サイドストーリー わたしの女神様
詩織視点です
わたしは孤独だった。両親は多忙でしかも不仲。幼い頃から優秀すぎる姉と常に比較され、両親に心から愛されていると感じたことは一度もなかった。
…裕福な家庭で何不自由なく育ったから自分が育った環境に文句は言えないけどね。
そんなわたしの心の空白を埋めてくれたのは、幼稚園の頃に出会った親友の亜美だった。彼女と仲良くなったきっかけや理由は正確には思い出せない。たぶんたまたま席が近くて、家も近くて、家族構成も似ていたから自然と仲良くなったんだと思う。
彼女は他の友達よりもわたしのことを優先してくれて、いつの間にかわたしを「一番仲の良いお友達」と言ってくれるようになった。
わたしにとって彼女は、それまで一度も満たされることがなかった「誰かの一番でありたい」という欲求を満たしてくれる唯一の存在だった。
そして幸運なことに亜美とわたしは同じ小学校に進学し、中学は自分たちの意思で同じ中学を受験して二人とも無事合格した。
今思うと、亜美は幼稚園の頃からわたしの中で、世界でもっとも優先すべき存在だった。自覚はしてなかったけど、きっとわたしは幼稚園の頃から百合&ヤンデレ属性の幼女だったんだ。
…我ながら大変ニッチな存在だったと思う。
わたしが本格的に彼女に恋愛感情を抱くようになったきっかけは、中学時代、一時期いじめに遭っていたわたしを彼女が助けてくれたことだった。
ニコニコしながらわたしをいじめていた主犯格の女にカッターナイフを突きつける彼女の姿は、客観的に見ると間違いなく「ヤバいやつ」だったと思うけど、わたしには救世主や女神にしか見えなかった。
この先、何百年生きるとしても、わたしはあの時の彼女の姿を忘れることはないだろう。
そしてその日以来、わたしは彼女に恋をしているという自分の気持ちをはっきりと自覚するようになった。
でもわたしは自分の気持ちを彼女に伝えることはしなかった。いやできなかった。彼女にその気がないことは、誰よりも近くで彼女を見てきたわたしが一番よく理解していたから。
彼女は男の人…特にイケメンが大好きで、常に恋愛に興味津々、ちょっと惚れっぽいところまである「至って普通の女の子」だった。…わたしとは違って。
悲しいけど、仕方のないことだった。彼女に恋愛対象として見てもらえる可能性はないと、何度も自分に言い聞かせるしかなかった。わたしの自分勝手な恋心よりも、彼女の幸せの方が遥かに大事だしね。
だからわたしは、自分の気持ちを表に出すことなく、ただ彼女の隣で、彼女の親友として生きていく。そう決めていた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
大学に入って、亜美は今まででもっともイケメンで、もっとも最低な男と付き合い始めた。
亜美の彼氏…彼女にとって最後の彼氏になってしまった男の最低エピソードは、それだけで論文が書けるほど存在するけど、列挙したところで腹が立つだけなので省略する。
一つだけ紹介すると、彼はわたしが亜美の親友であることを知りながら、普通にわたしのことも口説いてきた。暴れたり刺したりしなかったわたし、偉い!
でもわたしが偉かったのはそこまで。
彼の行動に薄々気づいていて、それを深く悲しんでいながらも彼に執着する亜美の姿を見ていて段々我慢ができなくなったわたしは、バイト代をつぎ込んで探偵を雇った。そして亜美の彼氏の浮気の証拠をつかんで、その証拠を亜美に叩きつけた。
今思えば「何様なんだよ」って自分でも思う。前世最後の夜、亜美が怒ってたのも理解できる。逆の立場だったらわたしだってきっと不快に思ったはず。
当時はあんなしょうもないクズ男のせいで亜美が傷ついて、苦しむのはもう許せないと自分の行動を正当化してたんだよね…。
でも今ならわかる。きっとわたしは亜美が自分以外の人間に恋をして、自分以外の人間のせいで涙を流す姿を見たくないだけだったんだ。
どこまでも自己中な人間だよね、わたし…。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「申し訳ございません。私たちは二人で静かに暮らす場所を探しておりまして…。どうか見逃していただけませんでしょうか」
ゴールドドラゴンを前にしても、亜美は堂々としていた。恐怖に震えて立っているのがやっとのわたしとは大違い。
ゴールドドラゴンと堂々と交渉をしている亜美の背中を見つめながら、わたしは彼女が自分をいじめから救ってくれた中学時代のことを思い出していた。
そして、亜美による交渉はうまくいって、わたしたちは無事ドラゴンの巣から逃げ出すことができた。
やっぱり素敵だな…カッコいいな…大好きだな…。
いつだって彼女はわたしだけのヒーローで、わたしだけの聖女様で、わたしだけの女神様だった。
でもそんな大切な人を相手に一時的な感情で「生まれ変わったら蛇になれば良い」というとんでもない暴言を吐いていた愚かな女がいるらしい。
……やっぱわたしは、もう一度くらい死んでおくべきかもしれない。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
亜美が、傷つけられた。
そのことを認識した瞬間、わたしは前世含めて一度も経験したことがない状態に陥ってしまった。
世界が真っ赤に染まった。比喩とかではなく、本当に視界に入るものすべてが赤く見えるようになった。
そして自分の体のコントロールが効かなくなった。意識ははっきりしているが、自分の体を自分で動かすことができない。なぜなら体が勝手に動いちゃってるから。
おそらく「魔物としての本能に支配された」という状況だったとは思うけど…。
自分たちを攻撃してきた冒険者たちを返り討ちにしたのは良いとしても、後半3人の殺し方とか、亜美を直接傷つけたアサシンへの死体蹴りとかはいくらなんでもやりすぎ。どう考えてもやりすぎ。
自分にドン引きした。前から理解はしていたけど、自分は本当に魔物になってしまったんだなと実感した。
そして自分でも引くような姿を亜美に見られてしまったのが何よりも悲しかった。
でも彼女はそんなわたしの姿を見ても、変わらぬ笑顔でわたしに接してくれた。落ち込むわたしを励まそうとしてくれた。自分が怪我をしたことに怒ってくれたのが嬉しいとまで言ってくれた。
……幸せだな、わたし。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「もし詩織さえよければ、私は今からでも詩織の気持ちに真剣に向き合っていきたいと思ってる」
「今まで親友として過ごした時間があまりにも長いから、今すぐ詩織の恋人として振る舞うことは難しいと思う。でも、少なくとも今日からは詩織の気持ちをちゃんと受け止めて、詩織のことを恋愛対象として見ていきたいと思ってる」
「…大好き。これからも末永くよろしくね」
…
……
……これは、本当に現実なんだろうか。
興奮が収まらず、眠れる気がしない。前世からの夢…叶うはずがなかった、わたし唯一の夢が、叶った。叶ってしまった。
彼女にキスされた右の頬をなぞってみる。
……現実なんだよね。これから亜美は、わたしのことを恋愛対象としてみてくれるんだよね。近いうちにわたしと亜美は恋人同士になるんだよね…?
自分の気持ちを的確に表現できる言葉が見つからない。
強いて言うなら、世界のすべてを手に入れたような気持ちとでも言うべきかな。
うん、そうだね。いつだって亜美はわたしの世界のすべてだったから。
亜美がわたしのものになってくれるというのは、わたしにとっては世界のすべてを手に入れたのと同じ意味なんだ。
…亜美のこと、絶対に幸せにしなきゃ。
これから数百年間、彼女が受け止めきれないくらいの愛情を毎日注いで注いで注ぎまくって、いつか彼女が死ぬときは「詩織と一緒で幸せだった」って思ってもらえるように頑張ろう。
彼女を世界で一番幸せな存在にしてみせよう。
彼女と二人で、幸せになろう。
…わたしを選んでくれて本当にありがとう、亜美。
いつまでも愛してるよ。
わたしの女神様。
本作はこれで完結しました。
こんなニッチな作品を読んでいただき、ありがとうございます!
そしてブックマークや☆評価をくださった慈悲深き神々の皆様、本当にありがとうございました…!
あの…えっと…もしブックマークや☆評価をまだされていない方で、「入れてやってもいいよ」って方は…ぜひお願いします。ぜひ…!(土下座)
最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました!!




