94 六層の戦い
負傷したアンガスとカーリーを教団本部に連れて行った。
命に別状はないが、回復魔法が効きにくいため、しばらく安静にする必要があるらしい。
二人を置いて、俺とクラリスとフレイユの三人で六層に行く。
相変わらず暑い。というか熱い。
そこら中にマグマの川があり、近づかなくても熱風が飛んでくる。
「あっつ! なにもしてないのにHPがちょっとずつ減ってるんだけど!? 五層はあんなに寒くてつらかったのに、五層に帰りたくなってきた!」
クラリスが悲鳴を上げながら防寒具を脱ぎ捨てた。
俺とフレイユは前にも六層に来たことがあるので覚悟はできていたが……それでも熱いものは熱い。
足早に、転送門から一番近い町に向かった。
すると、その町の宿屋で、クリスティアナとアレクスが待っていた。
そして二人は、六層のとある娼館の店主が魔王のカケラ保有者だったが、ファングらしき男に殺害されたという情報を語った。
それだけでなく、六層の強者たちの中でも特に強いと有名な者たちが、次々と消息を絶っているらしい。
「本人が自覚しているかしていないかはともかく、六層って魔王のカケラの持ち主が結構いるのよ。力が発現していなくても、普通の人より強くなる傾向があるみたい。ファングはそんな人たちを襲って力を集めているのね。ラグナくんたちにリベンジするために」
「……不味いな。あまり強くなりすぎると、俺たちだけじゃ手に負えなくなるかもしれない」
「と言うより、魔王が復活する可能性さえあります。クラリスさんとクリスティアナが持っている魔王のカケラが無事でも、それ以外の全てをファング一人に集めれば、それはもう魔王そのものと言えるでしょう」
フレイユは深刻な顔で言う。
「そうね。魔王が復活して世界を滅ぼしたりしたら困るわ。私、やりたいことが沢山あるのに」
クリスティアナはフレイユに賛同する。
悪党を自称する彼女のやりたいことは、きっとろくでもない悪事だろう。だが、世界が滅びるよりはずっといい。
「けれど、一人が魔王のカケラを沢山持っているってことは、それだけ気配が濃密ってこと。私とクラリスちゃんで見つけられるかもしれないわ」
「私?」
クラリスはきょとんとした表情で自分を指さす。
「そう。ラグナくんやフレイユも気配を探れるけど、私たちは魔王のカケラを持っているから、より高い精度で分かるはず」
「そうか! じゃあやってみるわね。むむむ……」
クラリスは目を閉じて、念じ始めた。
クリスティアナはそれを見てクスリと笑いながら、自分も目を閉じた。
「自分で言ってなんだけど、そう易々と見つかったら苦労しないんだけどね――って、え!?」
「ちょっと、この気配じゃない!?」
二人は同時に目を見開き、そして同じ方角を見つめた。
△
俺たちはすぐに二人が示した方角へ向かった。
マグマ溢れる山の中。
ファングは本当にそこにいた。
一体いくつの魔王のカケラを内包しているのか分からないほどの魔力が渦巻いている。
そして、集まりすぎた魔王の力によって、逆に苦しんでいた。
乗っ取られそうなのを必死にこらえているように見えた。
「……なんだ、そっちから来たのか。探しに行く手間が省けたぜ」
岩に腰かけていたファングは、ゆらりと立ち上がる。
「お前は、なぜそれほどの力を求める? 魔王のカケラを集めすぎて、今にも飲み込まれそうじゃないか。魔王のカケラは一つでも十分強い。なぜそれ以上を求める? 力を得て、なにをしようって言うんだ」
俺はファングに尋ねた。
「なぜ? はっ! 六層まで登ってこられるような冒険者様がなにをほざきやがる。強くなりてぇ……それに理由がいるのかよ。お前はいちいち哲学しながらモンスター倒して上層を目指していたのか?」
ファングの回答に、俺は言い返せなかった。
強くなりたい。塔の最上層に行きたい。
前世からずっとそう想い続けてきた俺だが、ではなぜそうなったかを思い出せない。
なにか切っ掛けがあったかもしれない。子供の頃、冒険者の逸話などを聞いて、自分もそうなりたいと思ったのかもしれない。
けれど、死んでもその目的を忘れなかったのは、自分がそういう人間だからとしか言いようがなかった。
「強くなりたい。ガキの頃からずっと想っていた。だが、塔で食い扶持を稼げればいいなんて低次元な連中のほうが、俺より強くなっていく。印を持たずに生まれるってのはそういうことだ。努力じゃどうにもならねぇ。なのに印を持っている連中は『あいつの印のほうがよかった』だの『自分の印じゃ限界がある』だの語り合う。おいおい、ふざけんなよ? どんなクソな印でも、あるならいいじゃねーか。モンスターを倒せばレベルが上がって強くなるんだろ? 努力でどうにかなるじゃねーか。俺が欲しいものを持って生まれたくせに、なぜ勝手に限界を決める!」
ファングの叫びに、クラリスもまた押し黙った。
クラリスはかつて自分の印に絶望し、強くなれないと思い込んでいた。
塔の外では『成長負荷の印』はレベルが上がらないと信じられていたが、それでもスキルを覚えることはできた。諦めずにモンスターと戦っていれば、いつかレベルが上がり、印の真価に気づけただろう。
ファングはそれさえできない。
「だから、俺の中に魔王のカケラがあると知ったときは嬉しかったぜ。なにせ、同じようにカケラを持っている奴をぶっ殺して奪えば、俺も強くなれるんだからな! ようやく努力の方向性が見えてきたってわけだ! だからお前らもぶっ殺して奪ってやるぜ。そして俺が最強になって、塔の最上層に行ってやる!」
△
ファングは強かった。
ただ強いだけだった。
魔王のカケラの力を振り回すだけで、そこに技巧はなにもない。
同じように印を持たずに生まれたクリスティアナとフレイユのほうが、ずっと洗練された戦い方だった。
「なぜだ! なぜ俺は最強になれねぇぇ!」
「他人から奪うだけで、自分の技を磨かない奴が、最強になれるわけないだろ」
そしてファングは、俺たちの一斉攻撃で死体も残さずに完全消滅した。
そのせいで魔王のカケラを回収できなかった。
なんだかんだで、手加減する余裕がないほど強かった。
これでもしファングが技を磨いていたらと思うとゾッとする。
「ファングが持っていた魔王のカケラは四散して、また誰かに宿るでしょう。つまり、これからどこかで生まれてくる赤ん坊たちが、新たな魔王のカケラ保有者になります」
そうフレイユが語る。
「持ち主を倒しただけじゃ……いや、カケラを回収できたとしても、根本的な解決にはならないってことですね」
俺は呟く。
やはり、塔の最上層を目指すしかない。




