336 パワーアップ!!
三百三十六話 パワーアップ!!
「ーー……で、なんでこうなった」
朝。 エマたちと学校へ行く途中、オレは独り言のようにポツリと呟く。
「あら、どうしたのダイキ」
オレの声が聞こえたのか、エマが「何か悩み事?」と尋ねてきた。
「何か悩み事……じゃねーだろ、なんでオレまでせにゃならんのだ」
昨日の放課後にエマが提案した些細なことに動じなくなる秘訣……ノーパン生活をまさかオレまでやる羽目になるなんて。
もう春だというのに朝の冷たい空気がオレの敏感肌を刺激してくるぜ。
「それは仕方ないじゃない、ダイキだってメンバーの一員なんだから。 こういうものは共有するからこそ仲間意識が芽生えるってもんなのよ」
「いや……そうは言うけどよ、お前小山楓時代の時はソロのモデルだっただろ」
「そうよ? でもいいわね仲間って。 あの頃のエマは1人でドキドキしてたのに、今じゃミナミやカナたちと一緒にこの気持ちを共有できるんだから」
「つーかお前がただやりたかっただけじゃねーのか!?」
「バカ言わないの! そんなのやらなくても週に半分は履いてなかったわよ!」
「そ、そうか! ならオレが悪かった!」
「そうよ! ダイキが悪かったわよ」
どうしてオレが謝っているのだろう……会話中に疑問に思っていると少し強めの風がブワッと吹き抜ける。
「うおお、寒いなぁ!!」
「いいでしょダイキはズボンなんだから。 エマはスカートなのよ」
「隙間から入ってくるんだよ変わらねぇよ!」
オレは少しでも風の侵入を防ぐために若干前のめりになりながら歩く。
「それ……勘違いされるからやめたほうがいいわよ」
「え」
「なに? 興奮してんの?」
「してねーよ!!」
オレはズボンの隙間を指差しながら「ここから風が入ってきて寒いの!!」とエマに力説。
するとエマはとんでもないことをオレに言い放ったのだった。
「それでもダイキは寒くないでしょ」
「な、なんでだよ」
「だって被ってるじゃない」
ガーーーーーーーン!!!!
詳しくは精神崩壊するからそれ以上は言わないが、それはオレが心から敗北した瞬間だったのは間違いない。
まぁ言うなればあれだ、オレは今、一般には見えないステルス機能のついたタートルネックのマフラーを付けていると思ってくれたら良いぞ。
そしてエマはそれを見抜いていた……なんてやつなんだ。
オレは超巨大な大槍で撃ち抜かれた反動でその場で崩れ落ちる。
「ちょ、ちょっとダイキどうしたのよ」
「なぁエマ……」
「なによ。 早く立ちなさいよ」
「やっぱりそう言うのってマイナス要素なのか……?」
オレは見えない涙を滝のように流しながらエマを見上げる。
「なにが?」
「だから被っ……あああああ……」
「ちょっとなんでそんなに気にしてんのよ面倒くさい」
「そりゃあ気にするぞ。 だってそう言うのイヤってネットに……ああああああ……」
「そんなのネタに決まってるじゃない。 男子が女子にペッタンコとか言ってるのと同じレベルの話よ。 なにそんなに人生詰んだみたいに嘆いているのよだらしない」
エマが「ほら、早く行くわよ」とオレの手を引っ張り立ち上がらせる。
「ーー……エマ」
「男子にも大きいのが好きな人と小さいのが好きなロリコンがいるでしょ? 女子も似たようなもんよ。 そう言う話が明るみになってないだけで」
「そ、そうなのか?」
「えぇ。 だからそんな小ちゃなことで悩んでんじゃないわよ」
「エマァアアアアアア!!!!!」
オレはエマの腕に全力でしがみつきながら心から「ありがとう」と感謝。
そしてそれはエマが「鬱陶しいわね、いい加減に離れなさいよ!」とオレの手を振りほどくまで永遠に連呼していたのであった。
「あ、最後にエマ」
「なによ」
「ちなみにエマはどっち派なの?」
「そうねー、エマも詳しくは分からないけど、どっちかって言われたら……って言うわけないでしょ変態!!!」
ーー……あれ、タートルネックの話をしてたのになんで変態ってワードに行き着いたんだろう、
理解できないナ。
◆◇◆◇
実際オレはノーパン生活を1回だけ経験してるからまだ心に余裕はあったのだが、その日の学校生活はまさにいろんな意味で刺激的だった。
「ねぇ佳奈、美波、さっきからなんでそんなに身体をちっちゃくしてるの?」
現状を知らない多田が頭上にはてなマークを浮かばせながら各々の席でジッとしている三好と小畑に話しかける。
「さ、さぁ……私はそう言う気分だからジッとしてるだけなんだけど。 美波に聞いてみたら?」
「ちょ、ちょっと佳奈、それはズルいって!! 私だってそう言う気分なだけなんだから!」
「もー、なんか隠してんの? ウチだけ仲間外れって酷くないー?」
「そういうんじゃないって!!」
「そうそう! ただジッとしてたいだけなの!」
これはこれで最高の眺めだぜ。
普段はバカでうるさい三好とドSの女王・小畑が真面目ちゃんの多田に追い詰められてるなんてな。
でも2人は派手に動けない……だってもし何かの拍子にヒラリとしちゃったらハプニングだもんね。
そんなリスクを感じながらモジモジしてる姿……興奮するぜエエエエエエエ!!!!
オレが内心楽しみながら3人のやり取りを見ていると、一向に教えてくれないことに不貞腐れた多田がオレの方に視線を向けてきた。
ーー……あ、やべ。
「ねー福田、どう思うー?」
多田がブーブー小声で文句を言いながらオレの席へと近づいてくる。
「えっと……どう思うって何が?」
「さっきから佳奈と美波の様子が変なの。 もし2人に言うなって言われてんなら小声で教えてよ、知らないって体にしとくからさ」
多田がオレの耳元で小さく囁く。
流石はオレのスパイ担当……その辺のリスクも考えた上で接してくれるとは。
多田の成長をマジマジと感じてなのか目に涙が溜まっていく。
「ん、どうしたの福田。 なんで涙目なってんの?」
「あーいやごめん、なんでもないんだ」
ーー……そうだな、多田も小畑の夢を手伝うメンバーの1人なんだ。
教えてあげても別に問題ないだろう。
ていうかここは教えて多田にもノーパン生活を……
オレは三好と小畑に見えないように小さく手招き。
再び多田をオレの顔の近くまで近寄らせた。
「あのな多田、実は今2人は……」
2人のノーパンを教えてあげようとした次の瞬間……前のめりになりながらオレの声に集中していた多田の手がオレの筆箱に当たり、パタリと音を立てて床に落ちる。
「ん? あ、オレの筆箱だ。 ちょっと多田、当たってたぞ」
「うわーごめんごめん、集中してて気付かなかった」
オレが拾おうと席を立ち上がろうとすると多田が「いいよ、ウチがとるから福田は座ってて」と制止。
そのまましゃがみ込んでオレの足下に落ちた筆箱に手を伸ばした。
ーー……のだが。
「ーー……え」
机の下……オレの視界からは見えないところで多田が小さく声を出す。
「ん? どうした多田」
「ーー……は、はいこれ、筆箱」
机の下から顔を出した多田が顔を真っ赤にして机の上にオレの筆箱を置く。
「おー、サンキュ。 ていうか……顔真っ赤だぞ」
そう尋ねると多田は恥ずかしそうに視線をオレからズラす。
「なんだ?」
「え、あ、いや……」
さっきの前向きな姿勢は何処へやら。
今の多田は三好と小畑同様、少しモジモジしているように見えるぞ。
気になったオレは一体なにがあったのか尋ねることに。
「おいおい急に態度変わんなよ」
「だ、だって……」
ふむ、なんだろう。
女の子特有の急に気持ちが変わった現象とかそういったものなのだろうか。
ーー……ここはさっきの多田の言い方を使わせてもらうとしよう。
「なんだ? 理由あるなら言ってみろ。 周りに聞かれたくないなら小声でもいいぞ」
すると多田がゆっくりと視線をオレに。
そのまま周囲を気にしながら小さく口を開いた。
「ふ、福田……」
「ん? なんだ?」
「その……隙間からおっきくなったの出てる……よ?」
隙間からおっきくなった?
ーー……ハッ!!
多田に指摘されたオレはすぐに視線を下の方へ。
すると押さえるものがないからだろう、防壁のない空間を突き抜けて……何がとは言わないが隙間から元気よくコンニチハしてるじゃないか!!!
隙間と言ってもいろいろあるからな! そこは皆に想像を任せるぞ!
オレが急いで隙間を隠すように手で押さえると多田が声を詰まらせながら小声で尋ねてくる。
「えっと……あの、福田?」
「ーー……ンン?」
「ウチ、ネットで調べてたら偶然知ったんだけどさ、もしかしてこれがアサd……」
「ゲフンゲフン!! た、多田、それ以上は言わないでいい」
オレは全力で首を左右に振りながら多田の言葉を遮る。
「な、なんで?」
「それはあれだ、もうお前には隠しても意味ないからあえて言うけどな」
「うん」
「そんな単語を女子から聞いた日にゃあ……」
オレは多田に『下をみろ』とアイコンタクト。
多田もそれを理解し、少し恥ずかしそうにしながらも視線をオレが指した方に移していく。
「多田、わかるか」
「え、なんかさっきよりも……」
そう!! パワーーアップ!!!!
しかし多田も凄いよな、他の誰も気づいていなかったオレの隠しオーラに気づいてしまうなんて。
このままでは他の奴らにもオレのパワーアップして存在感の増したオーラがバレてしまうかもしれない。
オレはなんとか違うことを強制的に考えながら強化状態を解除していったのだった。
なにを考えてたかって?
そんなの決まってるだろう。
去年、優香や結城、ギャルJK星と行った遊園地のお化け屋敷で見ちゃった幽霊だよ。
クッソ恐くてトラウマ級だったけど今日やっと役に立ったぜ。
とりあえず言っておくか、サンキュ。
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