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592 【優香編】オレの決意


 五百九十二話  【優香編】オレの決意



 これはオレが6年生になりもうすぐ冬休みに入るという頃のこと。

 その日学校が終わり家に帰ると、玄関に見慣れない男物の革靴が優香の靴の隣に並べられているのを発見する。



「ん? 誰だ? サイズ的に大人のらしいけど……そんなの知り合いにいたか?」


  

 疑問に思いながらもオレはその革靴の持ち主を確かめるべくリビングへ。

 すると……なるほどな。 リビングの扉は締め切られてはいたものの、中から声が聞こえてくる。

 そこでオレは先ほどの革靴の男性が誰なのか理解した。



「福田、進路はどうだ? そろそろ決まったかな?」


「あー……実はまだ決めかねてるんですよね」


「一応前に聞いたときは進学にしても就職にしても、家から通える範囲が良いって言ってたよな? だからその辺をピックアップして持ってきたんだけど、先生と一緒に1つずつ見ていこうか」


「あ、ありがとうございます」



 対面に座りながらテーブルの上に資料やらプリントを見せている男性……話の内容的にもあれだ、優香の高校の担任なのだろう。

 担任が1つずつ資料を優香の方へ向けながらそれぞれ説明している。 

 そうか、優香も来年は高校3年生……受験生なんだ。 オレはそんな大事な話をしている2人の邪魔にならないよう……しかし話の中身は気になっていたため扉の前で息を殺して聞いていたのだが……



「ちなみに今のところ、福田的にはどっちに進みたい?」


「まぁ……出来れば進学ですかね。 就職だと帰る時間も遅くなっちゃいそうですし、だったらまだ進学選んだ方が夕方には帰れるかと思いまして」


「弟くんのため?」


「そうですね。 可能な限りは近くに……一緒にいてあげたいと思っていますので」



 うぅ……優香。



 オレがそんな優香の迷いのない答えに感動していると、その希望を受けた担任が「だったら……」と就職資料を片付け大学や専門学校のパンフレットに絞ってテーブルの上に並べていく。



「じゃあ福田的には……どうかな? 大学や専門学校といってもたくさんあるから、どの程度の距離だったら妥協範囲になる?」


「そうですね、最大で片道1時間が限度ですね。 じゃないと夕飯の買い出しとかその他諸々手につかなくなりますので」


「なるほど。 そうなったら……大学だとこの2つで専門学校だったらこの5つか。 でもあれだよな、福田からしても弟くんと過ごす時間を優先したいのなら在籍期間が短い専門学校よりは四年制の大学の方がいいよな」


「はい」


「まぁ先生からしたら通学時間を妥協してでも福田にはレベルに合ったいい大学に通って欲しいけど……この2つの大学は両極端だぞ」


「え」



 担任は専門学校パンフレットを下げここから近いと言われている大学2つの資料を優香の前へ。

 そして片方の資料を指差しながら静かに言い放った。



「こっちは偏差値もそこまで高くないから今の福田の学力のままでも少し頑張れば余裕で通る……でもその先の就職活動に当たった時に色々と苦労するかもしれない。 そしてもう1つのこっちの大学は福田も聞いたことあると思うけど頭がいいと世間から言われていて就職活動の際にも色々と有利な有名大学だ。 ただこっちは今の福田の学力だとちょっと難しい……そこが難点だな」



 そこから話は一旦優香の成績の話へ。

 担任は成績表を優香に見せながら「ちなみに塾とかは……行ってないよな?」と確認を取る。



「はい、行ってません。 行ったら帰りが夜遅くとかになりますので」


「家では勉強してるのか?」


「うーーん、宿題やテスト期間にそのための勉強くらいですね」


「そうか……まぁ家事も1人でやってるようだしそんな時間も取れないか」


「ですね。 でもこれは自分で選んだ道なので後悔はしてませんけど」


「ーー……受験の期間、3年生の間だけでも田舎の祖父母さんに来て貰って家事をやってもらうってのも難しいかな?」


「はい、結構遠い距離にありますし、それにこっちは田舎と違って建物も多いので難しいかと」


「だよな……うーーん」



 その後の担任と優香の話からするに、優香の成績は中の少し上くらい……いわばほぼ平均的とのこと。

 家事をこなしつつやっている優香からしたら頑張っている方らしいのだが、偏差値の高い大学を受かるにはあと一息二息足りないらしい。 

 


 ーー……マジか。



 聞いてる限り完全にオレのせいじゃねえか。

 オレの世話やらなんやらをしているせいで優香は自分の時間を充分に確保できずに将来にまで影響してきている……



「これは……なんとかしないとな」



 オレは静かに呟くとその場から離れ一旦マンションの外へ。

 しばらくすると家庭訪問を終えた優香の担任が出てきたので、オレは早速声をかけた。



「あの、すみません。 オレ、福田優香の弟の福田ダイキです」


「えっ、あ……弟くんね。 こんにちは」


「あ、はいこんにちは。 それでちょっとお姉ちゃ……優香のことで聞きたいことがありまして」


「福田の?」


「はい、実はですね……」



 ◆◇◆◇



 時間にすれば大体5分も満たないくらい。

 しかし優香の担任との話で充分な確信を得たオレはまっすぐ前を見据えながら再び帰宅。 担任に出していたのであろうお茶等の片付けをしていた優香のもとへと歩み寄る。



「あ、おかえりダイキ。 帰ってきたのお姉ちゃん気づかなかったよ」


「うん。 ただいまお姉ちゃん」


「え、どうしたのダイキ。 そんなお姉ちゃんの顔見つめて。 なんか付いてる?」


「お姉ちゃん、実はオレ、さっきお姉ちゃんと担任の先生の話聞いちゃったんだけどさ」


「ええ、そうなの?」


「うん。 それで……」



 オレは小さく深呼吸。

 優香の手を握りしめながらこう言い放ったのだった。



「お姉ちゃん、来年1年間だけでいいから……転校しよう。 オレと一緒に田舎のおじいちゃんとおばあちゃんの家に引っ越そう」




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