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7話 襲撃されました

 季節が冬に近づいていた。暖かい城内にいる時は良いけど、外に出ると寒くて動きが鈍くなってしまうのが自分でもわかる。


 やっぱ冬眠すべきだったのかな…。暖房を設置すれば冬眠は要らないって思ってたけど、冬眠をしない場合、冬の間エサをどう確保するかという問題が生じることに最近まで気がつかなかった。


 私の今までの食生活から推測している方もいると思うが、悲しいことにもう私は人間の食べ物を受け付けなくなっている。


 本当に不思議なんだけど、たとえば果物や野菜、パンなど、前世で普通に食べていたものは「食べ物」として認識することができないのだ。「食べられるはず」と理解はしているが、口に運ぶ気にはなれない。

 

 そんな私が食べられるのは肉だけであるが、それも加工したり加熱したりしたものは私には「元々は食べられたけど腐って食べられなくなったもの」のようにしか見えない。


 つまり、私の食糧になり得るのは「生きている状態か、死んだ直後の動物(人間含む)かモンスター」しかなく、残念なことにそれは詩織もほぼ同じである。


 となると、「冬は保存食」というのはまず無理で、食事のためには都度狩りをする必要があるが、問題は寒いところに出ると私も詩織も動きが極端に鈍くなってしまうというところにあった。変温動物つらたん。


 どうしたものかな…城に牢屋みたいなものを作って生きたままのエサを閉じ込めておくって手もあるとは思うけど…それだとガチで妖怪の住処って感じがするからまだちょっと抵抗がある。


 いや、まあ…実際に妖怪の住処なんだけどさ。


 そんなことを考えながらエサを求めて森の中を進んでいたところ、詩織がやや緊張した感じで声をかけてきた。


「…亜美」

「……うん」


 短い会話を交わした私たちは、比較的見通しが良い場所に出たところで、その場に止まって静かに待つことにした。…相手が姿を現すのを。


「…ちっ」

「ラミアにアラクネとか、どうなってんのよ、この森」

「気をつけろ、間違いなく強いぞ」

「……」


 4人組のパーティーか…。3人は戦士風の屈強な男性で、一人はフードを深くかぶっていて顔は見えないけど、声とシルエットから推測すると魔導士の女性。


 私たちを見て逃げようとしないということは、自分たちの腕によほど自信があるのか、それともS級モンスターの恐ろしさを全く理解できていない初心者か。


 …見るからに前者だろうね、彼らは。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 ―――――ドン!ドン!ドン!ドン!ドン!


「くううう…うあ"あ"あ"あ"あ"あああ"ああ"あ!死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!!」

「……」


 …いやもうとっくに死んでるから。


 言葉が出ない。目を覆いたい、この場から逃げたい。


 結論からいうと、苦戦はしたけど勝った。今、私の目の前で繰り広げられる光景は、詩織による凄惨な死体蹴りの現場。


 詩織は狂気じみた雄叫び?悲鳴?をあげながら、刃物のような鋭い脚で、地面に倒れているアサシンを何度も何度も踏みつけていた。


 強烈な憎しみや怒りがこもった詩織の脚は、アサシンの遺体をいとも簡単に貫通し、轟音を響かせながら何度も地面に深く突き刺さる。


 当然ながら周りは血の海になっているし、アサシンの遺体はすでに原形をとどめていないし…。こんな残酷な表現だらけの現場に立ち会いたくなかったな。しかもこれ、私が原因なんだよね。


 4人だと思っていた冒険者パーティーは実際には5人だった。5人目のメンバーはアサシンで、切り札の彼が隙を見て戦闘に乱入して私か詩織のどちらかを討ち取るというプランだったらしい。


 冒険者たちの腕は超一流だった。そして作戦も素晴らしかった。最初から詩織だけをターゲットにして、魔導士のお姉さんは私の動きを封じることだけに専念し、その間に3人の戦士が詩織に総攻撃をかけたのである。


 いくら詩織がS級モンスターとはいえ、3:1の戦いで相手の3人は全員が超一流の実力者。しかも外が寒いので、詩織は正常なコンディションではない状況。


 それでも互角以上の戦いをしていた詩織の戦闘能力はさすがは化物といったところだが、詩織に一瞬の隙が生じた瞬間、それまで隠れていた切り札のアサシンが詩織に襲い掛かった。


 詩織はアサシンの攻撃を防げない、そして魔法での支援も間に合わないと判断した私は、咄嗟の判断で自分の蛇の下半身を無理やり伸ばして、アサシンの短剣を自分の身体で受け止める方法でなんとか詩織を守った。


 驚いたことに、アサシンの短剣は私の硬いウロコを貫通して、私の尻尾には深い刺傷がついてしまった。たぶん特殊な武器だったんだろうね。


 激しい痛みに耐えつつ次の魔法を準備する私。でも私が動く前に、詩織が突然理性を失って暴れだした。雄叫びをあげながら捨て身としか思えない乱暴な攻撃をしかけ、その動きを予想できなかった一人の戦士の顔面に脚を突き刺したのである。


 …即死だったんだろうな。


 そして冒険者たちの動揺を見逃すことなく私が魔法でもう一人の戦士を討ち取ったので、戦況は5:2から3:2になった。そして3人では私たちに敵わないと判断したのか、残りの冒険者たちは逃亡を選択した。


 でも詩織はまるでス〇イダーマンのように糸を飛ばしたり、あり得ない跳躍力で相手に覆いかぶさったりして、一人も逃さず冒険者たちを生きたまま捕まえてしまった。


 そして私が呆気にとられて彼女の姿をボーッと見つめる中、詩織は明らかに相手を痛めつけて苦しませる意図をもって、まだ生きていた3名の冒険者たちをゆっくりと嬲り殺した。狂気に満ちた恐ろしい笑みを浮かべながら。


 私に直接怪我を負わせたアサシンに関しては、詩織は彼が絶命してもまだ気が晴れないのか、先ほどのおぞましい死体蹴りを行っていたというわけである。


 もちろん私としては詩織を止めたかったけど、情けないことに詩織の狂気に完全にビビッてしまって声をかけることができなかった。


 だから少し離れたところで負傷した自分の下半身に回復魔法をかけながら、詩織が落ち着くのを持った。


 なんというか…私もこの世界に来た初日に理性を失って暴れたことがあるけど、やっぱり魔物の本能がどうしても前面に出てくる場面があるのかな。


 ……時間が経てば経つほど魔物としての本能を抑え込むのが難しくなる…とかはないよね?大丈夫だよね?



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



「ごめん、ドン引きしたよね…」

「ううん、そんなことないよ。私も詩織と再会する前に暴走したことあるし」


 帰り道、詩織がしょんぼりした顔で私に謝罪してきた。正直びっくりしたし、ビビったけど、別にドン引きはしてないよ。だから安心してね。


 ちなみに今日の狩りは先ほどの戦闘で終了。冬だから二人とも動きが鈍いし、私は回復魔法使って治したとはいえ怪我をしたわけだし、……結構な量のエサも確保できたし。


 ということで、無理をせず目の前のエサをいただくことにした。比較的まともな状態だった、最初に討ち取った戦士二人を私がいただいて、残りの3人は詩織が、ということになった。


 その3人の中には相当腕の立つ魔導士もいたから、これで詩織の魔法のレベルもグンと上がるはず。


 ……いや、まずいな。もう人を食べることに対する抵抗がだいぶ薄れてきている。むしろ「命を奪ったのに食べないのは逆に申し訳ない」と思っている自分がいる


 このまま私は心まで魔物になってしまうのだろうか…。

 えっ、もしかしてもうなってる?


「でもごめん…。わたしのせいで怪我させちゃって…そのうえに不快な思いまでさせて…」

「そんなことないってば。私が怪我したから怒ってくれたんでしょ?むしろちょっと嬉しかったよ」

「…ありがとう。……怪我はもう大丈夫なんだよね?」

「もちろん!…あ、そうだ。帰ったら一緒に温泉入ろう?寒いし疲れたし、早くお風呂入りたい」

「…うん」

「元気出して!ほら、私の怪我も大したことなかったし、お腹もいっぱいになったし!」

「……ありがとう」


 少しだけ元気が出たのか、詩織は柔らかい笑みを浮かべて私の手を握ってきた。優しく彼女の手を握り返す私。


 詩織にとって、私はこの世界における唯一の友人であり家族でもある。もちろん、私にとっての詩織もそうだ。


 もしどちらかが先に死んでしまったら、残された方は一人ぼっちの世界で何百年も生きていかなければならない。


 新しく友人や家族を作れば良いのではって?いや、それはたぶん難しい。何せ私たちは魔物、それも強大な力を持つ人食いの魔物だから。


 この世界の人間たちは私たちの姿を見ると逃げるか、攻撃してくるかのどっちかだからね。共存なんて夢物語に過ぎない。


 なら同族ならどうかというと、ラミアもアラクネも群れを作らない単独行動の魔物で、個体数も非常に少ない。


 だから同じラミアやアラクネの友人を作るのもたぶん難しいと思う。万が一出会えたとしても、友人になるよりは殺し合いになる可能性の方が遥かに高いだろうし。


 だから、私と詩織はお互いにとって唯一無二の存在。そんな相手が怪我をしたとなると、理性を失って暴れてしまうのも分かる。もし怪我をしたのが詩織だったら、私だって暴れていたはず。


 正直相手を嬲り殺したり、ぐちゃぐちゃになるまで踏みつぶしたりする姿はちょっと怖かったけど、それだけ私のことを大事にしてくれているとポジティブに考えよう。


 私も詩織のことをもっともっと大事にしなきゃ…!

……いや、まずいな。もうブックマークや☆評価をおねだりすることに対する抵抗がだいぶ薄れてきている。むしろ「最新話を投稿したのにおねだりをしないのは逆に申し訳ない」と思っている自分がいる。

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[一言] あとがきも楽しみにしています(*´ч`*)
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