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53 新しい剣

「さて。我々はここで退散することにしよう。ジョージたちを代官のところに連れて行くのは、君たちに任せる」


 と、イーデンが言い出した。


「え? じゃあ賞金はどうするんです?」


「それは君たちが全てもらえばいい。今回、我々は足手まといになるばかりで何の役にも立てなかった。賞金をもらう権利はないよ」


 それはそうなんだけど。

 一緒に山から下りてきたのに、賞金を俺たちだけがもらうというのは……ま、向こうがいらないと言ってるんだからいいか。


「ラグナくん、本当にこれでいいのかしら?」


 立ち去るイーデンたちの後ろ姿を見ながら、クラリスが呟く。


「実際、あの人たちが足手まといだったのは確かだし。むしろ護衛料もらいたいくらい助けてあげたし。いいんじゃないかな?」


「そ、そっかぁ……ラグナくんって、割とドライよね……」


「冒険者はこのくらいじゃないとやっていけないよ。お金は沢山あったほうが安心だし。というわけでジョージ。君の家まで案内してよ」


「わ、分かってるよ!」


 ジョージは素直にそう返事する。

 しかし、取り巻きの二人は嫌そうな顔だった。


「ジョージさん。こんなガキたちに助けられたってお父上に知られたら、恥ずかしくないですか?」


「そうですよ。何とかなりませんか?」


「うるさいな。実際に助けられたんだから仕方ないだろう!」


 取り巻きの二人、あの状況から助けられたのに、それを認めるのすら嫌なのか。

 たまげたなぁ。

 まあ、世の中にはそういう恥知らずな奴がたまにいるけど。


 さて。

 ジョージの案内で到着した代官の家は、想像していたとおり大きくて立派だった。

 なにせ代官は、公爵の代行として町を統治している偉い人だ。


 このアディールシティはベルナー公国の一部であり、ベルナー公国で一番偉いのは公爵だ。

 しかしベルナー公国には町がいくつもある。その全てを公爵が自ら統治するのは不可能。

 よって代官が派遣されるわけだ。


 代官はあくまで公爵の代行であり、領主ではないので、自治権はない。

 公爵から給料をもらいながら、ベルナー公国の法律に従って粛々と仕事をするだけだ。

 それでも、それ相応の給料をもらっているから、こういう大きな家に住める。


 ジョージは取り巻きの二人に「お前たちはもう帰っていいぞ」と告げる。

 そう言えば、賞金がかかっているのはジョージだけで、シューとモグは関係ないんだった……。


 家の中に入ると、執事がジョージを見てギョッとした顔になる。

 それから「よくぞご無事で!」と大喜びし、代官を呼びに行った。


 二階から降りてきた代官は、いきなり「このバカ息子が!」とジョージをぶん殴った。

 俺とクラリスはびっくりする。

 けど、置き手紙だけを残して行方不明になったのだから、当然の反応かもしれない。


「私がどれだけ心配したか分かっているのか!?」


「パパ……ごめんなさい。僕はただ、もっと強い冒険者になりたくて……」


「強い冒険者になりたいなら地道にレベル上げをしろ! メタル系モンスターで近道をしたところで、本当の強さが身につくものか! 現にお前はレベルに見合った戦い方ができないではないか。一度運良くメタル系を倒せたからと、メタルスレイヤーなどを自称しおって……恥を知れ!」


 この代官、とてもまともなことを言っている。

 俺はてっきり、ジョージを甘やかしまくってるバカ親だと思っていたのだが。

 こんな厳格そうな父親の元で育って、ジョージはどうしてアホになったんだろう。


 殴られたジョージは、ばつが悪そうにうつむき、反論せず黙っていた。

 少しは反省しているのかな?


「さて……君たちが息子を見つけてくれたのだな。ありがとう。このバカ息子は一体どこにいたのだね?」


「それがですね」


 俺は、ドラゴンが住む山にジョージたち三人がいたことを説明した。

 すると代官は目を丸くし、ギョッとした顔になる。


「あの山に……! あそこだけは近づくなと何度も言ったというのに! いや、説教はあとだな……まずは君たちに約束の賞金を渡さないと。さあ、受け取ってくれ」


 代官は布の小袋を出した。

 受け取って中を確かめると、金貨がじゃらじゃら二十枚。

 二人で一ヶ月は生活できる金額だから、迷子の子供を連れ帰る報酬としては、かなり高めと言える。


「金貨だ! ラグナくん、私たち、お金持ちね!」


「確かに生活に余裕ができるけど……剣が折れちゃったから赤字なんだよなぁ」


 と、俺がぼやいたら、ジョージが怪訝そうな顔になった。


「お前の剣、折れたのか?」


「うん。完全にポキッといったから修理もできないと思う」


「そうか……だったら、この剣を持っていけ」


 なんと、ジョージは自分の剣を差し出してきたではないか。

 この性格の悪い男が……何か企んでいるのか、と一瞬思ってしまったが、別にそういうわけでもなさそうだ。


「……いいの?」


「悔しいが、僕はお前に助けてもらった。なのに赤字にさせたら、僕の名が廃る。持っていけ!」


 おお。

 プライドの高さがいい方向に働いたんだな。

 親の権威を笠に着て威張っているよりはずっと格好いいじゃないか。



――――――――――――――――――――――――――――――――――

名前:鋼の剣

――――――――――――――――――――――――――――――――――



 ステータス鑑定を使うと、それだけの情報しか出てこなかった。

 本当に何の変哲もない、鋼でつくられた剣なんだな。

 とはいえ、俺はお土産屋でこの剣を一度、弾いている。だから、それなりに作りがいいのは分かっている。

 これをくれるというなら本当にありがたい。


「ありがとう。使わせてもらうよ」


「その剣で多くのモンスターを倒してくれたまえ。君は僕がライバルと認めた唯一の男だからな」


 そう言ってジョージは前髪をふぁさっとかき上げた。

 ライバル……?

 え、マジで?

 どの辺りが?

 調子に乗りやすい性格は、まだまだ直りそうもないなぁ。

 代官はちゃんとこいつを、まともな人間に育てることができるのだろうか……と心配しつつ、俺とクラリスは屋敷をあとにした。

書籍版1巻はGAノベルから1月15日発売予定です。

すでにAmazonなどで予約が始まっています。

よろしくお願いします。

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