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39 二層のモンスターと遭遇

「私たちが目指してる町って、転送門から一番近いでしょ? そこで売ってるお土産を買って、塔の外に持ち帰ると、二層から生還した勇者として認められるんだって」


 地図帳を読みながら歩くクラリスがそんなことを教えてくれた。


「……転送門から歩いて一時間くらいだよ。そんな簡単でいいのかな?」


「うーん……モンスターもそんなに出てこないし……確かにそれだけで勇者って大げさな気がするわね」


 そうクラリスが考え込んだとき。

 川から一匹のモンスターが陸に上がってきた。

 それは俺の身長と同じくらいの大きさのヒトデだった。


「ラグナくん、何か出てきたわよ! あれもモンスター!?」


「うん。レッド・ダイヒトデーってモンスター」


「ダイヒトデー! 強そう! でも見た目は可愛いわね」


「可愛いと言えば可愛いかな?」


 レッド・ダイヒトデーは名前の通り赤い。

 五本ある突起のうち二本を足のように動かし、てくてく歩いている姿は、クラリスが言うように確かに愛嬌がある。


「ねえ、あれなら私でも勝てるんじゃない!?」


「うーん……レッド・ダイヒトデーは二層ではかなり弱いほうだけど、それでも無理だと思うよ。もの凄く上手に立ち回れば、もしかしたら勝てるかもしれないけど。分が悪い」


「つまりチャンスはゼロじゃないってことね! 挑んでもいい!?」


「ま、いいか。怪我しても俺が回復させればいいだけだし。即死だけは避けてね」


「分かったわ! うりゃぁぁ!」


 俺が戦闘の許可を出した瞬間、クラリスは雄叫びを上げながら杖を振り上げ、レッド・ダイヒトデーに向かっていった。

 ……え? 殴りかかるの? 魔法で攻撃するんじゃなくて?

 無茶すぎると呆れてみていたら、案の定、クラリスの攻撃はヒトデにペシッと弾かれた。

 そしてヒトデのビンタがクラリスに直撃!


 クラリスは放物線を描いて飛んだ。

 そして頭を岩にぶつける。

 HPが残っているので怪我はしていないが、衝撃は緩和しきれず、目を回して伸びてしまった。


「……馬鹿じゃないの?」


 俺は呆れた声を出すが、気絶したクラリスには当然、聞こえない。

 とりあえず、減ったHPを回復してやるか……。



――――――――――――――――――――――――――――――――――

名前:ライフヒール

説明:消費MPは15。対象のHPを50回複する。

――――――――――――――――――――――――――――――――――



 さっきまで散歩するように歩き回っていたレッド・ダイヒトデーだが、クラリスに殴られたことで、彼女を明確に敵と判断したらしい。

 地面に伸びた彼女へまっすぐ歩いて行く。


「やれやれ」


 俺は剣を抜く。と同時にヒトデとの距離を詰め、すれ違いざまに一刀両断にした。

 バラバラになったヒトデの死体は、光の粒子となって消えていく。

 塔のモンスターは、死ぬとこうして消滅してしまうのだ。

 つまり、いつまでも死体が残っていたら、それは死んだふりということだ。


「しまった。剣じゃなくて魔法で倒せばよかった……前世の癖が抜けないなぁ。それに、早く倒さないとクラリスさんが危なかったし。ほら、クラリスさん、起きてよ」


 俺は伸びているクラリスの肩を揺する。


「う、うーん……あれ? ダイヒトデーは?」


「俺が倒しちゃったよ。クラリスさん、殴りかかるのは無謀すぎるよ。遠距離から魔法を撃てば、もっとまともに戦えたのに」


「だって……せっかくラグナくんが杖を強化してくれたし……それに可愛いから弱そうに見えたのよ!」


「外見で判断しちゃ駄目だよ」


「うん……言われてみたら、ラグナくんだって可愛いけど強いもんね」


「そういう納得の仕方? ま、いいけど」


 確かに俺は、前世のステータスをそのまま引き継いでいるので、見た目と強さの差が激しい。

 女顔過ぎてどうかと思っていたが、クラリスの理解に役立つなら、母親似に産まれた甲斐もある。


「一瞬だったけど、二層のモンスターの強さは分かったでしょ。一人で挑むのは早い。でもクラリスさんは『成長負荷の印』があるから、レベル3になれば普通の人のレベル5並のパラメーターになる。慎重にやれば、レッド・ダイヒトデーくらい倒せるよ」


 慎重にやるというのは、つまり、考えなしに杖で殴りかかったりしないということだ。


「本当!? レベル5並ってことはレベル4の校長先生より強いってことね!」


「数値上はね」


 パラメーターの数値が高いのは、圧倒的に有利だ。

 しかし絶対とは言い切れない。

 戦闘技術が卓越している者は、少々のレベル差を跳ね返してしまう。

 校長は六十二歳だと言っていた。その歳になるまで剣技を磨いてきた男だ。

 クラリスがパラメーターでわずかに上回ったところで、決して勝てはしない。


「クラリスさん。当面の目標は、クラリスさんのレベルを3にすること。そうなってから初めてクラリスさんにはモンスターと一対一で戦ってもらう。二層で弱めのモンスターを安定して狩れるようになってもらう」


「私が一人で狩るの……? なるほど。それで戦闘技術を磨くのね!」


「そういうこと。もちろん、後ろで俺が見てるけど。それで半年以内にクラリスさんにはレベル5になってもらう予定だ。それから三層を目指す」


「ふむふむレベル5ね……って、ええ!? 半年でレベル5ぉ!」


 クラリスは半歩後ろに下がり、大げさに叫んだ。

 そんなに驚かなくても。


「そうだよ。最上層を目指してるんだ。そのくらい当たり前でしょ」


「でもでも! 私は『成長負荷の印』だから、普通の人よりレベル上がるの三分の一の速さなんでしょ? それなのに半年でレベル5って……」


 クラリスは信じがたいという口調だ。

 塔の外、ヴァルティア王国で最強の冒険者だった校長は、老人になるまで戦い続けてレベル4だった。

 それを考えると『成長負荷の印』というハンデを背負ったクラリスが、半年でレベル5になるのは夢物語のように聞こえるかもしれない。


「大丈夫。ここは二層だ。モンスターが強い分、得られる経験値は一層よりずっと多い。それに俺は効率のいいレベルの上げ方を知っている。あとはクラリスさんが頑張るだけだよ」


「ラグナくん……分かったわ! 私、ラグナくんを信じて頑張る!」


 クラリスはグッと拳を握りしめて、闘志を全身から放った。

 彼女のこういう頑張り屋なところが俺は好きだ。

 ポンコツなところもあるが、やると言ったからにはやり遂げてくれるに違いない。

次からは二日のペースで更新していく予定です。

よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「でもでも! 私は『成長負荷の印』だから、普通の人よりレベル上がるの三分の一の速さなんでしょ? それなのに半年でレベル5って……」 の三分の一の速さって分かりづらいので「普通の人より…
[気になる点] クラリス必要なの?ただのお荷物でしかないような…。 将来的に仲間が必要なら、もっと後からでも良さそうに思うんですが。。。
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