56話 武芸大会へ向けて 4
-商業都市トリスタン 北門付近 馬車の中-
トリスタンからの帰り道でタニア達が妙に歯切れが悪かった理由が分かった。
王国領域西端にはタジク王家が初期に取り込めなかった地域が有って、そこの宗教はナスルマ教ではなく、独自の神を祀っている。どうやらあの像はそこの祭神だそうだ。
100年以上も昔の話だが、タジク王家はそこへ遠征軍を派遣してボロ負けした歴史が有るとのこと。今でこそ友好的な関係だが、王国内では特例扱いになっている様だ。王国領ではあるが独自の治世が現在でも続き、同盟国の様な扱いを受けているとの事。王家が唯一賓客待遇で迎える領主だとか。
「そのイシュマルってところの神様なんですね。武装しているから戦神ですか?」
「その通り。戦神アウレラに因んだ恰好かぁ・・・まぁ悪くは無いのだろうがな」
タニアは苦虫を噛み潰した様な表情でそう言った。しかし、こんな僻地でも知られているとは、かなり有名な話と思っていいだろう。
自国にとって都合の悪い歴史を書物で残すことはまず無い。書物からしか知識を得られなかった俺が知らなかったはずだ。タブーに近い内容なのだろう。全体では共有されている認識で暗黙知として伝わっているということか。王家の機嫌を損ねる話題だからだな。
とは言え、今は敵国って訳じゃないし、数世代も前の話だ。事と次第に依ってはそのイシュマルとの友誼の切っ掛けになるかも知れない。知名度を稼ぐには寧ろ打って付けなのではなかろうか。
「うぅん・・・相当昔の話だからねぇ。今は王家もそこまで拘りは無いとは思うが」
「今は仲間なんだから難癖付けられたりはしないだろうけど、イシュマルの人達からはどう見えるかだよねぇ」
ああ、そっちの懸念も有るか。まぁ、勝てば大丈夫じゃないか?
「戦神の名に恥じない結果を出せば逆に人気が出る様な気もしますけどね」
今回の目的を達成するには目立つ事が重要だ。出るだけで話題に上がるなら却って都合が良いのではないかと思うがね。
「そう言われればな。見た目としては良く出来ているし、目を惹くのは確かだな」
「単に鎧として見ればマリーナに似合っているし、良いと思うよ」
取り越し苦労だと思うがなぁ。まぁ、大丈夫だろう。




