097話 開拓村の騒動 2
-サマリード領 フォート開拓村-
「そうか、ここはもうサマリード領なのだな。私達は住む所を失って彷徨っている。こちらの領地で住む事を許して貰えないだろうか」
『住む所が無い』って事は彼らは『難民』という事か。しかし最近になって紛争が起きたとは聞かない。火事や自然災害で村ごと潰れたとか?有り得なくは無いがここに着くまでにはトリスタンもカラムも在る。カシムーン領の方が条件は良いはずだ。わざわざサマリード領にまで来るのは少し不自然だな?
「元はどちらに住まわれていたのですか?」
「・・・ガゼル山脈だ。私達は『山の民』だ」
メリッサが素早く弓を構える。既に矢を番えて何時でも撃てる状態。展開次第では目の前の女はその矢に貫かれる。いや、その殺気はどうかと思うぞ。相手は無抵抗だし、少し落ち着こうか。
「なるほど。お話をするに当たって、まずはお名前を伺ってもよろしいですか?」
一触即発だな。ここは冷静に行こう。何か判断するにも情報が必要だ。
「私の名はアイラ・・・アイラ・モルバンと言う」
おぉ、名前聞いて思い出したわ。見た目が全然変わってて気が付かなかったけど、こいつら俺が潰した山賊の残党だ。確かこいつが族長筋だったっけ。もっと居たはずだけど二十数名か。これでも残った方なのかな。確かに来る様に誘導はしたからなぁ・・・何となくその場の思い付きで言っただけで、全然期待してなかったんだが本当に来ちゃったか。兎に角、まずはメリッサに武器を下ろさせよう。
「メリッサさん、弓を下ろして下さい。今の彼らには敵対意志は無い様です」
「マリーナ?いったい何を言って「良いから下ろして下さい。話が出来ません」」
メリッサの反応は当たり前だ。ガゼル山脈に居たのは山賊だけ。つい先日討伐されたのは皆が聞き及んでいる。その生き残りが目の前に居るのだから警戒するのが当然。とは言え、相手は痩せ細っていて抵抗しようも無い姿勢だ。武器での威嚇は不要だろう。
「ともかく、相手は話をすると言っているのですし、私が弱り切っている彼らに後れを取るとでも?」
そう言うとメリッサも渋々だが弓を下ろした。納得はしていない表情だがな。
「アイラさんは『山の民』と仰られましたが、それは私達には『山賊』と同義なのです。つまり貴方達はつい先日討伐されたはずの生き残りということになりますが、その認識でよろしいですか?」
「・・・・・・その通りだ」
あれから随分と悩み、考えたのだろうな。どうにか事実を受け入れられたらしい。
「貴方達の事は領主へ報告します。処遇はどうなるか分かりません。逃げますか?」
「・・・いや、私達は疲れ切っている。逃げる当ても無い。この上はどんな処遇でも受け入れよう。素直に従うよ」
気力体力共に限界って感じだな。残念だが俺には決める権利が無い。政治的には後腐れ無く全員殺すという選択肢も充分有り得る。件の山賊は王家に敵対していたし、素性が知れた以上は下手に助けると王家の機嫌を損ねかねない。哀れとは思うがこればかりは軽々に判断出来るものでもない。
「分かりました。では結論が出るまでここでの生活を許します。なるべく汚さずに使うようにお願いします」
「有難い。それだけでも皆助かる。ご厚情、感謝する」
アイラは額を地に着けて礼の言葉を述べた。この世界にも土下座って有るのか?両膝をついた姿勢から頭を下げたんでああなっただけかも。何とも分からんな。
「メリッサさん、急いで戻りましょう。よろしくお願いします」
軽く頷くとメリッサは足早に馬を取りに向かった。事態が事態だけに普段よりも緊張気味なのは仕方あるまい。あの時は勢いで色々と言ってしまったが、こういう事態に為るとは予想していなかったからなぁ。まぁ、彼らが山賊に戻るとは思えないし、労働力が増えるのは歓迎すべき事だ。
しかしメリッサの態度からしてもそのまま受け入れるのは問題外って事に為るな。かと言って折角の労働力になりそうな奴らを殺してしまうのは勿体ない。何か良い落としどころを探さねばならんか。




