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10話 イケメン返してきました

 前世の夢を見て、私の中で詩織に関するある仮説が立った。その仮説とは…間違っていたらものすごく恥ずかしい話ではあるけど、もしかしたら詩織は、前世から私のことが好きだったのかもしれないというものだった。


 …友達としての好きではなく、恋愛的な意味で。


 そう考えると、昨日のフィリップに対する激しい拒否反応だけではなく、私が前世から詩織に対してずっと不思議に思っていたところや、前世最後に彼女とケンカをするきっかけとなった彼女の「余計なお世話」の原因まで、あらゆる疑問が解消され辻褄が合う。


 …私が前世、詩織に対してずっと不思議に思っていたところ、それは、彼女が相当モテていたにもかかわらず、20歳で亡くなるまで一度も彼氏を作ったことがないということだった。


 詩織に惚れて「ついでに」私とも仲良くなった男子が、彼女には全く相手にされず、彼を慰めていた私と付き合ったことさえある。


 どんなイケメンにアプローチされても詩織は常に無関心。かといって、私が知っている限り特定の男性にずっと片思いをしているというわけでもなかった。少なくとも私はそんな男の存在を知らないし、相談を受けたことも一度もない。


 そして恋愛関係の話題については、私が何度詩織に話を振ってみても、彼女からは「わたし、あまり男に興味ないんだよね」という素っ気ない返事しか返ってこなかった。


 当時は理想が高い?それとも恋愛自体に興味がない?とあまり深くは考えなかったのだけれど…。


 もし「あまり男に興味ない」というのが紛れもない本心だったとしたら?特定の男ではなく、特定の女にずっと片思いしていたとしたら…?


 私がクズ男に引っかかって傷ついていたことが、彼女にとっては「愛する人が苦しんで涙を流している姿」だったとしたら…?


 昨日のフィリップに対する冷たい態度は、一人だけイケメンと良い感じなっている私に対する嫉妬ではなく、私に近づくイケメンに対する警戒と嫉妬だとしたら…?


 …そして詩織がもし私に好意を抱いているとしたら、そのきっかけとなったエピソードにも心当たりがあった。


 中学時代、詩織は一時期いじめの被害に遭っていた。そして同じクラスではなかったこともあって、しばらくいじめに気づかなかった私は、いじめに気づいた瞬間激怒して暴れまくった。


 いじめの主犯格の女に物理的に噛みついたり、その子の左目の近くにカッターナイフを持っていって「次やったらあんたの目にこれ、突き刺すからね」とニコニコしながら脅したり…。


 そのせいで、私は中学卒業まで「ヤベーやつ」扱いされたけど、幸いにも詩織に対するいじめはなくなった。


 そして、詩織の私に対する接し方は、私が彼女をいじめから守った時から、その前とは微妙に変化したような気がする。

 

 それまでの幼馴染で親友に対する態度から、彼氏や片思いの相手に対する恋する乙女の言動と言われてもおかしくないような態度に変わったのだ。


 今までは想像もしていなかったけど、思い返してみるとあの時から詩織は私のことが好きだったと考えても全く違和感がない。むしろ自然かも。


 …まあ、人を好きになることに理由やきっかけは必要ないのかもしれないけどさ。


 てか「相手に物理的に噛みついていた」あたり、私は前世からラミアとしての素質を十分持っていたかもしれないなぁ…。



◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆



 フィリップと出会った翌日、私は森の入口に彼を案内していた。


 一晩寝て、冷静になった私は、彼を人間社会に返すべきだという結論を出していた。うん、冷静に考えると当然そうなるよね。詩織の言うとおりだよ。


 私も彼女も人食いの魔物。いつ私たちが魔物としての本能をコントロールできなくなって彼に害をなすか分からない。


 そして、それがないとしても、こんな森の奥で他の人間と一切接することなく、魔物たちとずっと一緒に生きていくという人生は、間違いなく彼にとってあまりにも過酷でストレスフルなものになるだろう。


 …私が浅はかだった。久しぶりにイケメン…それも歴代最強クラスの超絶イケメンと良い感じになってしまって舞い上がっていたのかもしれない。


 だから私は彼にこう伝えた。「気持ちはありがたいけど、私も詩織も人間と長期間共存することはできない。もし私に忠誠を誓ってくれたのであれば、この森に住む私たちの存在を誰にも言わないでほしい。それが私からの最初で最後のお願い」と。


 そして私の言葉に対して「…御意」とカッコよく返事する彼に見惚れ、「やっぱ今のはなし、これからも一緒にいて♡」と言いたくなるのを必死に我慢して、彼の武器を返した。


 武器を受け取って私と戦おうと思えば戦える状況になったにもかかわらず、魔物の私に一切敵意を向けることなく、むしろ「私と離れるのが名残惜しい」といった感じの寂しそうな表情を見せる彼の姿に感動した私は、予め用意した三つのプレゼントを彼に贈ることにした。


 一つ目は彼の武器と防具の魔法による強化。ラミアの魔力と食った魔導士たちの技術をフル活用して、出し惜しみすることなく全力の強化を施した。


 その結果、彼の剣は切れ味と耐久性が大幅に上がって岩を豆腐のように斬れるようになったし、防具の方は物理攻撃だけでなく、ほとんどの攻撃魔法まで弾き返せるようになった。


 元々自力で私たちの城に近づくことができる一流の騎士だった彼は、これでちょっとしたチートキャラになったはずである。


 二つ目は私の毒を薄めた液体が入った小瓶と、その唯一の解毒剤が入っている小瓶のセット。彼は政治的な理由で命を狙われていたわけだから、そういった汚い場面において切り札として使ってもらえれば良いなと思って用意した。


 三つ目は私のウロコが一枚だけついている質素なネックレス。これについては特に使い道はない。…強いていうなら「私のことを忘れないでね」のメッセージを露骨に込めた、そのためだけのプレゼントである。


 …うん、我ながらウザい。


 でもこういうのなんか良くない?神話や物語の中に出てくる「女神による勇者への祝福」みたいな感じでさ。


 …ごめんなさい、魔物のくせに調子に乗りました。


 でも一つ分かったことがある。それは、神話や物語の中の女神たちが勇者に聖剣とか神器を渡したり、祝福を施したりする場面で、たぶん女神たちは祝福する相手の選定も、祝福の内容もそこまで深く考えてやってないだろうということ。


 そんなもん適当だよ。もしかしたら彼女たちもイケメン勇者にちょっと優しくされて、テンションが上がっちゃって何かプレゼントを渡したくなっただけかもしれない。今の私のようにね。


 ……女神と魔物を一緒にするなって話ですよね、すみません。


「このご恩は一生忘れません。どうかお元気で」

「…フィリップさんもお元気で」


 その場で私のウロコがついたネックレスをつけた私の勇者様は、私に深々と頭を下げ、森を去っていった。


 そして私は、彼の姿が見えなくなるまで彼を見送った。

人間世界に戻ったフィリップが有力な軍閥に成り上がり、その長女の「女帝アミ・ハルデフェルト」が1000年続く大帝国を建国するのはまた別の話。

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