表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/21

崩落と判断

橋の上での戦闘は佳境に入っていた。

懸念していた通り、銃声に引き寄せられて、基地の外から次々とゾンビが押し寄せてきたのだ。

地獄の底かと思うほどの死者たちが、バリケードに殺到する。

すると、当然なる筈の、しかし鳴ってはならない音が鳴った。


ギシ……。


「こ、これは……」


バリケードの支えになっている部分から聞こえた音。

金属同士が擦れ、音を立てた。

バリケードが揺れ始める。


「Shit! このバリケード、軋んでやがる!」


遂に、その身体にかかる負荷に耐え切れなくなったのか、バリケードの一角が崩れ始めた。

始まった崩落は簡単には止まらない。

次々と、補強していた建具が剥がれだす。

このままでは、崩れるバリケードと一緒に、ゾンビの海の中へ入る羽目になる。


「おい、早く逃げろ! 崩れるぞ!」


俺は部下に指示を出すと、バリケードから飛び降りた。

足が地面に付いた瞬間に前転して、衝撃を逃がす。

ところが、悟郎、英人は飛び降りたが、紬が下りてこない。


「紬、どうした!」


「た、高くて降りられません!」


バリケードの高さは四メートルほどあり、飛び降りるには確かに高い。

訓練をロクに受けていない女性志願兵が容易に飛び出せる高さではない。

だが、だからといってそこに留まり続けるのは、死を意味する。


「早く降りろ!」


「う、動けないです……」


どうやら、ゾンビの海の中に飛び込む場面を想像して、一種の放心状態に陥っているようだ。

腰が抜けてしまっている。


「Shit!」


紬を死なせるわけにはいかない。

翔が死んだ。

もう、それだけでたくさんだった。

崩れゆくバリケードに必死で登り、紬に手を伸ばす。


「紬っ! 手を伸ばせ!」


紬が手を伸ばす。

俺はその手をしっかり掴んだ。

……はずだった。

掴めたはずだった。

だが、その時、バリケードが二つに割れた。

俺の立っている地面と、紬がへたり込んでいる地面が、離れていく。


「あ……隊長……」


手を伸ばす紬が遠くなっていく。

バリケードは悲鳴を上げながら、崩れる。

紬は、ゆっくりと、ゾンビの海の中に落下していく。


「と、ど、けぇえええええっ!」


俺は足を踏み出していた。

身体を宙に投げ出し、紬の手を掴む。

身体はそのまま空中を放物線を描いて飛んでいき、行き着く先は堀の水だ。

俺は落下に備えながら、水に落ちることにつくづく縁があるなと思った。


―現在―


「俺は水の中に落ちた。紬を死なせたくはなかった」


「しかし、バリケードが崩れてしまっては、ゾンビの流入が防げず、あっという間に壊滅してしまうのでは?」


「戦車が一台あったことは話したな? その戦車がバリケードまで突っ込んで、何とか崩れたバリケードの残骸を押さえたんだ。当然長く持ちはしなかったがな。俺は堀の石垣を紬とよじ登りながらその様子を見ていたが、傍から見ても焼け石に水だった」


「それでは、基地は……」


「救世主が現れた。神様なんて不確かなものじゃない。戦闘ヘリが出張ってきたんだ。あの火力があれば、少しはゾンビを食い止められる。もっとも、この場合の救世主は、橋の上で戦っていた兵士にとってはとんでもないクソ野郎だった」


―過去―


「ヘリだ、助かった!」


空に悠然と浮かぶヘリは、空から舞い降りた天使にさえ見えた。

大量のミサイルが積んであるのが分かる。

それに、機銃もだ。

上空からゾンビを圧倒的な火力で叩けば、ある程度の時間は稼げる。

バリケードを復旧するとまではいかないが、体勢を立て直すくらいの時間はできるかもしれない。

だが、ヘリは一向に攻撃をしない。

狙うところを決めているのか、細かく照準をつけているかのように、その胴体を左右に振っている。

そして、ヘリは少し降下した後、動きを止めた。

その瞬間に俺は悟った。

奴らは、選択をした。

本部の被害を最小限に抑えるための選択をしたのだ。

俺は通信機に向かって叫んだ。


「英人、悟郎ッ! そこから逃げろッ!」


『あん? どうかしたのか?』


「いいから早くッ!」


同時に、ヘリからミサイルが発射された。

ミサイルはまっすぐ飛んで行った。

まっすぐ、正確に、橋を支える柱まで。

本部は、橋の上で戦っている戦闘員の命と引き換えに、橋を落としてゾンビの侵入を防いだのだ。

中央にあった戦車の履帯が切れ、車体を軋ませながら、堀の中に落ちていく。

そして、橋の上にいた戦闘員も共に落ちて行った。

同時に、大量のゾンビもだ。

堀の中はあっという間に地獄と化した。

落ちてくる兵士を待ち受けるのは、腹を空かせたゾンビ達。

さらに上から降りかかる瓦礫の雨。

最も合理的で、最悪な判断だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ