64 ノイズ再び
「何、だ?」
「なぁに、これ」
俺とクリスティアナは同時に疑問を口にする。
つまり、こいつにとっても想定外の事態。
まさか、更なる乱入者が現われたのか?
その疑問を肯定するように、ボロぞうきんのようになったアレクスが森の奥から飛んできた。
無様に地面に落ち、ゴロゴロと転がってクリスティアナの前に倒れる。
「まあ、アレクス。一体どうしたの? あなたをこんなにしてしまう相手なんて、どこの達人かしら?」
クリスティアナは突っ立ったままアレクスを見下ろし、どこか楽しげに問う。
一方、アレクスは苦痛に顔を歪めていた。
肉体的な痛みと、主人の前で恥をさらした心の痛みが混じっているように見える。
「申し訳ありませんクリスティアナ様……あなたの期待に応えることができず……あの少女に、敗北しました……」
「あらあら。それはとんだダークホースね」
クリスティアナの声は歌っているかのよう。
この状況が楽しくて仕方がないという様子だ。
が、俺は微塵も笑えない。いや、どう反応していいのか分からない。
「クラリスさんがお前をそんなにしただと……?」
まだ戦い方をほとんど知らない、あのクラリスが?
少し間が抜けているけど頑張り屋で、心優しいあのクラリスが?
このレベル99の男を、ズタズタにしたというのか?
嘘だ。あり得ない。不可能だ。
「クリスティアナ様……あのクラリスという少女……あなたと同じく『魔王のカケラ』を宿しています。間違いありません」
アレクスは消え入りそうな声で呟く。
それを聞いた瞬間、クリスティアナは目を丸くし、それから「へえ!」と嬉しそうに声を上げる。
「何ということかしら。まさかこんなところでお仲間に出会えるなんて。偶然って恐ろしいものねぇ」
「はい……ああ、それにしてもクリスティアナ様。そのお姿は……服も体もボロボロではありませんか!」
「こんなのかすり傷よ。あなたに比べたらどうってことないわ」
「くそ……貴様ぁっ! よくも私のクリスティアナ様を傷つけたなァァァッ!」
ほとんど死にかけに見えたアレクスが、不意に大声を上げ、全身から血を噴きながら立ち上がった。
クリスティアナの頭と腹にわずかな傷をつけ、服を破いたというだけで――彼は瀕死の体に鞭打って立ち上がり、俺と戦おうとしている。
そこまで彼女に心酔しているというのか。
この女にそれほどの価値があるのか。
一つ分かるのは、アレクスはこの上なく真剣であり、常時命がけであるということだ。
しかしクリスティアナはアレクスの命がけの覚悟をせせら笑い、あろうことか足払いをかけて転ばせてしまった。
「アレクス。何を勝手に死ぬ気になってるのかしら? あなたは私の所有物よ。死ぬ許可を出した覚えはないんですけど? それと、一体いつから私はあなたのものになったのかしら?」
「も、申し訳ありません……つい……」
「まったく、アレクスは欲深い男ね。私に飼育してもらえるだけじゃ飽き足らず、私を自分のものにしたいだなんて。あとでお仕置きよ」
「ああ、クリスティアナ様……」
アレクスは血まみれで地に伏したまま、幸福に満ち満ちた表情になる。
そんな彼に、クリスティアナはようやく優しげな顔を向け、そして両腕で抱き上げた。
「さて、ラグナくん。あなた、あの子とともに歩もうとするなら、とっても大変よ。あなたはこれから選択しなきゃいけないわ。どんな道を選ぶか……私、とっても楽しみ。だから今日のところはこれで帰ってあげる。近いうちにまた会いましょう。もっとも……ラグナくんはここでクラリスちゃんに殺されちゃうかもしれないけどね」
クリスティアナは翼をはためかせ、一気に森の上へと飛んでいった。
「おい、待て!」
俺の声は虚しく響く。
もう彼女らの姿は見えない。
倒すのには失敗した。
だが敵は去った。
エルブランテの葉は俺のポケットの中にある。
つまり、勝ったのか……?
「クラリスさん……クラリスさんはどこだ!?」
俺はその名前を呼びながら、歩き出す。
すると、向こうからクラリスが歩いてきた。
何だ……無事だったんだ……心配させて……。
「クラリスさーん! ……クラリスさん?」
返事がない。
いつもなら俺の名前を呼びながらパタパタ走り寄ってくるのに。
そもそも、まとっている気配がまるで別人。
杖も持っていない。
というより。
あれは。
いや、まさか。そんな。
どうして。
どうしてクラリスの体に、黒いモヤがまとわりついているのだ。
どうしてクラリスの背中から、黒い翼が生えているのだ。
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名前:クラリス・アダムス
■ベル:3
・基礎パ■■ーター
HP:四0
M■:51(+20)
筋力:26
■久力:28
俊敏性:31
持久力:2八
・習得ス■ルラン■
炎■■:E 風魔法:F 回復魔法:G
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ステータス鑑定で彼女を調べると、ちゃんとクラリスのステータスが表示された。
けれど、ところどころにノイズが走っている。
それは魔族を調べたときのノイズにそっくりだった。




