26 成長負荷の印
七時半になると、アラン先生が新入生を迎えに来た。
約四十人の新入生は、ゾロゾロと校庭に移動する。
そして校長の演説を聞いてから、教室に移動する。
「俺が一年生の担任をすることになったアラン・アルバーンだ。剣の授業を担当している。卒業までの三年間、よろしく頼む!」
アラン先生は教壇に立ち、気合いたっぷりの声を出す。
前、俺の担任にならないよう校長に頼むとか言っていたけど……やはり、それが裏目に出たんだろうか。
なんにせよ、今はやる気になっているみたいだから大丈夫だろう。
「さて。今日は初日だから、自己紹介から始めるか。名前と適当なプロフィールを喋っていけ」
そして順番に自己紹介タイムだ。
俺の番になると、教室が少しザワついた。
「あの子よ。校長先生を倒しちゃったの」
「あんな小さいのに……」
「校長より強いなら、この学校で学ぶことなくね?」
「それが剣じゃなくて魔法を学びに来たらしいわよ」
「あんなに剣で強いのに、おまけに魔法まで学ぼうってのか……」
ヒソヒソと噂話が聞こえてくる。
おおむね真実を話している。
俺を馬鹿にするような内容でもないので、不愉快にはならなかった。
「ラグナ・シンフィールド、七歳です。得意なのは剣ですが、魔法も極めてオールラウンダーになります。目的は『天墜の塔』最上階に行くこと。もし志を同じにする人がいたら、パーティーを組みましょう」
最上階。
それを口にした瞬間、教室が静まりかえった。
俺が着席したあとも、それは続く。
「ラグナの迫力に飲まれるのは分かるが、まだ半分も自己紹介が終わってないぞ。ほら、次の人」
アラン先生に催促され、俺の後ろに座っていた奴が立ち上がった。
そうやって自己紹介が進んでいき、クラリスの番がやってきた。
「クラリス・アダムス、十三歳です。得意なのは風魔法と炎魔法。回復魔法も使えます。ラグナと同じく……塔の最上階を目指してます!」
彼女は叩きつけるように言い放ち、即座に着席した。
すると、俺の近くに座っていた女子たちが、ニヤニヤしながら呟き始めた。
「ねえ、聞いた? あの子も最上階だって。あの子の印、知ってる?」
「知ってる。昨日、お風呂場で見たぁ。笑っちゃうよね」
「そうそう。『成長負荷の印』って『無能の印』以下のハズレじゃん」
「入学試験の動きを見る限り、かなり努力してる感じなんだけどねー。『成長負荷の印』ってことは、あの子、レベル2になれないじゃん。かわいそー」
くすくす。くすくす。
クラリスをあざ笑う声が聞こえてきた。
そうか。彼女は『成長負荷の印』の印だったのか……メッチャ当たりじゃねーか!
まあ、この国でハズレ扱いされる理由も分かる。
しかし、俺の『上限突破の印』に比べたら、よっぽど早く効果を得られる印だ。
もしかして今朝、クラリスが思い詰めた顔で俺の誘いを保留したのは、印のせいなのか?
だとすれば、彼女に『成長負荷の印』がいかに素晴らしいものか、教えてあげないと。
だけど……信じてくれるだろうか?
この国でずっと常識として語られてきたことに対して、七歳の俺が「そうじゃない」と急に言い出しても、説得力はあまりなさそうだ。
少し様子を見よう。
どのみち、この学校にいる間は『成長負荷の印』の真価を発揮できない。
あれは塔でレベル上げをしないと無意味だ。
休みの日に彼女を塔に誘うか。
だが、普通にモンスターを数匹狩っても仕方がない。
しっかり計画を練らないと……。




