3話 アラクネさんは親友でした
お互いが日本からの転生者だってことが判明してから、私たちはとりあえずミノタウロスを半分に分けて食事をすることにした。
私もそうだけど、どうやらアラクネさんも生きている状態か、死んでからあまり時間が経っていない状態の獲物を好むらしく、とりあえず獲物が新鮮なうちに食事を済ませてから話をしようということになった。
ちなみにミノタウロスはアラクネさんが刃物のように鋭い脚を使って簡単に縦に真っ二つにしてくれた。…こっわ。
そしてお互いの食事風景はおそらくお互いにとって刺激が強すぎるだろうということで、私たちは少し離れたところでそれぞれ食事をとってから改めて合流することにした。
しばらくして、先ほど出会った場所に戻った私たちは、会話をするにあたってなるべくお互いの姿がお互いの目に入らないようにしようということで、同じ方向を向いて横並びになった状態で会話を始めることにした。
なんだか先ほどからとても気が合うね、アラクネさん。そしてたぶん彼女、前世から蛇がめちゃくちゃ苦手なんだろうね。
まあ、いずれにしても自己紹介からいきましょう。
「…では改めて自己紹介しますね。私は海老原亜美っていいます。日本では大学生でした」
「…っ!?海老原亜美!?亜美なの?加世田大学文学部の!?」
「えっ?は、はい」
えっ何?なんで大学に学部まで知ってるの?もしかして前世の知り合い?
でもそれを確認する暇もなく、次の瞬間、私の目の前にアラクネさんが飛び出して、私に襲ってきた!ダメだ、私また死ぬ!今度は蜘蛛に殺される!
「亜美!亜美なんだよね!わたし詩織だよ、南雲詩織!!会いたかった、会いたかったよぉー!!」
涙を流しながら、まるで体当たりのような感じで私に抱きついてきたアラクネさん。…というか、アラクネの姿をした私の親友。
嬉しい中でも蜘蛛に対する恐怖を完全には忘れられない私は、なるべく彼女の下半身には触れないように気をつけながら、少しぎこちない感じで彼女を抱きしめた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その後、私と詩織はお互いの記憶や情報を交換した。私の推測通り、私たちを乗せたバスは交通事故に巻き込まれたらしく、おそらく私も詩織もその事故で命を落としたみたい。
詩織も詳しくは覚えていなかったけど、道路のガードレールを突き破って落下した可能性が高いらしく、たぶん乗っていた乗客の大半が亡くなったんじゃないかという話だった。
……残念。詩織は無事に生きていてほしかったのに。
この世界に転生してからの彼女の行動は私とほぼ同じような感じだった。気が付いたら下半身蜘蛛の魔物になっていて、襲ってきた冒険者を捕食したらその知識と経験が吸収できて、その後は特に目的もなく過ごしていたところで今日、私に出会ったと。
ちなみに今彼女が着ているシンプルな白い洋服は彼女が自分の糸を使って作ったらしい。だからこの世界の冒険者が着ているものと微妙に印象が違ったんだね。
そしてなぜか途中からとても暗い表情になっていた詩織は、お互いが持つ情報の交換が一段落した段階で、蜘蛛の脚全てを無理やり折りたたむような形にして私に土下座のようなポーズをとりながら謝罪してきた。
「ごめん、亜美。亜美が死んだのも、ラミアに転生しちゃったのも、全部わたしのせい。謝って済む問題じゃないし、許してもらえるとも思ってないけど、それでも謝らせてください。本当にごめんなさい」
「…えっ?……なんで?交通事故はどう考えても詩織のせいじゃないし、ラミアになったのもそうじゃん」
「ううん、どっちもわたしのせい。亜美を旅行に誘ったのはわたしだったし、あと、ラミアになったのも……」
「……?」
一瞬、続きを言い出すのをためらった詩織は、意を決したような表情で話を続けた。
「……わたし、帰りのバスで亜美に小学生みたいな毒吐いてた。亜美のことなんか大嫌い、蛇の次に嫌いって。亜美なんか生まれ変わったら蛇になっちゃえばいいんだって」
「……」
「私、どんなに謝っても許してもらえないようなことをしました。亜美が目の前から消えろって言うならもちろんそうするし、死ねって言うなら喜んで亜美のエサになります。本当に申し訳ございませんでした」
改めて頭を下げる詩織。いや、エサになるって…ちょっと魔物生活に早くも適応しすぎじゃないですかね、詩織さん…。
そして詩織の話を聞いた瞬間、私は前世最後の日、自分も眠る直前までバスの中で詩織に毒を吐いていたことを思い出してしまった。その内容は確か…
(もう大嫌い、蜘蛛の次に嫌い。詩織なんか生まれ変わったら蜘蛛になっちゃえばいいんだ…!)
……笑っちゃうな。やっぱ私たち、バカで幼稚なところ含めてめちゃくちゃ気が合うじゃん。伊達に15年も親友やってない。
私はそれまでのトグロを巻いた姿勢を改めて、自分もなんとか土下座のような姿勢を作って詩織に頭を下げた。脚がないからちゃんとした土下座はもちろん無理だけど。
「こちらこそごめんなさい。詩織がアラクネになった原因、たぶん私です」
「…えっ?」
「私も帰りのバスで詩織と同じようなこと思ってたから。私が蜘蛛すごく苦手なの、知ってるでしょ?」
「……なるほどね。…いやでも、やっぱり原因はわたしにあるよ。わたしが旅行に誘わなければ、二人とも死ななかったわけだし」
「そんなことないって。交通事故だったんだから仕方がないじゃん。……それよりも私たち、やっぱ幼稚でバカなところも含めて気が合うね。そう思わない?」
そう言いながら詩織に笑顔を向けてみた。私の顔を見て安心したのか、詩織も少しだけ笑顔を見せてくれた。
「…それは確かに。ふふ」
「どう考えてもお互い様だし、過ぎたことは仕方がないからもう忘れよう?これからまた仲良くやっていこうよ。せっかく詩織と再会できたのにいなくなっちゃいやだよ。一緒にいて?」
「亜美が許してくれるなら、もちろんわたしはずっと亜美と一緒にいたいと思ってるよ…?」
「許すとかじゃなくて、私から詩織にお願いしてるの。これからもずっと私と一緒にいてください、お願いします」
「…はい、こちらこそよろしくお願いします」
こうやって、二匹のS級モンスターは、行動をともにすることになったのだった。
無理やり土下座のような姿勢を作って頭を下げますので、どうかブックマークや☆での評価をよろしくお願いいたします。




