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191 特別編・エマ④ 重要なこと


 百九十一話 特別編・エマ④ 重要なこと



 それは楓にとって生まれて初めての出来事。

 まさか自分が告白される日が来るなんて……!!!


 楓は目を大きく見開きながら北山を見つめる。


 今なら分かる。

 北山を見つめていると鼓動が早く脈打ち出し、自然と口角が上に上がる。

 そう……これが恋。


 楓は北山の告白に答えようと早る気持ちを抑えながらゆっくりと口を開く。



「う、う……」

「あーー!! やっぱりちょっと待った!!」


「ーー……え?」



 楓が返事をしようとしたところで北山が両手を出して楓の声をかき消すように大きめに叫ぶ。



「えっと……北山、くん?」



 楓が首を傾げながらたずねると、北山は仕切りなおすように「コホン」と咳払い。

 その後一呼吸置いて楓を見つめた。



「あ、あのさ……実は週末に野球の地区大会があるんだ。 そこでもし勝ったら……答えを聞かせてほしい」


「そうなの?」


「うん。 相手校は強豪なんだけど、こっちだってきつい練習を乗り越えてきたんだ。 勝って縁起をかついだ状態で小山さんの答えを聞くことにするよ」



 北山は顔を赤らめながらニコリと微笑むと「じゃ、じゃあな」と楓に手を振りながら、まるで照れ隠しのように全力で走り去っていく。

 


「別に縁起なんかかつがなくったって『うん』って言ったのにな……」



 楓はそう呟きながら小さくなっていく北山の後ろ姿をじっと眺める。

 

 ……すごいな北山くんは。 

 夢に向かってあの全力で向かっている感じ。 やっぱりカッコいい。


 そう思いながらも楓は今の自分はどうなんだろうと考える。

 

 今の自分は部活に恋に、どっちも順調そうに見える。

 でもこれが自分の理想の姿だったのだろうか。



「私の夢……」



 声に出した途端、あの日の……芸能事務所に入りたくて両親を説得していた頃の自分を思い出す。


 そうだ、あの頃の私は今までの代わり映えしない日々を変えたくて、事務所に入りたいって思ったんだった。

 もしあの頃の私が今の私を見たらどう思うだろう……これも代わり映えしない日々の中に入るのだろうか。


 

 ……もう1回だけ、頑張ってみようかな。



 楓はマネージャーからのメール受信の拒否を解除。

 ゴクリと生唾を飲み込みながら、怒られるのを承知で電話をかけた。



「すみません、楓です。 マネージャーにお願いがあるのですが……」



 ◆◇◆◇



「うーーん、やっぱり違うのよね」



 事務所内。

 次のオーディションを想定してマネージャーに見てもらうも、マネージャーは小さくため息をつきながら首を横に振る。



「……そうですか」


「とりあえずこれが次回あるオーディションの内容なんだけど……」



 マネージャーが1枚の用紙を楓に渡す。



「えっと……地域特集パンフレットのイメージモデル?」



 楓がそこに書かれていた文字を声に出して読み上げるとマネージャーが「そう」と頷く。



「この地域ってほら温泉街があるじゃない? そこを盛り上げるためのフリー冊子なんだけど、これ、うまくいけば観光にきたお偉いさんにも見られる可能性も高い……かなり競争率の高いオーディションになると思うわよ」


「な、なるほど」


「だから、楓には前に1次審査が通った時の……あの感じでやってもらいたいの!」



 マネージャーが楓に顔をグイッと近づける。



「あの時の感じ……ですか?」


「えぇ。 あの時は私の目から見ても楓……あなたはいつもと違う雰囲気を醸し出していたわ。 なんて言うのかしらね……私が感じたままで表すなら何か大切なものを内に秘めてる……とでもいうのかしら」


 ーー……!!!


 マネージャーの言葉に楓の体が思わず反応する。



「ん? どうしたの楓」


「い、いえ。 なんでもないです」


「とにかく! このオーディションは事前審査なしのぶっつけ本番型! 私は楓をここで応募しといたわ!」



 マネージャーが撮影する箇所が色々ある中でのとある川の名前を指差す。



「ーー……川、ですか」


「そうよ! 川といえば水、水といえば安らぎ。 楓は活発というよりは大人しい雰囲気だし、そこが一番合うと思うのよ」


「大人しい雰囲気……」


「えぇ。 だからここでは無理にハッチャケたりしないで、前に見せたあの楓モードでやって来なさい!」



 マネージャーがビシッと楓に指を差す。



「わ……わかりました。 頑張ってあの時のことを思い出してみます」



 思い出すって言ってもノーパンなだけなんだけど……。


 そんなことを心の中で突っ込みながらも数日が経った週末のオーディション当日。 楓はちゃんとあの日の再現通りにパンツを履いていない状態でオーディションに挑むことにした。



 ◆◇◆◇


 

 「ーー……え」



 思わず口から声が漏れる。



「いい……いい表情だよおおお、楓ちゃあああん!!!」



 カシャ!! カシャカシャカシャ!!!



「よし、こっちにも視線ちょうだい!!」



 カシャカシャカシャ!!!



「ちょっとセクシーなのちょうだい!!」


「せ、セクシー!? ……こ、こうですか?」



 楓は風である程度スカートがめくれても大丈夫な程度にスカートを摘んで少し上げる。



「そう!! そうそうそう!!! 最高だよ楓ちゃん!!!! もうこれは審議の必要はない……ここのショットは楓ちゃんで決定だあああああ!!!!」


 

 ◆◇◆◇




「やったわね楓!!! これを見てちょうだい!!!」



 翌週の月曜日、『授業が終わり次第早く来て』と事務所に呼び出された楓が扉を開けると満面の笑みのマネージャーが扉の奥で待っていた。

 片手にはタブレット型パソコンが握られている。



「あ、あの……マネージャー?」


「これを見て!」



 マネージャーが画面を高速でスライドしていき、あるページを楓に見せつける。

 そこにはあの……ノーパンで挑んだ川で撮影した写真。



「え、本当に採用だったんですか?」


「そうよ! 楓、あなたが選ばれたの!! それにこの冊子、大量に刷られて今年の夏には一斉に各旅館前に並ぶのよ! これは快挙と言っても過言ではないわ!」



 マネージャーは楓の背中に腕を回すと「よくやったわね!」と声をかけながら強く抱きしめる。



「ま、マネージャー」


「先方……この写真を撮ったカメラマンやアシスタントさんからね、楓……あなたを冬の特集雑誌でも起用したいんですって!」


「え、それ本当ですか!?」



 楓がマネージャーを見上げると、マネージャーは力強く「うん」と頷く。


 

「私、実はもうあなた……楓は終わったんじゃないかって思ってたの。 でも……よく戻って来てくれたわね」


「え、……あ、はい」


「それでなんだけど、私、楓は次のステップに進んでもいいのかなって思うんだけど、楓はどう思うかしら」



 マネージャーがまっすぐ楓を見据える。



「ーー……次のステップ?」


「そう。 楓、あなたは今まで苦手だった表情を克服した。 なら次は自分の見せ方を学ぶべきだと思うの。 どう? あなたが望むのならそういうスクールに全額事務所負担で通ってもらおうと思っているのだけど」



 全額事務所負担……この言葉を聞いて楓は手が震えだす。

 そこまでしてくれるってことは、それだけ私に可能性を見出してくれて……期待してくれているということだ。

 まさかこのモデルの世界でこういう日が来るなんて。

  


「スクール……」


「えぇ! これから本格的にモデル活動が始まるってわけ! 恋なんかにうつつを抜かしてる暇なんてないわよー!」


「!!」



 ビクンと楓に身体が反応する。



「あら? どうしたの楓」


「い、いえ。 なんでもありません。 あははは……」



 マネージャーの言葉を受けて、楓は重要なことを思い出していた。



 そうだ……【世に出てちゃんと売れるまでは恋愛禁止】だったんだ。




お読みいただきありがとうございます!

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エマ編も残り2話予定!!

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