092話 傭兵達の噂
-コールマン領 クルスク鉱山都市 領主執務室 ロメル・コールマン-
先日のサマリードからの手紙も書いてあるのは同じ様な内容だった。条件が厳し過ぎるので譲歩してくれ、いつも結論はそれだ。少しも変わってはおらん。
ハミルめ、相も変わらず分を弁えぬ男だ。妹の夫だからと甘く考えているのではあるまいな。領地を持つ立場の者がそのような考えでは相手として不足なのだと何故理解出来ぬのだ。
我がクルスクは今でこそ一目置かれる様にはなったが、あくまでも近年の話であって、先代以前は碌に発言も許されない弱い立場であった。日々頭を巡らせ、知恵を絞り、時には厳しい決断を下し、その積み重ねの基に現状が有る。今ではラジャイナ家の催しに参加を許される程度には領内で影響力を持つに至った。それがこのコールマン家なのだ。
その努力の末に得た秘訣や技術の教授を許されるだけでも大いに感謝するべきで、対価が高過ぎて受け入れられんなどと、自分の立場が分かっておらんのか。クレアの事は気にはなるが、それとこれとは別に考えねばならん。せめて何か別の利点でも提示せねば話し合いにすらならんぞ。奴はそこが分かっておらん。困った男だ。
どうしたものかと悩んでいると、部屋へと執事のレフが入って来た。
「旦那様、遠征に出ていた傭兵隊が只今戻りました」
「そうか、状態はどうだ」
「3名が負傷、何れも軽傷です。死亡はおりません」
「分かった。そいつらは休ませてやれ。次の遠征まで必ず二日は空けろ」
「畏まりました。ところで、傭兵隊から旦那様のお耳に入れたい話が有る様です。どうなさいますか」
「ほう、代表者を連れて来い。場所はここで良い」
「承りました。お連れ致します」
各地に派遣している傭兵隊はその時々の見聞きした情報をもたらしてくれる。これが今のクルスクの強みを作っていると言っていいだろう。
独自に傭兵団を作り、商隊の護衛等を請け負って商売とする。私の代から始めた事業だが、予想通り需要が有った。素性の確かな傭兵を雇いたがる商人は思いの外多く、早期に領地の収益を好転させた。
個人での傭兵業は無茶をしがちだが、ここではそんな仕事は受けていない。熟練の傭兵を死なせては甚大な損害になるからだ。私の傭兵団では彼らも安定して稼げるため、腰を落ち着ける者達も多い。
彼らは各地を転戦するので独自の情報網を持っている。そこから得られる情報の価値は非常に高い。これが手に入るだけでも事業を立ち上げた成果が有ったというものだ。
「旦那様、お連れ致しました」
「うむ、話が有るとの事だがどういったものかね。聞かせて貰おうか」
「あぁ、先に断っておくが俺が直接見聞きしたもんじゃないってのは承知の上で聞いてくれ。以前に組んだことの有る連中と飲んだ際に『黒鎧の女』ってのが話題に上がってね。どうやら滅法強い奴らしい。そいつは『相手側に見付けたら逃げろ』と言ってた」
「ほう、今まで聞いた事の無い話だな」
「別の奴からもそいつの噂は聞いた。何でも今年の新人戦優勝者がどうもそいつじゃないかって話だ」
「ふむ。レフ、後で照会しておいてくれ」
「畏まりました」
「後これは別の商人から聞いたんだが、そいつはサマリード領の関係者らしい」
「何だと?」
「山賊に襲われていたところをそいつが通り掛かって単独で返討にしたって話だ。その時にサマリード家の馬車を護衛してたと言ってた」
「ほう・・・これは調べておく必要があるな」
「似た話を複数筋から聞いているので信憑性は高い。確証は無いが一応知っておいてくれ」
「分かった。レフ、彼に情報料を頼む」
レフは頷くと傭兵を連れて出て行った。
サマリードに傭兵だと?しかも山賊を単独で掃討する程の手練れか。ハミルめ、えらい隠し玉を持っていたものだ。調査してみないと分からんが、傭兵達が警戒するぐらいの腕利きだとすれば、味方に囲い込んでいた方が無難か?
うぅむ・・・いや、レフの報告を待とう。決めるのはその後だ。




