723 【真・結城編】ホワイトデーと迫り来る……
七百二十三話 【真・結城編】ホワイトデーと迫り来る……
バレンタインデーのお返しをする日と言えばそう、ホワイトデー。
前世では本当にオレには関係がなさ過ぎて、とてつもなく嫌いなイベントトップ5に入るほどだったのだが今は……
「はいお姉ちゃんホワイトデー」
朝食を終えたと同時。
オレは優香に手の平サイズの薄い小包を手渡した。
「わわ、ありがとう。 これはパスケース……定期券とか入れるやつだよね」
「うん。 お姉ちゃん大学になったらバスで通うって言ってたから、その定期券入れるのに使えるかなーって思って」
「わー、ありがとうダイキ!」
「そしてこっちが星さんに。 星さんのは色違いでお姉ちゃんとお揃いにしたんだ。 やっぱり今日手元に届いて欲しいから学校で渡してくれる?」
「もちろん! ふふ、美咲喜ぶだろうなー」
いつも以上にご機嫌になった優香。
オレはそんな優香に見送られながら家を出た。
◆
マンションを出てすぐ。
オレは一緒に登校していたエマに「ちょっといいか?」と足を止めさせる。
「なに? どうしたのよ」
「エマ、これバレンタインのお返し」
「へー。 さすがダイキ、去年に続いてちゃんと覚えてるなんて素敵よ」
やはりエマは中身がJKなだけあって、褒められるとかなり嬉しいぜ。
オレがエマの褒め言葉にエヘヘと照れている間にエマは中身を開封。「あ、化粧ポーチじゃない。 センスいいわね」とオレの背中をポンと叩いてきた。
「お、気に入ってくれたか」
「うん。 大きさも丁度いいサイズだし、中は……ていうかあれ? 中に何か紙が入ってるわよ」
ポーチの中を覗いていたエマがオレへと視線を上げる。
「そうだな。 何か入ってるな」
「え、何よその勝ち誇った顔は。 まさか変なイタズラしてるんじゃないでしょうね」
「フフフ、手にとってとくと見よ」
エマは少し不快そうな顔をしながらも手をポーチの中へ。「何よ、せっかくのプレゼントなのに変なもの入れるなんて……」と愚痴をこぼしながら取り上げたのだが……
「ーー……って、えええええええ!?!? これ、ニューシーのライブチケット!!! どうしたのよこれ!!!」
エマが目をまん丸にさせながらオレに顔を近づけてくる。
そう、エマの手に握られているもの。
それはエマの大好きな男性アイドルグループ・ニューシーのライブチケットなのである。
予想以上のエマの反応にオレのテンションも一気に上がる。
「ダハハハ!!! そう、その通り! ほら、ちょっと前にニューシングルが出て、その初回盤に抽選ID付いてただろ? 実はオレもちょっと気になり出してたから買ったんだけど、そこでダメもとで申し込んでみたらまさかの当選してな! だったらエマにあげたほうが喜ぶんじゃないかって思って入れといたんだ!」
「ええええ!?!? でもあれめちゃくちゃ倍率高かったわよね!? エマも5枚買って申し込んだけど全滅だったのよ!?」
「それは良かったぜ。 ちなみにそれ……知ってると思うけど2人まで行けるらしいから、ユウリと2人で手毬くんたちに会ってこいよ」
「きゃああああああ!! なにダイキ、今めちゃくちゃカッコいい……ほっぺにチューしてあげる!」
「あふんっ!!」
幸せ絶頂になったエマはそのテンションのままオレの頬にキス。
外気の寒さで冷え切っていた頬……しかしエマの唇が当たった箇所だけがやけに熱くなっていた。
あ、そうだ。 エルシィちゃんにも渡さないと。
ハッと我に返ったオレはエルシィちゃんへと視線を移す。
「エ、エルシィちゃんにはこれね。 はい、キラキラ光るペンセット」
エルシィちゃんは指が一体型の手袋をしてるからな。
オレが代わりに開封したそれをエルシィちゃんにそっと渡す。
「わあああ、これ、エッチーに、くれるんなぁー!?」
「そうだよ、チョコ貰ったからね」
エマのおかげで頬が熱くなってたけど、癒しの天使のスマイルは心の底から温めてくれるぜ。
オレの目の前でエルシィちゃんは細かく飛び跳ねて嬉しさを表現。 「そうなぁ! エッチー、うれちー、のよぉー!? ダイキに、こんど、にがおえ、かいたえう、ねぇー?」と最高のプレゼント予告をしながらオレに抱きついてきた。
「おお、それは最高だ。 楽しみにしてるね」
「んー! ダイキの、かみのけは、そうなぁ……このペンに、するのよー?」
ーー……紫ですけどそれ。 オレ黒髪ですけど。
◆
学校に着いてエルシィちゃんと別れるや否や、エマの周囲にはエマのガチ恋勢……エマナイツたちが集まってくる。
「エマちゃん!!! これ!!!」
「俺のも!!!」
「僕のも!!!!」
「ああああ、分かったから押さないで! ダイキ、先行ってて頂戴!!!」
やはりモテる女子は違うな。
オレは仕方なく1人で正面玄関へ。 寒さで若干震えながら上履きに履き替えていると、「あ、福田おはよー!」と仲良し3人組が声をかけてきた。
「おはようみんな。 ほい三好、ホワイトデー」
オレは三好たちに挨拶を返しながらまず初めに三好にお返しを渡す。
「え、私に!? うわああ、やったー! なに入ってんだろ開けていい?」
目をキラキラさせながら小さめの小袋を開ける三好。 中身を手のひらに乗せると、「わあああああ! ネックレスじゃん!!」と嬉しそうな声をあげる。
「めっちゃ可愛い!! しかもこれ、真ん中についてるのって……」
三好のもう片方の手が髪の毛を縛っているヘアゴムに触れる。
「よく気づいたな。 そう、お前が今してるヘアゴムのと同じ太陽ちゃんだ! やっぱ三好はオレにとって太陽のイメージだからな!」
「な、ななな何言ってんのさ急に!! でもありがと!! ちゅーがく生になったらお洒落もしたいなって思ってたしめっちゃ助かるかも!」
そうそうその笑顔……さすがはオレの太陽だぜ。
一瞬胸がときめきそうになるも、オレは必死にそれに抵抗。 今までの関係こそが最高のオレたちの距離感なんだ……オレはイタズラに笑みを浮かべながら「そうだな! 三好はお洒落しないとな!」と頷いた。
「な、なんでそんな同意してくんのさ」
「だって三好ってお洒落しないとただのメスガキじゃん」
「は、はああああああ!?!? なんでそんな雰囲気ぶち壊すこと言うのさあああああ!!!」
これだよ、これこれ!
この言葉プロレスからの最終的に手が出てくるのが可愛いんだよな。
オレは三好のさほど痛くもない連続パンチを二の腕に受けながら隣でこちらを見ていた多田へと視線を移した。
「そんで多田にもこれ」
「ええ、ウチにもくれんの!?」
まさか自分は貰えないとでも思ってたのか?
多田が目をまん丸に見開きながらオレから受け取ったプレゼントを凝視する。
「当たり前だろ。 チョコくれたら返すのが礼儀だ」
「ありがとー! 中見ていい!?」
「もちろん」
多田に渡したものは写真立て。
多田が「えーー! 超おしゃれ!! なんでウチはこれを選んでくれたの?」と顔を上げてオレに問いかけてくる。
「そんなの決まってんだろ。 多田はまぁ……今後も交流はあるとは思うけど、三好や小畑さんとは違う私立中学に行くだろ? だからそこに3人の写真でも飾って元気出して欲しいって思ってな」
「ちょっと待ってよ、何朝から福田、ウチを泣かそうとしに来てんのさー!!!」
「てことは喜んでくれれるってことだな、よかったぜ」
「当たり前じゃんもおおおおおおお!!!!」
冗談かと思って話を流していたが、確認してみると本当に多田の瞳には薄っすらと涙が浮かんでいる。
「ーー……え、ガチで泣くの?」
「だって嬉しいんだもんーー!!!!」
うわあああああ、これは想定外だ。
残念なことに女の子を慰めるスキルをオレは習得していない。 オレはすぐに多田を三好に任せて小畑の前に。
「それでこれが小畑さんに」とお返しのプレゼントを差し出した。
「ねぇー、なんで私が最後なわけー?」
小畑が唇を尖らせながらオレに不満一杯の視線を送ってくる。
「いや、やっぱり将来のスターには締めが相応しいかと」
「ふーーん、分かってんじゃん」
あれ、なんか謎に納得してくれたぞ。
小畑が紙袋から取り出したのは水色パステルカラーのコンパクトミラー。 これまた多田と同様「なんでこれ選んでくれたの?」と尋ねてくる。
「うん。 やっぱりアイドルで人前に出るんだし、前髪とか色々見る機会あるかなーって思って」
「へええええ、さっすが福田、分かってんじゃん!! もし福田が将来お仕事なくて困ってたら私の専属マネージャーにしたげる!」
「そ、それはどうも……」
な、なんか超お金周りの良さそうな将来が約束されたぞ?
こんな感じで会う人に順番に渡していくオレ。
次は誰かなーと周囲を見渡しながら廊下を歩いていると、階段を上った先……男子に囲まれている小畑の姿を発見した。
「あああ! ごしゅ……福田くーーん!!!」
オレの存在にいち早く気づいた水島が周囲の男子たちを押しのけてオレのもとへと走ってくる。
「おいおい、いいのか水島。 みんなからホワイトデーもらってたんだろ?」
「いいのー。 ていうかみんなクッキーだしそんなに食べきれないもんー」
そう嘆く水島の手には大きな紙袋。
軽く中を覗いてみると、そのほとんどがクッキーやチョコレートのパッケージで埋め尽くされていた。
「そうなのか。 てかなんか大変だな」
「うんー。 それにクッキーとかケーキだと、お兄ちゃんの作ったやつの方が美味しいしねー」
「えええ、お兄さんクッキー作れんのか!」
「そうだよー。 まぁ最後に食べたのは花ちゃんが小ちゃな頃だけどね。 今はママとパパに怒られて親戚のところで働かされてるんだけど……久しぶりにお兄ちゃんのチョコとかクッキー食べたいなぁー」
なんか色々と闇を感じたぞ。
そういや水島の兄って大学生……だったっけか? 妹を股間の上に乗せてエロゲーをしていた兄……もしかして部屋に引きこもりすぎて学校にも行かなくなった結果、水島両親の我慢が限界にきてしまったのだろうか。
まぁこんな可愛い妹がいたら、そりゃあ大学行っても周りに魅力を感じなくもなるわな。
特に水島兄……詳しくは知らないけどおそらくロリコンだし。
オレは自分と似た性癖を持っているのであろう水島兄に軽く同情。
その後「あ、そうだ。 これ水島に」と渡す予定だったプレゼントを水島に渡した。
「わああ、香水だ、ありがとー」
早速開封した水島はキャップを外して香りを確認。
「いい匂いー」と柔らかい笑みを浮かべる。
「もう水島はマドンナで完璧すぎるから何あげたらいいか分からなかったからな。 確か前回は化粧水とかだったし……好みの香りじゃなかったら処分してくれ」
「ううん、花ちゃん香水好きだから嬉しいなぁー! 大事にするねー!」
大きく手を振る水島に見送られ、その背後からかなりのヘイトの込められた視線を受けながらオレはその場を後にする。
もしかして今日、どこかで水島ガチ恋勢から襲撃されるんじゃないか?
そんなことを考えながら教室へと向かっていると、丁度女子トイレ前を通過したあたりでトイレから出てくる西園寺と鉢会った。
「おわわビックリした。 西園寺か」
いきなり出てきた西園寺にオレは思わず声が漏れる。
「あ、福田くん。 おはよ」
西園寺……相変わらず公の前では清楚キャラだな。
オレは改めて西園寺の美人オーラに感動。 しかしすぐに我に帰ると、若干焦りながら周囲を見渡した。
「福田くん? どうしたの?」
「なぁ西園寺、いま西園寺に近くに西園寺組や……綾小路はいるか?」
「え、なんで? 今はいないけど……」
西園寺が首を傾げながら頭上にはてなマークを浮かべる。
「そうか。 じゃあこれ、渡すから誰かに見つかる前に早く隠してくれ!」
オレは素早く西園寺へのプレゼントを取り出し握らせる。
西園寺はオレの行動に驚きながらも手に押し付けられたプレゼントへと視線を落とした。
「え、えええ!? なにこれ!」
「決まってんだろホワイトデーだよ」
「で、でも私今年は福田くんにチョコ渡してないよ!?」
「渡してなくてもあげてもいいだろ! なんかオレ、西園寺に意味不明なフラれ方したけどさ、西園寺はオレにとって大事な友達に変わりないんだから」
まぁ西園寺にとって今のオレは変態友達って位置付けなんだろうけどさ。
それでもいい……オレは今後ともどエロい行動に混ぜて欲しいんだ!!!!
「あ、ありがとう。 でもビックリした……中はなにが入ってるの?」
すぐにポケットに入れたため確認出来ていない西園寺がポケットの上から手を当てながら「な、なんだろこれ」と小さく呟く。
「そうだな、見れないから教えてやろう。 電動歯ブラシだ。 安いやつだけどな」
「電動歯ブラシ? なんで……」
そうなると思ったさ。
まぁだからこそ今からその使用用途を教えるんだけどな。
「普通に使ってもいいけどオレがこれにした理由……西園寺、想像してみろ。 それをパンツの上から……どことは言わないが当てたらどんな感覚なのかを」
「!!!!!!!」
オレの言葉を受けた西園寺が何を考えたのかは分からない。
しかし息を荒げその場でしゃがみ込むと、胸のあたりで両手を組みながら股をキュッと閉じたのだった。
「福田くん……ありがと! 使ったことないけど分かる……絶対いいよねこれ!!」
「フフフ、感想……待ってるぜ」
さて、最後はもうみんな分かってるよな。
そう……結城だ。
まさか朝のうちに全員に渡せるとは思っていなかったぜ。
オレが教室に入るとすでにエマの方が先に到着しており、「あら、どこで寄り道してたの遅かったわね」とオレに声をかけてくる。
「まぁ色々とお返ししててな」
「そう。 それでもちろん……用意してるのよね?」
「当たり前だろ。 最推しだぞ?」
オレは視線を目の前に座っている結城の方へ。
結城が落ち着きなくソワソワしながらこちらの様子を気にしている。
今日が何の日か分かってるんだろうな。
そんなお返しにワクワクする結城、ガチで可愛いぜ!!!!
オレは静かに結城用のお返しを取り出すと、隣でエマに見守られながら「桜子ちゃん」と声をかけた。
「お、おおおはよダイキくん。 そ、その……なに?」
結城の視線はすぐにオレの持っていたプレゼントへ。
早く結城の反応が見たい……そう感じたオレは「これ、バレンタインのお返し」と言いながら少し大きめの紙袋を結城の方へ。 しかし結城へのプレゼントは特別だったため、手渡すと同時に「あまり人前でバレないように開けてね」と小声で耳打ちをする。
「バレない……ように?」
「うん。 桜子ちゃんのはマジで特別だから」
「と、特別……」
『特別』と聞いた結城の顔が若干赤くなる。
「えー、良かったじゃない桜子。 特別だって。 エマも気になるから早く開けて教えてちょうだいよ」
「う、うんっ!」
ウキウキした表情で開封に集中している結城。
それを見たエマが「ダイキ、なかなかに女心分かってるじゃない」と小声で腕を突いてくる。
「あ、やっぱりエマもそう思ってくれるか?」
「えぇ。 女子って『特別』とか『お前だけ』にはめっぽう弱いからね。 何をチョイスしたのよ」
「まぁ見てなって」
封をしていたテープを剥がし終えた結城がゆっくりと中身を取り出す。
「あら、本?」
「う、うん」
それを取り出した結城がそこに書かれていた文字を声に出して読み上げていく。
「い、いっぱい……だしたね? あーる、じゅう……はち?」
結城が大きく瞬きをしながらオレを見つめてくる。
そして自分の耳がおかしくなったと勘違いしたエマが覗き込むように結城の持っていた本を確認。 その後顔を真っ赤にしながらオレを睨みつけてきた。
「ダ、ダイキ……くん、これ……」
「うんうん、入手には苦労したよ」
「え?」
「ほら、前に結城さん、中にいっぱい出されてみたいって言ってたでしょ? だからそれ系に振り切ったエロ漫画をご用意させて頂きました!!!」
オレはすぐに結城に「ていうかみんなにバレちゃうから早くそれしまって」と小声で伝える。
「え、ええええええ?」
「これでたくさん……欲を満たしてくれ。 あ、くれぐれもお母さんや高槻さんにバレないようにだけ頼むね。 じゃないとオレがシバかれかねないから」
ふっ、最推しのためにハイリスクを背負うなんて、なんてかっこいいんだオレ。
しかし何故だろう。
結城は顔を真っ赤にしながらコクリと頷いてランドセルに入れてくれたのだが、結城が体を前へと戻したと同時……エマから強烈なグーパンが横腹に飛んできた。
「ちょっとダイキバカ……そうじゃないでしょ!」
「え?」
「桜子にもエマの時と同じくらいのサプライズしなさいよ! 何が特別よ!! 特別の意味が違うのよ!!」
「あれ、さっきのサプライズじゃなかった? 小学生じゃ絶対に手に入らないエロ漫画を……」
「あああ、もう。 アンタの女子力、高いのかバグってるのか分からなくなったわ……」
おいおい、エロで……自分の性癖関連で喜ばない人間がどこにいる。
そしてこれはオレは正しかったようで、その日の夜、結城から『読んでて恥ずかしかったけど、とってもエッチだった。 ありがとう』と電話越しに最高の感想を頂いたのだった。
そうして時間は過ぎ、いつも結城の様子がおかしくなってくる時間帯……
『ダイキくん……』
「なに?」
『話変わるんだけど……もうあと数日で卒業式だね』
「ん? あぁ……うん。 そうだね」
『あ、あのね、ダイキ……くん、わ、私……私ね』
「うん」
『ーー……ううん、ごめんね、なんでもない。 おやすみ、ダイキくん』
「え、うん。 おやすみ桜子ちゃん」
あれ、おかしいな。
今日はいつものルーティーンと違っていたぞ。
オレは不思議に感じながらも結城との通話を終了。
その後先ほどに結城の言葉を思い出しながら、部屋に掛けていたカレンダーに視線を移したのだった。
「そっか。 毎日が楽しすぎて忘れてたけど……あと5日もしないうちに卒業式なんだ」
お読みいただきましてありがとうございます!!
キリよくするために続けてたらかなり大容量になってしまいました 笑
残り1か2話。グランドフィナーレまであと少しです!!!




