517 【エマ編】特別編・真相と決意
五百十七話 【エマ編】特別編・真相と決意
この身体……エマとして生まれ変わって約4ヶ月。
「エェマ、おねーたん、わたぁしの、あー……なーえーわ、エッチーで、ましゅうー?」
エマの妹・エルシィが片言の日本語で目の前にいる楓に挨拶をしてくる。
実はあれからエルシィはなぜか楓の話していた日本語に興味を持ち、インターネットの無料日本語講座の動画を何度も見てはこうして楓に話しかけるようになっていたのだ。
そしてそれは楓も同じ。
楓がエルシィの可愛らしい日本語をうんうんと聞いていると、隣でそれを見ていた母親の女性が「Oh, tu réétudies le japonais ?」と微笑みながら問いかけてきたので楓は「Oui」と返答。
ちなみに先ほどの母親の言葉の意味は『あら、また日本語のお勉強?』で、楓はそれに対して『うん』。
エルシィのおかげでコミュニケーションのありがたさを改めて感じた楓はエルシィ同様、インターネットでフランス語講座を勉強。 学校もずっと休んで家で勉強していたこともあり、日常会話くらいならギリギリ分かるレベルにまで達し始めていた。
「エマはどう? フランス語の勉強は進んでる?」
楓が聞き取りやすいよう、母親がスローペースで話しかけてくる。
「うん、なんとか分かるようにはなってきた」
「そう。 それならママは嬉しいわ。 エマが記憶を失って……それで何故か母国語のフランス語まで忘れてしまって、日本の国の言葉しか知らないって聞いたときは驚いたけど、エマが頑張ってくれて私たちは幸せよ。 学校はエマが行きたいって思った時に教えてちょうだい」
「うん、ありがとう」
やはり言葉は大事だ。
この家に来た最初の方は言葉が通じず理解できずで早くここから逃げ出したかった。 しかし少しでも言葉が通じるようになった途端にストレスが軽減……もちろん大人になって自分でお金を稼げるようになったら日本に戻るつもりだけど、それまではここにいてもいいかなという気持ちになってきていたのだから。
自分が実は小山楓だということをカミングアウトするのはもうちょっと……時期が落ち着いてからでもいいだろう。
楓はそれからも毎日欠かさずフランス語の勉強を続け、気づけば生まれ変わってから半年。
とうとう普通に話すスピードまで聞き取れるようになった楓は母親をこれ以上心配させないよう満を持して学校に再挑戦することに。
約半年の猛勉強の成果は無駄ではなかったようでクラスメイトや担任たちとも気兼ねなく話せ、ようやく第2の人生を歩み始められたと安心し始めた楓だったのだが……
ある日の夜。
その日も楓はいつも通りエルシィの日本語勉強に付き合っていたのだが、勉強終了後、以前より気になり始めていたことを母親に尋ねてみることに。
「ねぇママ、ちょっといい?」
「どうしたのエマ」
「エルシィのことなんだけど……」
楓はパソコンの前で熱心に日本語の動画を見ているエルシィに視線を向けながら、母親に聞こえるくらいの声量で小さく囁いた。
「エルシィって友達と遊んだり……幼稚園とかはいかないの?」
そう、エルシィは数ヶ月先……今年の四月あたりから小学1年生という年齢なのだが、エルシィは基本的にはずっと家の中。 普通に言葉も話せるのに幼稚園はおろか、同い年の友達と遊んでいる姿すら見たことがなかったのだ。
何か理由でもあるのかと尋ねてみると母親は小さく頷きゆっくりと立ち上がる。
「?」
「ママのお部屋で話しましょうか」
こうして楓は母親の部屋へ。
静かに扉を閉めると、母親は「そうね、エマはあの時からの記憶がないんだものね」とどうしてエルシィがずっと家の中にいるのかについてその理由を話してくれたのだった。
「あの子はね、イジメもそうなんだけど、前に誘拐されたことがあるから……それ以来怖くて外に出たがらないのよ」
ーー……え?
◆◇◆◇
就寝時刻。
本来なら眠くなり夢の世界へと旅をしているはずの時間帯なのだが、今の楓は目が冴えて眠ることができず。
理由はもちろん母親から聞いたエルシィの件もあるのだが……
「ーー……うわ、これマジなやつ?」
楓が今読んでいるのは、楓がこの身体に入る前の……エマ本人がつけていた日記。
この日記の存在自体は結構早めに気づいていたのだが、その時はフランス語のことを全く理解出来ていなかったので軽くスルーしていたのだ。
どうしてこれを再度読もうと思うに至ったのかは、もちろん先ほどの一件から。 エルシィの話を聞いて、元々のエマはどんな感じでエルシィに接していたのか気になったからだ。
楓的にはエルシィがどんな遊びをしていたか……とか、どんなことをしたら喜んでいたのかなど、そういった情報を期待していたのだが。
====
・○月○日:今日もエルシィが幼稚園の子にイジめられて膝から血を出して帰ってきた。 ママが先生に怒ってたけど誰がやったか分からないらしい。 なんでエルシィは犯人の名前言わないんだろう。
・○月○日:幼稚園で演劇発表会があるみたい。 今日は役決めをして、エルシィはシンデレラ役だって。 エルシィ、シンデレラのお話大好きだから家族みんなで喜んだ。 やっぱり笑顔のエルシィを見てる時が私も幸せ。
・○月○日:昨日エルシィがシンデレラ役に選ばれたからって理由で幼稚園の女の子たちからイジめられたらしい。 それでエルシィ、シンデレラの役やめちゃった。 今もママが怒って幼稚園に誰がやったのか電話してる。 エルシィをイジめる子たち、みんなどこかに転校してくれないかなぁ。
・○月○日:学校から帰ってたらちょうどエルシィがイジめられてるところを見つけた。 急いで駆け寄って追い返そうとしたんだけど言うことを聞かない子がいて何人か叩いた。 でもそれから叩いた子のお兄ちゃんがやってきて私も叩かれた。 太ももが青くなってて痛い。
・○月○日:昨日私を叩いた男の子、同じ学校の上級生だった。 学校で見つかってまた叩かれた。 でも負けない、悪いのはあっちだから。
・○月○日:学校に登校しているときに待ち伏せされててお弁当を捨てられた。 でもママにはエルシィの方が解決するまでは言いたくない。 お姉ちゃんの私が我慢しなきゃ。
・○月○日:そろそろ暑くなる季節だからって川に落とされそうになった。 私は泳げないから落ちたら死ぬかも。 とても怖かったけどエルシィの方が辛いはず。
・○月○日:エルシィが怖い人たちに誘拐されたって聞いて学校を早退した。 警察が助けてくれたけど、今もエルシィはママの部屋で泣いてる。 なんでエルシィばかりあんな目に合うんだろう。
・○月○日:昨日のこともあってエルシィはしばらく家にいることになった。 私も一緒にいてあげたいけどママが学校行きなさいって。 私も行きたくないなぁ……。
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最後に書かれていた日記の日付が大体自分が病院で目覚めた5日くらい前。
ということはその書かれた日記と自分が目覚めた日の間の数日で何かがあったに違いない。
楓は居ても立っても居られず夜も遅いことを承知で寝室で眠っている母親のもとへ。
扉をノックすると声が聞こえたのでゆっくりと開けると、もう寝ようとしていたのだろう。 ベッドの上で横になっていた母親がゆっくりと体を起こして「どうしたのエマ」と声をかけてきた。
「眠れないの?」
「うん、ちょっと聞きたいことがあって」
「エルシィのこと?」
「違う、自分のこと」
それから楓はどうして自分が入院していたのかを聞いてみることに。
そして母親の口から放たれた言葉で楓は1つの確信を得たのだった。
「足を滑らせたのか、川に落ちて溺れてたんだって。 それを偶然通りすがりの方が見つけてくださって……お医者さんは『もうちょっと見つかるのが遅かったら危なかった』って言ってたわ」
川。 なんという偶然……いや、運命なのだろうか。
もしかしてだけど、私がこの子の身体として生まれ変わった理由って……
話を聞いた楓は部屋に戻るとあることを決意。
小さな鏡の前に立ち両頬をパチンと叩いて気合を入れると、鏡に映る自分……エマの顔をまっすぐ見据えながら小さく呟いたのだった。
「エマ、私に任せて」
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