61 森を進む
そして俺たちは、エルブランテがいるはずの森に到着した。
ここに来るのは俺も初めてだ。
前世で他の冒険者から、エルブランテの話を聞いたことがあるだけ。
俺に教えてくれた人は、実際にこの森に来てエルブランテを倒し、葉を手に入れたと言っていたから、不確かな噂話とは違う。
「うわぁ……こんなに鬱蒼とした森、初めて見たわ……」
巨大な木々を見て、クラリスは引きつった顔になる。
「怖じ気づいた?」
「そ、そんなわけないでしょ!」
クラリスは率先して森に入っていく。
俺はそのすぐ後ろを追いかけた。
もちろん馬も連れて行く。こいつの背中には、あと二週間分の食料が積んであるのだ。
モンスターから馬を守らねばならないというハンデはあるが、食料なしで森に入るよりはずっといい。
それにしても、本当に凄い森だ。
晴れているはずなのに、木の葉に遮られ、曇りのように薄暗い。
地面には太い木の根が這い回り、その表面はコケで覆われている。
「ラグナくん、あの辺で何か動かなかった?」
「うん。俺もそう思った。警戒して」
そう呟きつつ、俺は剣に手をかける。
クラリスも杖を握りしめた。
その次の瞬間。
木の陰から緑色のスライムが現われた。
「ファイヤーボール!」
クラリスの攻撃魔法が命中。
しかしスライムは勢いそのままに向かってきた。
「ええ、スライムなのに!?」
「スライムは場所によって強さが違うのさ!」
俺は緑色のスライムを一刀両断にする。
「ラグナくん、流石ぁ。それにしてもスライムのくせに一発で死なないなんて……炎魔法のランク、上がってるはずなんだけどなぁ」
「落ち込まないで、クラリスさん。一層にいた青いスライムなら一発で倒せると思うよ。ただ、さっきも言ったけど、スライムは場所によって強さが変わるんだ。上の層に行くと、また別の色のスライムが出てくる。当然、今の奴より強い」
「へえ……スライムだからって舐めてちゃ駄目なのね」
「そういうこと」
俺たちは再び歩き出す。
ちなみに馬は、まるで怯んだ様子がない。
この森に来るまでも、何度か戦闘があったが、実に落ち着いたものだ。
きっと何度も冒険者に貸し出されている間に、慣れてしまったのだろう。
度胸が据わった馬である。
しばらく進むと、川が現われた。
そこで休憩し、馬に水を飲ませる。
「冷たくて美味しい水ね。でも、どうやって渡ろうかしら」
「結構、幅があるからなぁ……クラリスさんには泳いでもらうとして……」
「私、この前、初めて泳いだのよ! こんな流れが急な川で泳げるわけないでしょ!」
「冗談だよ。真ん中に岩が出っ張ってるから、あそこまでジャンプして、もう一回ジャンプすれば向こう岸まで行けるでしょ」
「え、あんな遠いところまでジャンプするの!?」
クラリスはのけぞって驚いた。大げさな。
「できるでしょ。クラリスさん、レベル上がって筋力も上がってるんだから。前とは身体能力が全然違うんだよ」
「そうなの? じゃあ、ちょっと試しに……」
クラリスはぴょんとジャンプした。
自分がどのくらい飛べるのか、本当に全く分かっていなかったようで、進行方向にあった木に顔面からつっこんだ。
「ふぇ……HPが3減った……」
「攻撃判定が出るほどの勢いで突っ込むとは……でも、これで分かったでしょ?」
「ええ。これならあそこまでジャンプできるわ! とう!」
そしてクラリスは、川の真ん中の岩を目指して跳びはねた。
見事、着地。
ただし、片足だけ。
もう片方は水面に落ちた。バランスを崩したクラリスは、そのままドボンと川に全身を沈めてしまう。
「クラリスさん!?」
「あぷっ……大丈夫……」
クラリスは自力で岩によじ登った。
ふぅ……流されなくてよかった。
やれやれ。危なっかしい人だなぁ。
岩の上に立ったクラリスは、二度目のジャンプ。
今度は何事もなく、向こう岸に辿り着いた。
よし。
今度は俺と馬の番だ。
「大人しくしててくれよ」
「ひひーん?」
俺は馬の下に回り込み、両腕で持ち上げる。
そして岩までジャンプ。向こう岸までジャンプ。
「はい、到着」
「ひひーん!」
馬を地面に降ろすと、興奮した様子で吠えた。
「ビックリさせてごめんよ。でも、ああするしかないじゃないか。どうどう」
俺は馬の首筋を撫でる。それで大人しくなってくれた。
うーん、やはり肝が据わってる。
「へっぷしゅんっ!」
ずぶ濡れになったクラリスが、盛大なくしゃみをした。
このままでは風邪を引いてしまうので、木を適当に集めて、焚き火をすることにする。
「はい、クラリスさん。ファイヤーボールで火をつけて」
「ファイヤーボっくちゅん!」
魔法の名前とくしゃみが混じったが、ちゃんと火の玉が出てきて着火した。
「ああ~~暖まる~~」
クラリスは焚き火の前に座り込み、しみじみと呟いた。
「クラリスさん、何だかおばあちゃんみたいだよ」
「むむ。それは年上過ぎるわ! 私はお姉ちゃんにはなりたいけど、おばあちゃんは早すぎる!」
「だったら足を滑らせて川に落ちるなんてことしてないで、もっと機敏に動いてよ」
「はーい」
クラリスは返事こそ素直だったが、ふてくされた顔をしていた。
さて。
俺は彼女と並んで暖をとりつつも、周囲を警戒し続けねばならない。
この森は地上に光があまり届かないから茂みこそないものの、大木に大岩と隠れるところだらけだ。
どこからモンスターが現われるか分からない。
ほら、早速出てきたぞ。
「ん? またなんか来た?」
「クラリスさんは服を乾かすのに集中してて。とうっ!」
俺は剣を振り下ろす。
それで木の上から伸びてきたツタは真っ二つになった。
短くなったツタは逃げようとするが、俺はそれを掴んで引っ張った。
すると頭上から丸い物体が落ちてきた。ツタはそこから伸びている……というより、その物体自体がツタが丸まってできているように見える。
まるで毛玉だ。大きさは馬車の車輪くらいあるけど。
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名前:ツタダマ
説明:ツタが丸まったような姿のモンスター。体を伸ばして攻撃してくる。
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「アイシクルアロー」
俺はツタダマに氷の矢をぶつける。
流石にそれだけでは死ななかったが、凍ったことで動けなくなる。
そこに斬撃を撃ち込みトドメを刺す。
よしよし。魔法と剣術を組み合わせて、実に魔法剣士って感じだ。
「ラグナくん、格好いい~~」
クラリスも褒めてくれた。
「それほどでも」
「自慢げに澄まし顔のラグナくん、かわいい~~」
……かわいいより格好いいのほうがいいなぁ。
ま、貶されてるわけじゃないから、どっちでもいいんだけどね。
そのあと三匹のモンスターを倒したところで、クラリスの服は乾いた。
俺とクラリスと馬は、再び歩き始める。
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