最終話 ラミアさんとアラクネさん
フィリップと別れた私が城に戻ったらすでに午後になっていた。案外広いんだよね、この森…。
早速詩織と話がしたいと思った私は彼女の部屋に向かったけど、部屋に詩織の姿はなかった。
(あれ…?どこいったんだろ?)
その後、私の部屋や書斎、露天風呂など、詩織がいそうな場所をすべて確認したけど、彼女の姿を見つけることはできなかった。
おかしいな…。彼女が城内か、城の近くにいることは間違いなかった。彼女が放つS級モンスターが特有の強烈なオーラが近くで感じされるから、彼女が外出中というのは考えにくい。
でもあの巨大な姿が見当たらない。…どこにいるんだ?
「詩織―!どこ?出てきて!」
…城の中央にある謁見の間で、城内全体に響くように魔力を込めて声を送ってみたけれど、詩織からは何も反応がなかった。
諦めて私が謁見の間から立ち去ろうとした次の瞬間。
「…なんか用?」
突如として私の視界に巨大なアラクネが入ってきた。どうやら謁見の間の入口近くの天井に張り付いていたらしい詩織が、また糸を使ってダイナミックに私のところに降りてきたようだった。
「…!?も、もう…驚かせないでよ。」
「ごめん。…でももう、悲鳴はあげなくなったんだね」
詩織はちょっと拗ねたような、でもちょっと嬉しいような口調でそんなこと言ってきた。そういえば黒の塔で同じようなことをされた時は私、情けない悲鳴をあげてたね。
「でも急に現れたらやっぱ驚くよ。…まあいいや、そんなことよりちょっと詩織とお話がしたいの。いい?」
「…うん」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その後、私の部屋に場所を移した私たちは、いつものようにそれぞれのハンモックに腰をかけて話をはじめた。…私たちの場合、特殊な下半身をしているので「腰をかける」という表現が適切かどうかはわからないけど。
「単刀直入に聞くね。詩織ってさ、私のことが好きなの?」
「…っ!?…もちろん好き、だよ?」
私の質問がストレートすぎたのか、詩織は一瞬驚いた顔をして、その後、目をそらしながら少し気まずそうな声で返事をしてきた。
「…えっと、それって友達として好きってこと?それとも…私とキスとか、それ以上のことをしてもいいって意味で好きなの?」
「……」
「ごめん、私の聞き方、ストレートすぎたかな」
「……ううん、大丈夫。…でも急にどうしたの?」
なぜか私の顔色を伺うような感じで恐る恐る質問をする詩織。そんな彼女の目を真っすぐ見つめながら、私は彼女の気持ちを確かめようと思った理由を正直に彼女に話した。
前世から詩織が彼氏を作ろうとしないことを不思議に思っていたこと、昨晩の夢を見て前世の最後の夜に彼女とケンカをした理由を思い出したこと。
夢を見たことがきっかけで、前世からの疑問やフィリップに対する拒否反応などがすべて「私に対する好意からくるものでは?」と考えるようになったこと。
そして「もし違っていれば遠慮なく笑い飛ばしてほしい」という私の言葉を聞いて、彼女は目に涙を溜めながら首を横に振った。
「…違わないよ。わたしは亜美のことが好き。昔からずっと好きだった。…もちろん、友達として好きという意味じゃない」
「そうだったんだ。それってもしかして中学時代から?」
「…うん」
「…ごめん。長い間全く気づかなくて…」
「謝らなくていいよ。気づかなくて当然だし…」
「ううん、私がもう少し想像力のある人間だったら、きっと詩織の気持ちに気づいてたと思う。だからごめん」
「…仕方ないって、女の子同士だし」
…素直に申し訳ないと思ったから謝ったけど、よく考えると私が謝りすぎると逆に詩織はつらいかもしれないな。
そもそも謝りたくてこの話題を出したわけではないし、そろそろ切り替えていこう。
「これからのことなんだけど」
「…うん」
なぜか怯えたような表情で私の言葉に耳を傾ける詩織。
「もし詩織さえよければ、私は今からでも詩織の気持ちに真剣に向き合っていきたいと思ってる」
「…えっ?」
「今まで親友として過ごした時間があまりにも長いから、今すぐ詩織の恋人として振る舞うことは難しいと思う。でも、少なくとも今日からは詩織の気持ちをちゃんと受け止めて、詩織のことを恋愛対象として見ていきたいと思ってる」
「…いいの?わたしたち、女の子同士だよ…?わたしのこと、気持ち悪いとか思わないの?」
思うわけないじゃん。…でもきっとあれだろうね。私に口に出して否定してほしくて、安心させてほしくて言ってるんだろうね。
「気持ち悪いと思うわけないじゃん」
「そう、なんだ…」
「…てか詩織、まだ人間気分が抜けてないんじゃないの?」
「えっ?」
「アラクネもラミアも「性別」なんかないじゃん。どっちも女性型のモンスターなんだから。もう私たちは、性別とか関係ない存在になったんだよ」
「なにそれ。…ふふ、でもありがとう。嬉しい」
安心したような表情で笑顔を見せてくれる詩織。その笑顔は、私に詩織に対する好意や親愛の感情を再確認させるような笑顔だった。
今の私の彼女への好意や親愛が、純粋に親友や家族に対する感情なのか、それともすでに私も詩織に対して多少なりとも恋愛感情を抱いているかは私にもわからない。
でも一つだけ、確実に言えることは、私は詩織のことが大好きで、世界で一番大切な存在だと思っているということ。
「…大好き。これからも末永くよろしくね」
気がついたら私はそう囁きながら、うれし涙を流している詩織の頬に口づけをしていた。
後から思い出すとたぶん恥ずかしく顔から火が出そうになるキザな行動だと思うけど、今はなんか変なスイッチが入ってるから仕方ない…!
…詩織は嬉しそうにしてくれてるし、別にいいよね!
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
目が覚めたら、拘束されていた。
人間の上半身だけではなく、締め付ける力で巨樹を粉々にできる蛇の下半身まで詩織の糸でぐるぐる巻きにされて、どう頑張っても少しも動かすことができない状態になっていた。
「はぁ…」
思わずため息をつく私。…今日はそういう気分ってことですね。
詩織と恋人同士の関係になってどれくらい時が経ったんだろう。二人の関係において私が主導権を握っていたのは最初のうちだけだった。
お付き合いするようになってわずか数週間で、詩織は自分の中の何かに目覚めてしまった。そしてあっという間に私たちの関係は変化した。
簡単にいうと、詩織は天性のドSタチだった。そしてちょっと悔しいことに、彼女と関係を重ねる中で、私はいとも簡単に従順なドMネコに調教されてしまった。
いやまあ、彼女との相性が抜群という意味では嬉しいけどね。
「おはよう♡」
妖艶な笑みを浮かべた詩織が、私を見下ろしながら朝の挨拶をしてきた。
…そう。まだ朝なんだけどなぁ。でも今すぐ何かが始まるんだろうな。詩織さん、舌なめずりしていますし。
「おはよう。…えーっと、前も同じようなことを言ったと思うけど、寝てる間に拘束するのやめない?」
「…どうして?」
妖しい笑みを浮かべたまま、指で私の頬と顎を優しく撫でながらそう答える詩織。
「…ん。…いや、うん、何でもない。もう好きにして…」
悔しいけど、もう私は彼女に顔を少し撫でられただけで全身に力が入らなくなる体にされてしまっていた。力が入ったところでガチガチに拘束されているから何の意味もないけど。
やっぱこの世界にきて初めて詩織に会った時の印象は間違ってなかったんだよ。私はもう、彼女には逆立ちしてもかなわない。
「では、お言葉に甘えて♡」
…そして、その日もラミアさんはアラクネさんに失神寸前まで弄ばれましたとさ。
END
これで本編完結です。
明日、詩織視点の短いお話を投稿して本作は終了します。
こんなニッチなお話を最終話まで読んでいただいた皆様、本当にありがとうございます。
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