635 【真・結城編】久しぶりの会話
六百三十五話 【真・結城編】久しぶりの会話
茜に言われるがまま、とりあえず結城を呼び出したオレ。
もちろんオレと同等……いや、それ以上に人見知りな結城はかなり戸惑いながら「えっと……この子、誰?」と茜には視線を向けずオレに尋ねてきた。
「あー、えっとこの子は茜って名前で……ほら、陽菜いただろ? あそこ出身の子なんだよ」
「陽菜ちゃんの?」
「そうそう」
オレは簡単に……しかし重要な部分は省きながら結城に説明。
すると茜はゆっくりと結城の前へ。 結城をまっすぐ見つめながら、「よろしくね。 実は私、結城さんやそのお母さんの力になれるかもって思ってダイきちくんにお願いして連れてきてもらったんだ」と柔らかく微笑んだ。
「え、私やママの……?」
「うん。 実は私ね……」
そうして茜が語り出したのは最近気づいた自分の力。
どうやら茜の写っている写真を飾ったりスマートフォンの待ち受け画面にしていると、その人に思いも寄らないような幸運が舞い込んでくるとのこと。
それは恋愛成就から始まり長年喧嘩していた相手との仲直り、欲しかった懸賞に当選する等、様々な報告が寄せられてきているというのだ。
「それでもしかしたら私の写真を飾ったら……結城さんのお母さんの症状も少しはいい方向に傾くんじゃないかなって思って」
茜の言葉に結城は目を大きく見開かせる。
「幸運が舞い込んでくる……?」
「うん。 必ずしもってわけではないかもだけど、やる価値はあると思う。 それで……どうかな」
この茜の問いかけに結城は迷わず首を縦に。
「お、お願い。 ママ、今めちゃくちゃ苦しそうだから……それで私は何をしたらいいの?」
「それじゃあ結城さん、こっち来て」
「う、うん」
「何も難しいことはないの。 私と結城さん……2人が写った写真を撮るだけだよ」
「そ、そうなんだ」
その後結城は茜と肩をくっつけあうように並んで立つと、自身のスマートフォンで自分たちを撮影。 茜はそれを母親のスマートフォンの待ち受け画面に設定するか、どこかで写真に現像して飾っておくようアドバイスをする。
「あ、ありがとうえっとその……」
「茜。 堀江茜だよ」
「う、うん茜ちゃん。 これでママが少しでも元気になってくれるといいな」
結城が先ほど撮影したスマートフォンを大事に握りしめながら嬉しそうに茜にお礼を伝えると、茜はそんな結城の手を包み込むように自身の手を添える。
「あ、茜……ちゃん?」
「そうだね、私もそれを願ってるよ」
「うん、ありがと……。 でもなんでわざわざ見ず知らずの私のためにここまでしてくれたの?」
「んー? それはあなた……結城さんがダイきちくんにとって大事な存在だから。 私、ダイきちくんのおかげで今こうして楽しく生きられてるからせめてもの恩返しって感じかな」
「大事な存在……恩返し?」
結城が頭上にはてなマークを浮かばせている目の前で、茜がニコリと微笑みながらオレに視線を移してくる。
「な、なんだよ茜」
「ううん何も。 まさかダイきちくんの大事な子っていうのが女の子だったなんてね。 確かにダイきちくんの好みそう……優しそうな子だね」
「!!!!!!」
は……はああああああああ!?!??!?!? 何言ってんだこいつはああああああ!!!!
今のはまるで……オレが結城のことを好きって言ってるようなもんじゃねえかあああああ!!!!
ここで気まずい雰囲気になりたくなかったオレは「いやああああ何言ってんの茜、結城さんが勘違いして困っちゃうじゃねーか!!」とテンション高めに2人の間に割って入る。
「ど、どうしたの福田……くん。 なんかいっぱい汗かいてるけど」
「な、ななななんでもないなんでもない!!! じゃあオレ、茜を一階の待合室まで送っていくからああああ!!!! ほ、ほら、行くぞ茜!!!」
「もしかしてダイきちくん図星ー?」
「う、うるせーーーー!!!!」
こうしてオレは半強制的に茜の腕を引っ張りながら始めに出会った待合室エリアへ。
その道中、ほんの僅かではあるがお互いの話をしたのだが……
「ねぇダイきちくん、陽菜ちゃん元気にしてる?」
「ああ元気してるぞ。 逆に元気すぎて母親に怒られてるらしいけどな」
「あはは、そっちの方が陽菜ちゃんぽいよね。 提供出来てよかったよ」
「そんな茜はどうなんだ? 学校は楽しいか?」
「え、あぁ……うん、楽しいよ」
ーー……ん、なんだ? 今若干反応が遅れたような気がしたのだが。
気になったオレは「何かあるなら相談に乗る……力になるぞ?」と茜に言ってみるも、茜はそれ以上は教えてくれず。
「もー、いくら私が小学生になったとはいえ、女の子のプライベートにズカズカと入ってくる男の子はモテないよー?」と軽くあしらわれてしまう。
「いや、そういうつもりではなくてな! オレは本当に茜のことを思って……!」
「うん、わかってるよありがとう。 でも大丈夫、あんな苦しい病気に比べたら何事もへっちゃらだよ」
「そ、それを言われたらもう何も言えねえだろ」
「うん、だからそこに関しては何も言わなくていいよ。 本当に私は毎日学校に行って……家族と笑って過ごせてるだけで幸せだから」
何とも力強い笑顔。
今は美香の身体・容姿だというのになぜか以前の茜の笑顔が重なる。
オレはそんな生きる希望に満ち溢れた茜の姿に返事も忘れ、しばらくの間見惚れてしまっていたのだが……
「あ、それはそうとダイきちくん、いちごパンツ知らない? 退院した時になくなってたんだけど」
ーー……。
「え?」
いきなり背筋が凍ったオレはまるでロボットのようにカクカクした動きで首をかしげる。
「ナ、ナンノコトカナー」
「私がこの身体として生まれ変わった時に履いてたパンツなんだけど……履き心地悪くてその辺に脱いでたらなくなってたんだ。 看護師さんたちも知らないって言ってたし」
「それはーー……うん、オレも分からん」
言えない。 あれはオレが拝借して今は天にいる神様のもとに渡っているなんて絶対に言えない。
オレはなんとかこの話題を誤魔化し通して待合室エリアへ。
そこには医師との話をすでに終えた茜の母親が待っており、オレは茜母にも簡単に挨拶……また連絡すると茜に約束をし、結城と結城母のいる入院部屋へと向かった。
ーー……のだが。
扉を開けたオレは言葉を失う。
トイレにでも行っているのか結城の姿は見当たらないのだが、オレの瞳には以前会った頃よりもかなり弱々しくなっていた結城母の姿が映る。
「あら、福田くん。 久しぶり」
かなり痩せこけた結城母がオレに小さく頭を下げてくる。
「え、あああ……こちらこそ」
「福田くんやお姉さんのおかげで桜子ともこうして幸せに過ごせて……本当に感謝してる。 ありがとね」
「いえいえ、それでその……肝心の結城さんどこでしょう」
「桜子なら……何か『ちょっと待ってて』って、さっき出てったわよ」
「そ、そうですか……」
「ーー……」
「ーー……」
き、気まずい!!! 話す話題が見当たらない!!!
虚ろな目で……しかし弱々しく微笑みながら見つめてくる結城母にオレはどう接していいのかまったく分からず。
ただただ「あはは、どうも」と愛想笑いをしながら返していると、突然結城母がほぼ骨のような腕でオレに小さく手招きをしてくる。
「え」
「こっち……来てちょうだい」
この感じからして説教とかそういう感じではなさそうだ。
そんなことを考えながらオレが結城母の目の前に近寄ると、結城母はゆっくりと顔をオレに近づけ……声を震わせながらこう口にしたのだった。
「福田くん、もしよければこれからも桜子のことをお願い……幸せにしてくれると嬉しいわ」
「な、何を言って……」
「病気の進行が……最近早まってるの。 多分私はもう長くない……ワガママを言うようだけど、その時は桜子を元気づけてあげてくれないかしら」
「ーー……え」
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