672 【真・結城編】特別編・夢
六百七十二話 【真・結城編】特別編・夢
「えええ!? 桜子……福田くんから『好きです』って……告白されたの!?」
平日夕方の病院。
何気ない雑談の中での突然の愛娘・桜子から打ち明けられた内容に、母である美桜は驚きの声をあげた。
「うん。 ママの手術が成功した次の日に」
娘から受けた初めての色恋の話。
美桜はやっと桜子にも春が来たのだと感じ涙を浮かべる。
「よかったじゃない桜子! ママ、いつか桜子と福田くんがくっついてくれたらいいなって心の中で……」
「でも断ったっていうか……逃げちゃった」
ーー……。
「え?」
思ってもみない展開。
今まであれだけ『福田……くんには感謝してる』とか『温かい』とか聞いてきてたのに、そんなことがあるのだろうか。
美桜の脳内で思い描いていた映像……桜子とダイキが挙式を挙げている絵面が一気に崩壊する。
「えっと……断っちゃったの?」
「うん」
「なんで!? 桜子、福田くんのこと好きだったんじゃないの!?」
この美桜の問いかけに桜子は小さく首を縦に。
「うん、好き……だよ」と美桜を見上げながら答える。
「そ、そうだよね? だって桜子、福田くんにいっぱい助けてもらったりして温かかったって言ってたもんね!?」
「うん」
「じゃあなんで……!?」
あまりの衝撃で病の痛み・倦怠感が一気に吹き飛ぶ。
そして自らの母親が真剣に聞いてきていることを桜子も察したのだろう。 一瞬視線を外して口籠るも再び美桜に視線を戻して小さく口を開いた。
「だって私、ママの方が大事だから……他に何とも比べられないから」
「ーー……え?」
「ママは私と一緒にいると嬉しい?」
「そ、それはそうだよ。 桜子がいてくれるからママ、こんなに頑張れてるんだよ?」
そう……本当に自分がここまで辛い病気と戦えているのは紛れもなく桜子のおかげだ。
毎日の闘病生活は本当に過酷……強い倦怠感は当たり前で、症状が出れば身体中に激しい痛みが……薬の副作用で吐き気を催したり食べ物の味も分かりづらくなるため次第に食自体が細くなっていく。
そんな地獄のような生活の中で愛娘である桜子は唯一の希望の光なのだ。
美桜がそう伝えながら桜子の頭を撫でると、桜子も「私も一緒。 お見舞いに行ったらママが笑ってくれると嬉しい。 安心する」と、幸せそうな顔をしながら美桜に擦り寄って来た。
あぁ、この娘との時間。 なんて幸せなのだろう。
美桜は擦り寄り甘えてきた桜子を優しく抱きしめながら改めてこの子はまだ恋を知らない子供なんだということを実感。
だったらこれは……いい機会かもしれない。
美桜は桜子に恋という感情を目覚めさせることに。
「ちなみに桜子は学校で恋バナとかしないの?」と尋ねてみる。
「恋バナ?」
「そう。 お友達と、『〇〇くんに告白されちゃったー』とか、『付き合いたいー』とか……そんな話しない?」
「うーーん、してる子はいるよ」
「それに桜子は参加しないの?」
「一応話には混ざることもあるけど、私にはそういう経験ないからあんまり話してないかなー」
「でも恋したいって思わない?」
そう問いかけてみるとどうだろう。
桜子は美桜の胸に顔を埋めながら「うーーん、そりゃあいつかは好きな人と付き合って結婚して……それでママみたいな綺麗なママになりたいとは思うけど、今は別にかなー」と答える。
「じゃあちょうどいいじゃないの! 桜子だって福田くんのこと別に嫌いではないんだし付き合ってみたら。 もしかしたらそこで本当の『好き』がわかるかも知らないんだし」
これならいけると美桜は確信。
しかしそれに対する桜子の返事は……子供のようで大人のような……まるで突っ込み難いものとなっていた。
「むー、それ佳奈にも……友達にも言われた」
「そうでしょ? やっぱりママの考えは間違ってない……付き合った上でママに会いにきてくれてもいいんじゃない?」
「でもそれって福田くんに迷惑じゃない?」
「え?」
「好きでもないのに付き合って……それでママだって苦労したわけだし」
ーー……グサっ
これが言葉のナイフ。
桜子の純粋な言葉が美桜の心にダイレクトアタック。
あまりにも的を得た発言だったため美桜は桜子にそれ以上言えず。 言葉を詰まらせながら「え、あ……そ、そうだよね」などと笑ってごまかそうとしていると、桜子が自分の身体を強く抱きしめてきた。
「さ、桜子?」
「ママ。 ママは今は自分の身体を一番に考えて。 私の心配はママが元気になってくれてからでいいから。 私はママが元気になるまでは誰とも付き合わない……ずっとママと一緒にいる」
あぁ、どうしてそこまで。
最近まで接し方を間違えてしまっていたのにこんなにも懐いて……愛してくれているのだろう。
美桜は桜子の意志の強さと愛情ぶかさに改めて関心。
それとともに自分にもしものことがあったらどうしよう……そんなことを考え出した。
この子に何か目標が……それか、何が何でも一緒に痛いって思わせられる人が出来るまでは絶対に死ぬわけには……病気に負けるわけにはいかない。 じゃないとこの子、私の後を追ってきそうな気がする。
絶対に生きよう。 少しでも長く。
最近まで自分でも終わりが近いことを察していた美桜だったが、母の娘を思う心は強し。 娘の為を思った瞬間に気力が一気に湧き、食も最近はかなり細くなっていたのだが、無理をしてでも頑張って体内に入れようと決意したのだった。
「あ、そうそう桜子、そういやメールで今日話したいことがあるって言ってたけど、それってさっきのこと?」
「ううん、あ、そうだった。 私ね、今週の土曜日に昼くらいからエマって子の家でお泊まり会するんだ。 だから午前中しか来れないってことママに教えときたかったの。 ごめんね」
「なんだそんなこと。 桜子はまだ子供なんだから、遊びたい時にいっぱい遊びなさい」
「ママ、寂しくない?」
「ママは桜子が楽しそうにしてくれるのが一番嬉しいの。 だから、そのお泊まり会の話、たくさん聞かせてね」
「う、うん!」
それにしてもなんて珍しい。
さっき誰かと一緒にいるよりもママを選ぶって言ってた子がお泊まり会だなんて。
それだけ仲のいい友達がいるってことなのだろうか。 だったら恋バナもするだろうし、もしかしたらそのお泊まり会がきっかけで……
美桜が1人で微笑んでいると、桜子が「どうしたのママ」と不思議そうにこちらを見上げてきている。
「あー、ごめんね。 ちなみにそれって女の子だけでやるんだよね?」
「ううん、福田……くんも来るよ」
「そうなんだ福田くんも……え、ええええええ!?!?」
詳しく話を聞いてみるとそのお泊まり会……どうやら関係が気まずくなった桜子と福田くんを少しでも元に戻そうと友達が考え実行してくれた案とのこと。
福田くんだけじゃなく、この子の周りには本当に力になってくれる仲間がたくさんいる……なんてこの子は幸せ者なんだ。
でもそうか、福田くんとの距離も元通りに……ということは少なからず接点も多くなるわけよね?
「ねね、桜子。 ちょっと耳貸して」
「なにママ」
「あのね、ゴニョゴニョ……」
「えっ……なんで?」
「いいから。 そうすればきっと早く仲直り出来るはずだから。 もし出来る機会があったらやってみなさい」
「う、うん分かった。 ありがとうママ」
その後も美桜と桜子は現在母親代わりをしてくれている小学校教師・高槻舞は迎えに来るまで楽しくお喋り。
薬も大事だけど、何より娘との時間……笑顔が一番効く。
その日も娘成分を充分に摂取した美桜は消灯時間、静かに目を閉じる。
最近は病気の進行もそこまで活発ではないらしいし、いい傾向だ。 このまま元気になれば……
◆◇◆◇
その日の夜。 美桜はとある夢を見る。
それはかなり昔に亡くなった自分の母親や祖母……そして見たことも会ったこともないのだが、似たような顔立ちからして恐らくは先祖なのだろう。 似たような出で立ちの女性たちが微笑みながら桜子を囲み、温かく見守っている。
これは……一体。
何が何だか分からず遠くから立ち尽くして見ていると、その中の見知らぬ女性数人が視線をこちらへ向けてきたことに気づく。
服装からしてかなり昔。 ボロボロの着物を着た……しかし何故かかなり活力に満ち溢れている女性たちで、美桜とは距離があるのだがなぜだろう……その人たちの声がはっきりと聞こえてきた。
『今までご苦労様。 辛かったでしょう』
『巻き込んでごめんなさいね』
「え」
『私たちの桜の襷、繋いでくれてありがとう。 おかげでここまでこれました』
『美桜さん。 美桜さんの辛いもの、アタシらが全部持って行ってあげるから……約千年間苦しみながら耐え抜いたアタシらの分まで、存分に楽しみ抜いて頂戴ね』
「えっと、すみません。 一体みなさんは何のことを言って……?」
『長年の月日を得てようやく許して頂けた神に感謝を。 『桜』の襷を繋いでくれた子孫たちに感謝を。 そして……『大樹』の名を持つダイキさんにも最大限の感謝を』
「ちょ、ちょっと……!」
『それでは私たちはもう行きます。 私たちの紡いだ愛の結晶……桜子さんに幸あれ。 美桜さん、どうか桜子さんをこれからもよろしくお願い致します。 私たちも陰ながら見守っています』
本当にこの夢がなんだったのかは分からない。
途中で目が覚めた美桜は意味が分からないながらも大きな愛を感じ、勝手に涙が溢れてきていたのだった。
お読みいただきましてありがとうございます!!!
とうとう約千年分の思いが解放……幸せになってほしいものです




