュニケーションというものなのか。そういえばラミアは繁殖に人間使うから、普通に人間とコミュニケーションはとれるはずだよね。


「ただの気まぐれだったので礼は要りません。それよりもうすぐ暗くなるんですけど…どうします?森を出たいなら案内します。…いやでも大怪我をされてたし、今日はうちで休んで行かれた方が安全かな?」


 言っておくけど、別に彼に色目を使っているわけでもないし、城に連れ込んでエサにするつもりもないからね。たぶん私、久々に人間とコミュニケーションをとることができてそれが嬉しかったんだ。


 …決して彼が前世含めても見たことがないくらい超絶イケメンだったからじゃないよ。…たぶん。


「…ありがとうございます。ではお言葉に甘えて、一晩お世話になります」


 …って、よく魔物の住処で泊まる気になったね。あなた勇気あるね。それともあれかな?義理堅いタイプで「あんたに助けてもらった命だから、食いたいなら好きにしろ」って感じなのかな?


「わかりました。では案内します。武器はまだ預からせていただきますので、ご了承ください」

「はい、もちろんかまいません」


 …そう答えるフィリップの笑顔があまりにも眩しくて、私は思わず目を逸らしてしまったのであった。

Q:……ってあれ?こういう時どうやって助ければいいんだっけ?ブックマーク?☆評価?

A:(突然意識を取り戻して)できれば両方お願いします!!

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