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59 ジャイアント・ヤマメ

 ロミーとエマと別れてから、俺たちはメヤームシティの近くで『レベル上げ、兼、路銀稼ぎ』をすることにした。


 メヤームシティを網の目のように走る水路は、いくつもの川から水を引いている。

 その川の一本に行く。

 俺は手頃な石を拾って、川に投げた。

 すると、俺よりも大きな魚がバシャッと水しぶきを上げながらジャンプした。



――――――――――――――――――――――――――――――――――

名前:ジャイアント・ヤマメ

説明:二層に広く分布する魚型モンスター。水中を素早く移動するので攻撃を当てづらいが、陸に上げてしまえばこちらのものだ。

――――――――――――――――――――――――――――――――――



「クラリスさん、今だ!」


「ファイヤーボール!」


 クラリスの放った攻撃魔法が見事、空中で命中する。

 その爆発で気絶したジャイアント・ヤマメは、死んだように動かなくなり川の表面を流れていく。

 そこにすかさず二発目。

 それがトドメになった。死体が光になって消える。


「あ、ドロップアイテムだ」


 ジャイアント・ヤマメが消えたあとに、それをそのまま小さくした姿の魚が流れていた。

 俺は慌てて川をバシャバシャ走り、それを拾って川岸に戻ってきた。



――――――――――――――――――――――――――――――――――

名前:ヤマメ

説明:ジャイアント・ヤマメが死亡し、縮んだ姿。食用に適している。

――――――――――――――――――――――――――――――――――



 あらかじめ用意しておいたバケツにそれを入れる。

 まだ一匹目だ。バケツが一杯になったら街に持っていって売る。

 レベル上げと路銀稼ぎを兼ね備えた、有意義な時間だ。


 二層に来てからクラリスが戦いに慣れてきたこともあって、狩りはリズミカルに進む。

 だが、俺は心に引っかかるものを感じていた。


 エマの具合は、とても悪そうだった。

 顔は赤くて、息が荒くて。

 俺たちの話を聞いてるだけでも辛そうだった。

 でも楽しそうだった……街の外の話を聞くだけで、凄く楽しそうだった……。


「クラリスさん、ごめん。一回ストップ」


「うん? どうしたの?」


 バケツにヤマメが五匹入ったところで、俺は中断を申し出た。


「……これはクラリスさんには関係ないし、実のところ、俺にも関係ないと言えば関係ないんだけど……俺はどうしてもエマを放っておけないみたいだ。あの子の病気を何とかしてあげたい。治せないにしても、少しはマシにしてあげたい。だから、レベル上げを明日から何日か、中断してもいいかな?」


 俺は二層に来て真っ先に、クラリスを半年でレベル5にすると宣言した。

 それに見合った頑張りを彼女に期待した。

 なのに、一生懸命頑張っている彼女にレベル上げの中断を提案している。

 それも、前世の妹の孫を助けてやりたいから、という酷く個人的な理由で。


 クラリスが何と答えるか、俺は少し怖かった。

 前世の俺に、仲間らしい仲間はいなかった。一時的にパーティーを組むことがあっても、クラリスのようにずっと一緒にいる相手はいなかった。

 お互い都合が悪くなれば、すぐに別れてしまう。そんな気楽な人間関係しか、俺は知らない。


 もしクラリスが、レベル上げを優先したいと言ったら。

 エマを助けるのは一人でやってと言ったら。

 俺はどうしたらいいんだろう?


 そんな悩みを吹き飛ばすように、クラリスは言う。


「え! ラグナくん、エマちゃんを助ける方法、知ってるの!? もう、どうしてそれを早く言わないのよ。レベル上げなんてしてる場合じゃないわ!」


 いいとか悪いとかではなく、どうして早く言わないのかと叱られてしまった。

 それを聞いて俺はポカンと口を開け、それから笑ってしまった。


「むむ? 何を笑ってるの?」


「いや、安心したんだよ。クラリスさんがレベル上げを止めてもいいって言ってくれて」


「そんなの当たり前でしょー。もう、ラグナくん、私のこと何だと思ってるの?」


 クラリスは少し怒った顔で、俺の頬を引っ張った。


「うん、ごめん。クラリスさんならそう言ってくれるって信じてたんだけど、ちょっと不安だった」


「ラグナくんでも不安になるんだぁ。でも大丈夫よ。お姉さんを頼りなさい!」


「うん、頼りにしてるよ」


「えへへー、頼られちゃったぁ」


 クラリスは、にへらぁと締まりのない笑顔になる。

 俺にはそれが妙に頼もしく見えた。

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